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社会

中国のお弁当文化から見える“気楽な子育て”「手作りせず、買えばいい」

中島恵(フリージャーナリスト)

2026年09月15日 公開


中国の餃子

日本では、子どものお弁当は「手作りするもの」という意識が根強くあります。一方、中国では祖父母や家事代行サービスなど周囲の力を借りながら子育てをする家庭も多く、お弁当も「必要なら買えばいい」と考えるなど、日本とは異なる子育て観が見えてきます。本稿では、ジャーナリスト・中島恵さんの著書『中国の回鍋肉にキャベツは使わない』をもとに、中国のお弁当事情や子育てをめぐる考え方をご紹介します。

※本稿は中島恵著『中国の回鍋肉にキャベツは使わない』(ウェッジ)より一部を抜粋・再構成したものです。

 

中国に「お母さんの味はとくにない」

故郷の味は誰にとっても懐かしく、かけがえのないものだ。世界中で移民受け入れに関する問題が発生しているが、海外で暮らしている人の中には、子どもの頃に食べた料理が忘れられないという人は多いだろう。

それをまた食べることができた張さんは幸せだと思うが、中には政治問題などで二度と故郷に帰らない(または帰れない)人もいる。

私は在日中国人にインタビューする際、ときどき「故郷の料理で何を思い出しますか?」という質問をする。たいていその地方の名物料理を教えてくれるが、「お母さんの味は何?」と聞くと、「うーん...」と考え込む人が少なくない。

日本で街頭インタビューしたら、「肉じゃが」「卵焼き」「カレーライス」「ハンバーグ」「みそ汁」などが上位になりそうだが、中国ではどうだろう。

もしあるとすれば「水餃」(水餃子)くらいではないだろうか。しかし、水餃子をあまり食べない地域もあるので、日本人にとっての「みそ汁」のような絶対的な家庭料理は中国には存在しないといってもいい。

「お母さんの味」をすぐに挙げられないのには、ほかにも理由がある。中国では夫婦共働きが多く、とくに都市部では母親が毎晩料理を作らない家庭が多いのだ。統計があるわけではないが、そういう話をよく聞く。

だから、北京や上海などの30~40代の人と話していると、「とくにない」という回答がけっこう多い。

 

子育ては祖父母やお手伝いさんが担う


中国の家庭のキッチン

夫婦共働き家庭で、子育ては誰がするのかというと、祖父母やお手伝いさんだ。中国人にとって祖父母の存在はとても大きい。日本では、基本的に子育ては夫婦でするもので、祖父母はあくまでも「たまにサポートする」程度の存在だ。もし近所に住んでいたら「毎日幼稚園のお迎えに行くのは祖母」という人もいるかもしれないが、できるだけ頼らないようにするという日本人が多いのではないだろうか。

だが、中国の場合は祖父母が子どもを育てているといっても言いすぎではないくらい出番が多い。

中国には日本の「保育園」のようなものはなく、行政のサポートも少ない。そのため、祖父母が手伝わなければ子どもを育てられない。少子化が著しくなってからは、

従来以上に子どもを大事にする中国人が増えたので、ますます家族総出で子育てを行うという風潮が広がった。

以前、北京に住む中国人から次のような話を聞いた。その中国人が春節に帰省しようと、故郷の河北省行きの長距離バスに乗ろうとしたところ、バス停に並んでいたのは、北京に住む子どもの家から自宅に帰る祖父母だらけだった、というのだ。春節には子どもや孫も帰ってくるが、一足先に祖父母だけ自宅に戻るところだったのだ。

ふだん、それくらい長期にわたって自宅を離れ、息子や娘の家で孫の世話をしているということだろう。

事情により祖父母が手伝えないという人はお手伝いさんを雇う(祖父母もいるのにお手伝いさんを雇う家庭も珍しくない)。都市部の中間層以上の家庭では当たり前で、住み込みもあるし、通いのお手伝いさんも多い。それを「贅沢だ」という風潮は一切ない。

そのため、もしかしたら、大人になって思い出す故郷の味は「お母さんの味」ではなく「お手伝いさんの味」という可能性もある。

 

中国式のお弁当作りは無理をしない

それに、日本人は母親が手作りすることにこだわったり、「手作りしなくちゃ」という強迫観念に捉われたりしがちだが、中国では、そういうところは全然こだわらない。

「無理して作らなくても、別に買ってくればいいんじゃない? その方がおいしいでしょう?」。そう合理的に考えるので、母親が毎朝5時に起きてお弁当を作る日本人の母親の苦労はなかなか中国人には伝わらない。そういう意味では、中国人のお母さんはとても楽だ。

それに、そもそも、中国ではお弁当を持っていかなければならないというシチュエーション自体あまりない。

幼稚園ではお昼ご飯が出るところが多いし、公立の小中学校は給食が出たり、学食があったりする。高校も学食が設置されているところが多い。中国人は「温かいもの」を好むので、冷めたお弁当は嫌がられる。以前、取材した上海の高校では、午前11時半くらいに、業者が「温かいお弁当」を各教室の前まで運んでいた。

日本でも昔は持参したお弁当を学校のストーブで温めた、なんていう時代があったが、日本人は「冷たいお弁当」にあまり抵抗がない。

だが、中国人はできるだけ温かい食べ物を食べたいので、学校にも食堂が設置されており、企業でも中規模以上の会社なら食堂がある。

私は中国のいくつかの学校の食堂や企業の社員食堂、工場の食堂に行って食べたことがある。たいていは数種類のおかずから2品か3品選び、ご飯、スープがつく。

お弁当を持参するのは、中小企業で、会社に食堂がなく、近所にもレストランがない人や節約したい人などに限られる。だが、中国でも「お弁当派」が増えた時期があった。コロナ禍のときだ。

食堂が閉鎖されたことも関係あるが、健康に注意する人が急に増え、野菜中心のお弁当を作って会社に持参するようになった。

私の友人もお弁当を作って会社に持っていっていたが、その友人によると、中国人は日本人のように彩りとか品数をまったく気にせず、1~2種類の炒め物とご飯だけというシンプルなお弁当が多いそうだ。

お弁当の中が水餃子だけ、ということもある。水餃子は皮(炭水化物)と肉や野菜などの具(タンパク質)の組み合わせなので、それだけで完成度が高い食事なのだ。そんなお弁当を、ランチ前になると会社の電子レンジで温める。そのため、休憩室の電子レンジの前に行列ができる...なんていう日本ではあまり見られない光景もあ
るそうだ。

 

著者紹介

中島恵(なかじま・けい)

フリージャーナリスト

1967年、山梨県生まれ。新聞記者を経て、フリージャーナリスト。
公式ホームページ http://keinaka.com/ 
著書は出版順に『トラブらないトラベル会話 広東語』(三修社)、『職は中国にあり』(夏目書房)、『ポジャギ 韓国の包む文化』(白水社)、『中国人エリートは日本人をこう見る』、『中国人の誤解 日本人の誤解』(いずれも日経プレミアシリーズ)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?』(中央公論新社)、『爆買い後、彼らはどこに向かうのか?』(プレジデント社)、『中国人エリートは日本をめざす』(中央公論新社)、『中国人富裕層はなぜ「日本の老舗」が好きなのか』(プレジデント社)、『なぜ中国人は財布を持たないのか』『日本の「中国人」社会』『中国人は見ている。』(いずれも日経プレミアシリーズ)、『中国人のお金の使い道』(PHP研究所)、『いま中国人は中国をこう見る』(日経プレミアシリーズ)がある。

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