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生き方

人間関係、家族、仕事。悩みは「書く」ことで超えられる

下重暁子(作家/元NHKアナウンサー)

2015年12月07日 公開 2023年01月12日 更新

 

ものを書く時は、自分ひとりと向き合う時間

 書くという事を整理してみると、

1、なぜ書くのか。
2、何を書くのか。
3、どう書くか。

 この3つに分かれる。

 書きたい人には、書きたい理由、書かねばならぬわけがある。その「なぜ」を自分に問うてみる。

 私の場合は、まちがいなく子供の頃の病身が原因である。小学校の二年と三年の二年間、結核で寝ていた。疎開先の信貴山上の旅館の離れで結核の宣言を受け、たまに散歩に出る以外は一室に閉じこめられ、父の蔵書から芥川龍之介や太宰治、宮澤賢治などを気のむくまま持ち出して読めないまでもながめている。同じく父の集めた西洋名画集や「みずゑ」などの絵の雑誌などなど……退屈する事はなかった。

 痛くもかゆくもなく、微熱だけの症状だから、ひとりで歌ったり、天井の木目を様々に見立てて物語を作ったり、妄想の世界に生きていた。

 私にとって想像し、それを文字に定着していくことは当然の帰結であり、それしか方法がないと思っていた。当時の日記には、詩らしきものや、片想いの少年の事など書かれている。誰に見せるわけでもないけれど、私は書かずにはいられなかった。早稲田大学時代の同級生で、芥川賞作家の黒田夏子は四歳で母を亡くし、その年に物語を書いている。

 人それぞれだが書かねばならぬ理由がある。もう一つの条件は孤独であること、私も黒田夏子も幼くして孤独だった。

 今回、巻末で対談させていただいた山口恵以子氏も、もともと小説を書きたいと願いながら、様々な職業をめぐり、通称「食堂のおばちゃん」の時に「松本清張賞」を受けた。

 書かねばならぬと思ったら次は何を書くかである。テーマともいうべきもの、何を主にして一文を成すかを定める。ここで題名を決めてもいい。題名はテーマを表わしている。

 何を書くかはどの位考えても考えすぎという事はない。何日も、何時間も考えぬいて決まったらしめたものだ。その上で、三番目のどう書くかに移る。構成といってもいいし、最初の一行や最後の一行が決まるのもこのあたりだ。

 なぜ書くか、何を書くかが決まっていないのに、どう書くかばかり考えている人がいる。表現の方法が先に来て、芯のない何をいいたいのかわからぬ文章……きれい事の文章にはこの手のものが多い。

 どう書くかは、前の二つが決まって初めて出来てくる。

 ものを書く時は、自分一人と向き合うから孤独である。孤独は淋しいものではなく、自分を知るためのもっとも豊かな時間である。孤独を知らない人にはものは書けない。

 人間生まれてくる時もひとり、そして死ぬ時もひとりである。

著者紹介

下重暁子(しもじゅう・あきこ)

エッセイスト

早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。女性トップアナウンサーとして活躍後、フリーとなる。民放のキャスターを経て文筆活動に入る。ジャンルは、エッセイ、評論、ノンフィクション、小説と多岐にわたる。財団法人JKA(旧・日本自転車振興会)会長等を歴任。現在、日本ペンクラブ副会長、日本旅行作家協会会長。主な著作に、『家族という病』(幻冬舎)、『老いも死も、初めてだから面白い』(海竜社)、『自分に正直に生きる』(大和書房)『持たない暮らし』(KADOKAWA)などがある。

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