ネコはいつ、どこから来たの?
2016年11月10日 公開 2022年01月13日 更新
ネコの祖先は中東にいた?
このように約10000年前から、ネコはヒトのそばにいるようになりました。最初は、ネズミを求めてヒトの住居に近づいたと考えられるので、ネズミを餌とする小型のネコ科動物がネコの祖先であることは確かでしょう(比較的大型のネコ科動物でも、ネズミなどの小型の餌を捕ることはありますが、ヒトのほうが身の危険を感じて撃退し、自分たちには近寄らせなかったはずです)。
ところが、これらヤマネコといわれる系統は、北はスコットランドから南はアフリカまで、西はスペインから東はモンゴルまで、ユーラシアとアフリカ全体に広く分布しており、現在、5つの系統に分けられています(リビアヤマネコ、ステップヤマネコ、ミナミアフリカヤマネコ、ヨーロッパヤマネコ、ハイイロネコ)。
ですから、ネコの家畜化はさまざまな場所で始まり、各地でヤマネコが飼い慣らされて、いろんな品種のネコがそれぞれつくられたとしてもおかしくありません。
しかし、ネコが来た道は1本でした。
2007年、オックスフォード大学および米国立がん研究所のメンバーであるドリスコルらが、ヤマネコ系統とネコの遺伝子解析を行なったところ、イスラエル、アラブ首長国連邦、サウジアラビアの人里離れた砂漠に住む「リビアヤマネコ」という野生のヤマネコだけが、ネコとほとんど区別できないほどよく似た遺伝子パターンをもっていて、同じ系統であることがわかりました。
広範囲に分布し、5つに分かれているヤマネコ系統のなかで、中東のリビアヤマネコだけがネコの祖先だと判明したのです。
なぜリビアヤマネコだったのか?
ではなぜ、ヤマネコのなかでリビアヤマネコだけがヒトに飼われるようになったのでしょうか。それは、リビアヤマネコがヒトに対して比較的警戒心が弱く、またヒトになつく性質をもっていたからだと考えられています。
対して、ヨーロッパヤマネコやハイイロネコなど、他のヤマネコの系統は警戒心が強く、ヒトになつきにくいといわれますから、同じくネズミを餌としながらもヒトとの生活には適応できなかったようです。この性質の差が、リビアヤマネコだけがネコの祖先になった理由だと考えられます。
またリビアヤマネコは、人類最初の定住の地であるメソポタミア周辺地域の近くに住んでいたため、他のヤマネコたちより有利だった可能性もあります。
飼い慣らされペット化したリビアヤマネコの子孫は、メソポタミア周辺から農耕が伝わるにつれ、農耕文化と連動して移動したと思われます。そして行く先々で「ヒトと生活する」という同様の「ニッチ(生態系のなかで占める位置や役割)」を獲得し、その土地に住んでいたヤマネコを締めだしていったと考えられます。
農耕と連動してイエネコが移動してきていなかったら、その土地固有のヤマネコがヒトのそばに住み着いていたかもしれません。リビアヤマネコが一歩先んじた、ということなのでしょう。
さて、前述したように、定住したヒトは農耕を始め、穀物などの農作物を貯蔵しました。それを狙ってハツカネズミが移り住んで繁殖し、それを狙ってネコがヒトの近くで生活をするようになったと考えられています。
黒瀬奈緒子(くろせ・なおこ)
愛媛県生まれ。北海道大学大学院地球環境科学研究科にて博士号を取得後、岩手医科大学医学部法医学教室、神奈川大学理学部生物科学科などを経て、現在、大妻女子大学社会情報学部環境情報学専攻准教授。専門は分子系統学と保全生物学。環境教育にも力を入れており、野生生物と人との共存をめざした環境づくりをテーマに講演や、子供たちとの「生きもの観察会」なども行う。処女作となる本書では、生物の進化とその解釈について一般に伝えるため、長年の研究対象である小・中型食肉目に思いを馳せつつ、大好きなネコへの情熱をぶつけた。街でネコを見つけると、写真を撮らずにはいられないネコマニア。