『幸福の黄色いハンカチ』と高倉健さん~倍賞千恵子の現場
2017年07月28日 公開 2020年11月20日 更新
ハンカチを見てポロポロ涙が流れた
この映画のクライマックスは、何といってもラストシーンです。
ためらう勇作の代わりに、若い二人が夕張の炭鉱住宅のほうに分け入っていき、黄色いハンカチが下がっているかどうかを確かめます。まず武田さんが「あれ?」と見つけて、桃井さんも促されて気がつきます。
「なに?どうしたの、欽ちゃん………ほらっ!あれ!」
「よかったなあ。勇さん、勇さん、ほら見てみろ、ほら!」
「ほら、勇さん、なんだかわかる?ハンカチよ、ほら、ちゃんとあったじゃないの!」
竿に数えきれないほどの黄色いハンカチが風にはためいている――。
それはどんな場面になるんだろう。私は家のそばの樹にリボンをたくさん結んで花が咲いたように見せるのかなぁと思っていました。でも撮影前に現場に行くと……空を背に高々とそびえる鯉のぼりの竿の頂上から2本のつり紐が山型に下がっています。そこにびっしり連なった黄色いハンカチが目に飛び込んできました。
美術部さんが1枚1枚ミシンで縫ってつくってくれたハンカチで、鯉のぼりの竿にこんなふうに黄色い花が咲くんだ、ああ、この作品に出られてよかった、と熱いものがこみ上げてきて、ポロポロと涙が流れました。
雲一つない真っ青な空をバックに強い風にたなびくハンカチ。そんなシーンを撮るために、天気待ちを3日ほど続けました。
洗濯物を干していた光枝は、黙って近づいてくる勇作を目にして、呆然と立ち尽くします。言葉を交わすこともなく、黙って勇作の荷物を手に取ります。黄色いハンカチを見上げて、家の中に向かおうとする勇作。光枝はその場で顔を手で覆う。勇作はその肩を抱き、二人で家に向かいます。
健さんの荷物を抱いた私は、ちょっとよろよろっとしてしまいます。台本のト書きに書いてあったわけではないけれど、思わず肩を抱く健さんの動きが自然になってよかった、と監督さんたちに言われました。
このシーンは終始、遠くから二人の姿をロングショットで捉え、そのまま撮影を終えました。でも編集の石井巌さんができあがったフィルムを見て、
「ここで観客がどうしても見たいのは、健さんの帰りをずーっと待ち続けた妻の顔。倍賞さんのアップを捉えたカットを絶対に入れるべきだ」
そう訴えて、光枝が勇作の姿を目にしたアップのワンカットのために、追加で撮り増ししました。
この映画は第1回日本アカデミー賞をはじめ数々の映画賞に輝き、ハリウッドでは『イエロー・ハンカチーフ』(2008年)というタイトルでリメイクもされました。