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生き方

シリコンバレーの小さなオフィスからイサム・ノグチを追いかけた

深澤直人(プロダクトデザイナー)

2018年08月09日 公開 2021年05月11日 更新

 

マルニ木工の卓抜した技術と木材の難しさ

『Naoto Fukasawa: Embodiment』の表紙は、〈HIROSHIMA〉という名前のマルニ木工の椅子です。

マルニ木工は日本で一番大きな家具メーカーだったのが、バブル経済の崩壊で調子が悪くなった。その頃、僕のところに椅子を作るという話が来ました。再建したいということは特におっしゃらなかったと思うんですが、僕はただいい椅子を作りたいなと思いました。

マルニ木工は90年の歴史があって、日本で初めて椅子を作った会社です。職人が手仕事で作るようなものを機械加工する、とんでもない技術があります。

柳宗理さんと天童木工、シャルロット・ペリアンとカッシーナなど、名だたるデザイナーと木工メーカーがタッグを組んで生まれたすばらしい椅子がある。
だから僕もデザイナーとして、すごい技術を持ったメーカーと仕事をしたいという気持ちがありました。

僕は「絶対にこれはいいデザインになる」って確信ができるまで、オフィスの外に出さないようにしていたんですよ。

でも、木の椅子をデザインするときは、座り心地や構造というものがあるので、木以外の素材で作ったモデルでは良さがわからんないんじゃないかと思って、モデルを木で作ってもらいました。

ところが、自分で線を引いて図面を描いたものができあがったのを見て、唖然とした。「失敗した」と思いました。全然かっこよくなかった。

基本に戻って、座り心地はあとからでも試せるし、構造もあとで検討できるから、とにかくまず形の美しいものを試作しないといけないと思いました。
それで、自分で発泡材を削ってプロトタイプを完成させてから、木で作ってもらった。それがすばらしかった。

原寸のモデルはいまだに作るようにしていて、それで「いい」と思ったら初めて提案します。木ってやっぱり人に愛される素材なんですよね。

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Appleの新社屋に納入される数千脚の木の椅子

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