ジョブズ、イーロンマスクも”遊び”に夢中になる理由(成毛眞)
2018年10月19日 公開 2022年11月30日 更新
世界を牽引するイノベーターはSFに夢中になった
世界を牽引するイノベーターを見てみよう。
鬼籍に入ったスティーブ・ジョブズは、まさに子どものような人だった。
つくるプロダクトは、アップルの「製品」というよりは彼が心から好きな「作品」であったし、プロダクトやプロジェクトを巡って人とぶつかれば、本気でケンカをして相手をその場から退場させることも、自分が退場することもあった。だからこそ、多くの人を魅了するいいものをつくれたのだと思う。
電気自動車テスラの製造販売をするイーロン・マスクもじつに子どもっぽい。
電気自動車は、彼が生まれる頃にサイエンス・フィクション(SF)の世界で描かれていた夢の乗り物だが、その夢の乗り物を本気で目指し、実現してしまった。
また、かつてはSFの世界だけの話だった民間企業による宇宙開発にも、彼は真剣に取り組んでいる。「僕は将来、宇宙のすごい人になるんだ!」と言っていた子どもが、そのまま大人になったかのようである。
宇宙を本気で目指している人物は日本にもいる。ホリエモンことザ・子どもの堀江貴文だ。世の中を変えるのは、子ども心を忘れない、大人げない大人なのだと実感させられる。
若い人はご存じないかもしれないが、かつてSFを読むことは遊びと見なされていた。高尚な古典や純文学に比べると、妄想が描かれた時間潰しに過ぎない物語だと思われていたのだ。
しかし、イーロン・マスクもフェイスブックのマーク・ザッカーバーグも、またマイクロソフトのビル・ゲイツも、若い頃にSFを読んでいた。
そこで繰り広げられる物語に胸を躍らせながら妄想力を高め、その作品に描かれた世界を自分の力で実現したいと考えたのではないか。彼らの現在を見ていると、そう思わざるを得ない。
一方で、SFを読まずに教科書や参考書ばかりを読んでいた子どもはどうだろうか。
真面目で、しっかりしていて、礼儀正しい大人になっているに違いないが、妄想力がなく、たとえば個性的なフォルムと高い吸引力を誇るダイソンの掃除機や、恐ろしくおいしいトーストが焼けるバルミューダのトースターのような、奇想天外な、しかし素晴らしい製品をつくろうという気持ちにはならず、当然のことながら、実行もしないだろう。
ちなみにジェームズ・ダイソンは子どもの頃、勉強はあまりできなかったが音楽や美術に興味があり、ランニング大会の景品でラジオをもらったことが嬉しかったと自伝で語っている。バルミューダの寺尾玄げん氏は一時期、音楽のプロを目指していた。
やはり今の時代は、"遊んでいた人”の時代なのである。しかも、いかにも大人の遊びではなく、多くの大人が眉をひそめるような、子どもっぽい遊びを大事にしてきた人の時代だ。