ジョブズ、イーロンマスクも”遊び”に夢中になる理由(成毛眞)
2018年10月19日 公開 2022年11月30日 更新
都市部で忙しく働いている人こそ問題
世界を変えるイノベーターから日本の地方へと目を転じると、仕事はそこそこに、ワーク・ライフ・バランスのライフの部分を楽しんでいる人がじつに多いことがわかる。
週末になると釣りに行ったりハイキングに出かけたり、平日も早めに家に帰って電子工作をしたり料理をしたりという人が少なくない。
子どもの遊びとは言いきれないようなものもあるが、子どものように無邪気にそして熱心に遊んでいる。そうして幸せな暮らしをしている。
「遊びをせんとや生うまれけむ、戯たはぶれせんとや生むまれけん、遊ぶ子どもの声きけば、我が身さえこそ動ゆるがるれ」
これは『梁塵秘抄(りょうじんひしょう)』の有名な一説で、意味はというと、遊んでいる子どもの声を聞くと、こちらの体もつい動いてしまうといったところだろう。
人間は何のために生きているかという疑問は太古の昔からあるもので、さまざまな哲学者はその答えを模索してきたが、私はこれに尽きると思う。
人は遊ぶために生まれてきた。だからこそ、人はいくつになっても遊びたいのである。平日も週末もしっかり遊んでいる人は、人間の本能に素直に生きているということになる。
問題は、そうではない人だ。
具体的に言えば、平日は仕事に追われ、週末は疲労回復に努めている、都市部で忙しく働いている人である。彼ら彼女らは、欲求にあらがって無理をしている。仕事をリタイアしたらツケを取り戻す勢いで遊ぼうと思っているのかもしれないが、実際に定年退職し、仕事がなくなったときに呆然とする。
これはもう何年も前から言われていることだが、仕事に夢中になっていた人が退職後、抜け殻のようになってしまうことは珍しくない。膨大な時間を手に入れて、何をしたらいいのかわからなくなってしまうのだ。
その戸惑いは、大海原に浮かんだ手こぎボートに突然、一人で乗るかのようだ。まずどこへこぎ出したらいいか、それ以前に、どうやってこぐのかがわからない。
仕事ばかりしていると、退職後に控えている、もしかすると退職前よりも長いかもしれない人生を、もてあましてしまうことになる。
だから今から、退職後も続けられる遊び・趣味を見つけておいたほうがいい。ボートで海を渡るなら、どこからどこまで、どこを経由していくか見当をつけておくのである。
そして少しはオールの扱い方を練習しておいたほうがいい。どうすればボートが前に進むのかくらいは、若いうちから知っていて損はないのだ。
これからの時代は、"遊んでいる人”の時代だ。時代に取り残されたくなければ、資格を取ったり勉強会に参加したりMBAに通ったりするのではなく、遊ぶことだ。