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社会

人類の祖先は、毒を食べてエネルギーを得るモンスターだった!?

稲垣栄洋(生物学者)

2019年04月08日 公開 2023年01月10日 更新

シアノバクテリアという「ニュータイプ」の登場

地球に生命が生まれた38億年前。

当時の地球には酸素は存在しておらず、おそらくは金星や火星などの惑星と同じように、大気の主成分は二酸化炭素だったと考えられている。

酸素のない地球に最初に誕生した小さな微生物たちは、硫化水素を分解してわずかなエネルギーを作って暮らしていた。微生物たちにとって、つつましくも平和な時代が続いたのである。

ところが、である。その平和な日々を乱す事件が起こった。光を利用してエネルギーを生み出すこれまでにないニュータイプの微生物が現れたのだ。彼らこそが、光合成を行うシアノバクテリアという細菌である。

シアノバクテリアが持つ光合成は、脅威的なシステムである。

光合成は光のエネルギーを利用して、二酸化炭素と水からエネルギー源の糖を生み出す。

この光合成によって作り出されるエネルギーは莫大である。まさに革新的な技術革命が起こったのだ。

ただし、光合成には欠点があった。どうしても廃棄物が出るのである。光合成の化学反応で糖を作り出すとき、余ったものが酸素となる。酸素は廃棄物なのだ。こうしていらなくなった酸素は、シアノバクテリアの体外に排出されていったのである。

もちろん、公害規制もない時代だから、酸素は垂れ流し状態だ。当時ほとんど酸素がなかった地球だったが、目に余るシアノバクテリアの活動によってはしだいに大気中の酸素濃度は高まっていったのである。

 

酸素による大量虐殺が始まった

生命にとって酸素は、本来は猛毒である。

地球で繁栄していた微生物の多くは、酸素のために死滅してしまった。酸素濃度の上昇によって地球上の生物が絶滅した事件は酸素ホロコーストと呼ばれている。

ホロコーストというのは、第二次世界大戦中のドイツ人によるユダヤ人の大量虐殺を言う。毒ガスで人を殺す強制収容所もあった。

何とも物騒な言い方ではあるが、当時の地球に暮らす微生物にとって、酸素濃度が高まることは、それほど恐ろしい危機だったのだ。

そして、わずかに生き残った微生物たちは、地中や深海など酸素のない環境に身を潜めて、ひっそりと生きるほかなかったのである。

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毒を食らわば皿まで

著者紹介

稲垣栄洋(いながき・ひでひろ)

植物学者

1968年静岡県生まれ。静岡大学農学部教授。農学博士、植物学者。農林水産省、静岡県農林技術研究所等を経て現職。主な著書に『身近な雑草の愉快な生きかた』(ちくま文庫)、『植物の不思議な生き方』(朝日文庫)、『キャベツにだって花が咲く』(光文社新書)、『雑草は踏まれても諦めない』(中公新書ラクレ)、『散歩が楽しくなる雑草手帳』(東京書籍)、『弱者の戦略』(新潮選書)、『面白くて眠れなくなる植物学』『怖くて眠れなくなる植物学』(PHPエディターズ・グループ)など多数。

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