毒を食らわば皿まで
ところが、である。酸素の毒で死滅しないばかりか、酸素を体内に取り込んで生命活動を行う怪物が登場した。まさに毒を食らわば皿まで、である。
酸素は毒性がある代わりに、爆発的なエネルギーを生み出す力がある。酸素は諸刃の剣なのだ。危険を承知で、この禁断の酸素に手を出した微生物は、これまでにない豊富なエネルギーを生み出すことに成功した。それが、ミトコンドリアの祖先である。
そして、ある単細胞生物は、この怪物のような生物を取り込むことによって、自らもまた酸素の中で生き抜くモンスターとなる道を選択した。
これが私たちの祖先となる単細胞生物である。後に、このモンスターは豊富な酸素を利用して丈夫なコラーゲンを作り上げ、体を巨大化することに成功する。そして、猛毒の酸素が生み出す強大な力を利用して、活発に動き回ることができるようになるのである。
世界中に毒素をまき散らす植物
SF映画で描かれる核戦争後の地球。莫大なエネルギーを持つ放射能で生物は巨大化し、凶暴な怪獣となる。酸素によって巨大化し、猛毒の酸素をおいしそうに深呼吸する人間は、滅びた微生物から見れば、SF映画の未来の怪物さながらの存在と言えるだろう。
それだけではない。このモンスターのうちのあるものは、酸素を作りだすシアノバクテリアをも取り込んで、光合成によってエネルギーを生み出す進化を遂げた。そして、シアノバクテリアは細胞の中で葉緑体となり、葉緑体を獲得したこの単細胞生物は、後に植物となっていくのである。
それにしても、何という恐ろしい世界だろう。
平和に暮らしていた微生物たちの多くは、酸素に満ちた地球環境に適応できずに滅んでしまった。そして、酸素にあふれた地球では、酸素という猛毒を吐き出す植物の祖先となるモンスターと、その酸素を利用する動物の祖先となるモンスターとに二分して支配されるようになるのである。