意外に多い「うつによる部下の自殺」。そのリスクとは?
2019年12月13日 公開 2023年09月05日 更新
部下の自殺で企業や上司が問われる責任
部下が過重労働や仕事にまつわるストレスからうつ病になり、自殺に至った場合、その人が勤務していた企業は必ず責任を問われます。
まず、労働基準法や労働安全衛生法といった法律には、働く人の安全や健康を守るために労働時間管理や職場環境などについて、さまざまな規定があります。こうした法律に対する明らかな違反があった場合、労働基準監督署から行政指導を受けることがありますし、場合によっては刑事責任を問われることもあります。
皆さんもご存じのように、近年は社会的に「コンプライアンス(法令遵守)」が重視されるようになっています。労基署から指導を受けるようなことがあれば、そのこと自体が企業イメージを大きく損なうことにつながり、業績悪化や採用難にますます拍車をかけることにもなりかねません。
また、明確な法律違反がなければ問題がないかというと、そうではありません。
仕事によってうつ病を発した本人や、自殺した部下の遺族から、企業に対して損害賠償請求の民事訴訟を起こされるリスクは常にあります。
損害賠償請求のときのキーワードになるのが「安全配慮義務」です。企業(使用者)にはそこで働く人(労働者)に対し、安全配慮義務があります。これは「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と労働契約法に定められているものです。
部下が仕事によりうつ病を発症し、自殺に至った場合、企業側は「部下のうつ病を把握していたにもかかわらず必要な措置をとらず、安全配慮義務を怠った」として訴訟を起こされる可能性が高くなります。このような民事訴訟になった場合、最近は企業にかなり高額の賠償金が課せられるケースが増えています。
例えば、2000年3月24日の最高裁判決では、うつ病が理由で社員が自殺した企業に対し、賠償金1億6,800万円の支払いを命じています。少し新しいところでは、2015年12月8日東京地裁において、過労から自殺をした社員の遺族に対し、企業が賠償金1億3,300万円を支払うことで和解が成立しています。
さらにいえば刑事訴訟、民事訴訟のいずれも責任を問われるのは企業(経営者)だけとは限りません。自殺に至るまでの経緯や周囲の人の対応によっては、直属の上司など個人が責任を追及される例もあります。一人でも部下を持つ人は、それを自覚しておく必要があるでしょう。