「陽性」を瞬時に判定 “AI診断”は医療の未来を救うのか?
2020年04月07日 公開
セカンドオピニオンとして頼りになるAI 真の病名を見抜いた例も
2016年、東京大学医科学研究所が、Watsonによって医師の診断の方向性を正しく修正したと発表しました。医師が「急性骨髄性白血病」と診断した疾患に対し、Watsonは患者の遺伝子情報を解析することで、白血病のなかでも特殊な「二次性白血病」の可能性を提案したのです。医師らがその診断の正確性を確認したうえで治療方針を変更したところ、患者は快方に向かいました。
ちなみに、この診断で用いられたのは画像診断ではなく「遺伝子診断」でした。画像診断は医師でもできますが「遺伝子診断」は医師が一人で行うのは難しく、Watsonの強みが生かされた診断となりました。このように、AIは人間とは全く異なったアプローチから、時に意外とも思える助言をすることもあります。その点において、AIをセカンドオピニオンとすることは非常に有用でしょう。
また、AIは情報のアップデートを見逃さない点においても、医師の誤診防止に一役買うことが期待されています。たとえば、昨年まで無害とされてきたサプリメントが実は血液検査の数値に異常を与える可能性がある、といった論文が海外で発表されたとします。
従来であれば、この程度の事例は生死に直接かかわらないものとされ、厚生労働省による注意喚起もされず、知らない医師も多かったでしょう。しかし、AIであれば見落としません。
患者がその論文に該当するサプリを服用したまま血液検査を受けようとすれば、ただちに医師に知らせてくれます。このように、誤診の芽を摘んでくれることも大きな助けとなるはずです。
未知の感染症に対してAI医療ができること
2018年、WHO(世界保健機構)のリポートに「疾病X」というコードネームが記載されました。これは未知の感染症が世界的に流行する可能性を示唆しており、保険医療界における大きな課題とされました。このような未知の疾患に対し、AI医療が解決の糸口となることはどの程度、可能なのでしょうか。
結論から記せば、現状においてAIが未知の疾患を見つけ出すことはほぼ不可能です。すでに確認したように、医療AIが力を発揮するのは、学習データとなりうる症例の多い疾患に対してです。
反対にいえば、データがほとんど存在しない珍しい疾患に対して力を発揮することは難しく、ましてや未知の疾患(データが存在しない)に対しては多くの場合、無力となってしまいます。
ただし、医師に「可能性」を提示することはできるかもしれません。正しい疾患名ではなく共通点の多い疾患を提示し、医師に判断を仰ぐことができれば、AIに正しい判断ができなくとも医師が診断する手助けになるということです。
言い換えれば、上述の「疾病X」に対して特異的に効果を発揮する治療法をただちに確立できなくても、似た症状を持つ別の疾患に対する治療法を効率的に導き出すことは可能です。また、予防の観点から、現状開発されている薬やワクチンを分析して改善するといった対策も有効です。
その手助けとしてAIが有用であることは、言うまでもありません。未知の疾患を見抜けなくても、最善の手立てを用意することは十分可能なのです。