過去を見つめて「本当の自分」を取り戻す
母親固着から解放されなければ、「本当の自分」に出会うことはできない。自分自身であることとは「本当の自分」でいることという意味であろう。
母親固着の強い人は「常に民族的・国家的・宗教的な母親固着という牢獄につながれている」。どこまで母親固着から解放されるかが、どこまで「本当の自分」になれるかということである。
つまりどこまで母なるものへの欲求が満たされるかということが、どこまで「本当の自分」になれるかということであり、どこまで自分の人生に自分が責任を持てるようになれるかということである。人は母なるものへの欲求が満たされることで心の支えができる。
「自分自身になれる」というのは、何か起きたときに人の責任にしないこと、人のために働けること、人を守れること、人を愛せること、自分の意志を持つこと、積極的感情を持てること、人の言いなりにならないこと等々である。
とにかく母親固着の強い男性は深く傷ついている。自分は母親固着の強い男だと思った人は、どこでいつ何にそこまで深く傷ついたかを考えることである。そして自分のイライラの正体をハッキリとさせる。
彼自身が自分の心の底と正面から向き合い、自分の問題をしっかりと認識し、その上で助けを求めること以外に生きる道はない。まず「自分の心の問題は何か?」を見つめる。勇気を持って心の底を見つめると、例えば自己蔑視している自分に気がつく。
自己蔑視に気がつけば、自分は今周囲の人から認められているのではなく、たかられていると分かる。自分は認められていると思ったのだが、実は単に舐められていただけだと分かる。
心の支えが欲しければお金持ちになろうとするよりも、自分自身になろうとすることである。
【著者紹介】加藤諦三(かとう・たいぞう)
1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。