世界一豪華な寝台列車「ななつ星」が教えてくれた「世界一が人を動かす」
2021年03月01日 公開 2021年07月19日 更新
「世界一」が人を動かす
ななつ星のデザイナー、水戸岡鋭治さんは、「世界一」と聞いて一瞬目を輝かせましたが、すぐに真剣な表情になりました。水戸岡さんは、「世界一」となるためには、今までの倍も3倍も勉強しないといけないなと、「世界一」の難しさを直感することのできる人です。
なにしろ、豪華列車のライバルは世界にたくさんありました。世に名高い「オリエント・エクスプレス」をはじめ、ヨーロッパには10本ほどの豪華列車が走っています。
南アフリカの「ザ・ブルートレイン」や、シンガポール、マレーシアとタイの間を結んでいる「イースタン&オリエンタル・エクスプレス」も強力すぎるライバルです。それらを超えなければ「世界一」とはいえません。
ほどなく猛烈に勉強を開始し、必死で考えとことん悩み、「世界一」に向けての戦いに挑んでくれました。「世界一」は、実際に車両づくりに携わる日立製作所と当社の車両の職人たちの心も大きく動かしました。車両づくりに取りかかった初日に、JR九州の社長である私は、職人たちを集めて夢を語りました。
「私たちの手で世界一の列車をつくりましょう」
職人たちの顔を見渡すと、みんなの目に、自分たちが世界一の列車づくりに関わることができるのだ、という興奮が湧き上がってくるのが見てとれました。彼らは「自分たちの持っている最高の技術をななつ星に投入しよう」と燃えてくれました。これも、「世界一」を謳った夢の効果でしょう。
ななつ星の接客を担う客室乗務員たちの士気も高揚しました。彼らは、一般公募により採用となったサービスのプロたちです。新聞に小さなベタ記事で、「世界一の豪華列車の客室乗務員募集」と載せると、たちまち約400名の応募がありました。
その中から選ばれた25名がななつ星の客室乗務員として働いてくれるのです。海外の複数のホテルで働いていた語学堪能のホテルマン、国内の一流ホテルのコンシェルジュ、航空会社の国際便に乗務していたキャビンアテンダント、豪華客船のサービス担当者といった豪華な顔触れが集まってくれました。
ななつ星の運行が始まって少しあとに、キャビンアテンダントから転じた客室乗務員に尋ねました。「あなたは、どうして航空会社の職を捨ててななつ星に来てくれたのか」彼女は胸を張って答えてくれました。
「世界一に自分を賭けてみたくなったんです」
大きな夢は人を動かす。これは真理だと思います。