好調ライオンズを支える「野球を観ない球場」 プロ野球の常識を覆した新時代のボールパーク
2021年04月05日 公開 2022年10月06日 更新
駅に降りた瞬間から「ライオンズ」
2020年(令和2年)のシーズン終了後、メットライフドームのセンター後方、Lビジョンの裏側にあたる「入場ゲート」が解体された。
かつてはレフト側、ライト側へと至る鉄製のゲートが「2門」設置されていた。開業以来の42年間、ファンはそれぞれの席に近い方のゲートで入場券を見せ、球場へと入っていった。
このレイアウトが、実はファン目線に立つと大きな問題だった。
メットライフドームはかつて、レフト側と三塁側上部に、食堂や売店が集中していた。すると、ライト側スタンドに座ったファンは、一度球場の外へ出て、三塁側のゲートから再入場する必要があった。
この長年の懸念を、ゲート撤去で解消する。
まず、入場ゲートを1門にし、さらに従来のゲートから100メートルほど下げ、レフトとライトの外野席後方の通路を、一本につなぐことにした。そうすると、球場内を回遊できるようになる。
西武球場前駅の改札を出て、数十メートルのところに入場ゲートができる。だから電車を降りた途端、球場の入り口が待ち構えているような形になる。
右手には、西武球団のオフィス棟がそびえたっている。左の前足を上げたライオンが、口を開けて吠えているオブジェがこちらを睨んでいる。
左手に見える大型グッズショップ「フラッグス」は、2階の窓に透過性のある特殊LEDガラスを装備しており、場内のビジョンと連動。西武の選手がホームランを打ったときの映像演出も映し出される仕組みになっている。
駅を降りた瞬間から、ライオンズ一色に、目の前が染められているのだ。
入場ゲートをくぐると、右手がレフト・三塁側、左手がライト・一塁側になる。左手すぐ、ライト側スタンド後方の一角に、クラフトビールなどを販売するテイクアウト専門店がある。
「CRAFT BEERS OF TRAIN PARK」
8種類のクラフトビールが楽しめる店舗の横に、電車が1両停まっている。
「ライオンズならでは、ですよね」と飯山。
その「トレイン広場」に置かれている車両は、西武鉄道101系。1980年(昭和55年)10月から40年間にわたって走り続け、2020年11月に現役を引退。
その"第2の車両生活"を、メットライフドームで過ごすことになった。長さ20メートル、横幅2.881メートルの線路には枕木と砂利が敷かれ、本物のテイストに溢れている。
野球に飽きた子供たちがここで楽しむ間に、父親がビールを飲んで一息つく。
通路を挟んだ外野席の柵の裏にステンレス製のカウンターが設置されているのは、立ち見の際に飲み物を置けるスペースになっており、集客が多いと予測されるときは、その席も区分けして販売する仕組みになっているという。
かゆい所に手が届くというか、まさしく一石二鳥というべきだろう。
ピザ窯からキッズルームまで揃う
三塁側上段付近に、1台のミニバンが停まっていた。
飯山が笑いながら「ちょっと、見てみませんか?」。車の窓からのぞいてみると、設置されていた窯
かまで「ピザ」を焼いていた。
L's CRAFT(エルズクラフト)では、本格的な焼き立てのピザを、その場で堪能できるとあって、西武の外国人選手から、たまに、こっそりと注文が入ることもあるという。
高いのに、美味しくない。お酒のつまみのようなものばかり。せいぜいカレーか、ラーメンか。そんな貧弱なグルメ事情では、お客さんを堪能させることなどできない。
グルメの充実は「まずかろう、高かろう」のかつての球場メシのイメージを完全に払拭させるものだ。ドーム内には約70店舗・1000種類以上、12球団でも最大級のメニュー数が揃っている。
付き添いのお父さんもお母さんも階段状のステップに座り、臨場感たっぷりの試合中継を見ることができる。3時間近くも子供たちは座っていられないだろう。お腹もすくだろう。じゃあ、試合途中でもう、帰ろうか。そうならなくてもいい仕掛けになっている。
球場中をぐるぐると歩き回れば、キッズルームがあり、電車の車両があり、もちろん野球はやっている。美味しいグルメの食べ歩きもできる。
隣接するライオンズ トレーニングセンター(室内練習場)には「ファンデッキ」が設けられ、選手の練習風景を見学することができる。その脇の緩やかな坂を上った先には、主にファームの選手たちがプレーするCAR3219フィールド(旧西武第2球場)があり、今回の改修に伴って、スタンドも併設された。
だから、昼はファーム、夜はナイターという"親子観戦"も存分に楽しめる。
ドーム周辺には、スキー場やテニスコートもある(西L's CRAFT(エルズクラフト)では、本格的な「コロラドピザ」を提供している。レフト席後方にある「獅子ビル」には、230席のレストランとカフェ。その同じビルの中に「テイキョウキッズルーム」がある。
ビルの外に出れば、1000平方メートルの広さがある「テイキョウキッズフィールド」も設置されている。
2つの施設には、学校法人帝京大学との施設命名権スポンサー契約が締結されている。
高さ5.5メートルのローラースライダーからは、滑りながらドームを一望できる。ビルの前に大型の「DAZNビジョン」が設置されており、子供を遊ばせている間、付き添いのお父さんもお母さんも階段状のステップに座り、臨場感たっぷりの試合中継を見ることができる。
3時間近くも子供たちは座っていられないだろう。お腹もすくだろう。じゃあ、試合途中でもう、帰ろうか。そうならなくてもいい仕掛けになっている。球場中をぐるぐると歩き回れば、キッズルームがあり、電車の車両があり、もちろん野球はやっている。美味しいグルメの食べ歩きもできる。
まさしく一日中、誰もが、その目的や嗜好に応じて、存分に楽しめる場所なのだ。
球団なんだから、野球だけやっていればいい。余計なことをやって、赤字が増えたりしたら、どうするんだ。
親会社頼みの「どんぶり勘定」が抜けない旧来の「プロ野球」という囲いの中から見れば、そうした非難が生まれてしまう。
大人も子供も、若いカップルも、家族連れも、もちろん野球ファンも、誰もが楽しめる。開門前から試合前、試合中、そして試合後と、半日はたっぷりと楽しめて、遊べる。そのために、野球という「コンテンツ」を充実させていく。
こうしたコンセプトで読み解いていけば、令和の新時代に入り、各球団が取り組もうとしている「新たな経営戦略」の理由が、明確に見えてくる。