憎しみの感情を消すしか救済の道はない
憎しみの感情を消すためにはどうしたらよいか。それはそう簡単なことではない。多くの人がこれを試みて失敗している。
だが、地獄からの出口はこれ一つしかない。憎しみの感情を消すためには、自分を理解することである。自分は憎しみの感情に振り回されていると自覚する。
次に自分を苦しめた人、つまり自分の憎しみの対象を理解することである。なぜあの人はここまで自分をいじめぬいたのか、その理由を理解するしかない。
「理解する」などと言えば、感情的にも肉体的にも虐待を受けた人は「何も分かっていない」と思う人がほとんどであろう。
肉体的ないじめは分かりやすいから、そうしたこともあるだろうと理解をする人もいるかもしれないが、感情的ないじめは分かりにくいから、それに対しては理解を示す人はあまりいない。
英語に、「猫がネズミをなぶり殺す」という表現がある。「猫がネズミをなぶり殺す」ように子どもの心をなぶり殺すなどといえば、ひどいことをする親がいるものだ、という人がいるかもしれない。
しかし繊細な子をからかいながら、とことんいじめる親はこれをしているのである。
冷酷な親から「猫がネズミをなぶり殺す」ようにしていじめぬかれた子に対して、自分をいじめた親を「理解する」などと言えば、その子は「何も分かっていない」と怒りを覚えるであろう。
しかしそれにもかかわらず、地獄からの出口は「憎しみの感情を消すこと」、これしかない。憎しみの感情を持つ人にとって、地獄からの出口はない。
レジリエンスのある人が「信じた」ように、憎しみの感情を消す決意をするしかない。
【著者紹介】加藤諦三(かとう・たいぞう)
1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。