日本の若者の不満は世界最高
不安だからしがみつきたい。すると要求がエスカレートしてくる。そして不安な人は、自分の要求をきわめて正当であると思い込んでいる。そのときに私は、世界11カ国の青年の意識調査を思い出した。社会生活、学校生活、家庭生活、すべてにおいて日本の若者が最も不満が高い。日本の社会は失業率が最も低いし、犯罪率も低い。それらの社会的適応の数字は日本が最高の社会であることを示しているが、それなのに日本の若者が最も社会に対して不満なのである。
この世界11カ国の青年の意識調査をもとに、私は東南アジアの留学生に日本の若者の説明をした。東南アジアの留学生はこの調査は嘘だといって信じなかった。こんなに恵まれている日本の若者がこんなに不満であるはずがない、この調査は嘘だという主張である。
その大学の宿舎についても同じであった。世界66カ国の中で、これほどまでに完璧な連絡体制をとっているところはない。それなのにそこに参加した日本の若者だけが不満になり、怒り出した。
私はそのときに、さらにカレン・ホルナイの神経症的要求を思い出した。次の文章である。
"The world should be at my service." 自分に少しでも関係のある人はすべて自分に奉仕すべきであると信じ込んでいる。そして自分への奉仕の態度が自分の望む通りでないと怒り出す。その怒りの参加者を見ていて、やはりカレン・ホルナイの神経症的愛情要求の説明も思い出した。相手が自分のためにどれだけ犠牲を払っているかが大切なのである。彼らは周囲の人に対して「私のために犠牲の払い方が足りない」といって怒り出したようなものである。
それらの要求はすべてまさに要求であって、願望ではない。こうあってくれればいいのになあという願望ではない。際限もない要求を周囲の人にする。それだけにその要求がかなえられないということで不満になる。
一般車を買いながら、それがベンツのような高級車の設備がないと怒っているのである。自分の買った車はこの車なのだからしかたがないとは考えない。自分が支払ったお金と関係なく車の不備に怒る。不満に耐えられない。
欲求不満耐忍度ということがいわれる。どれだけ不満に耐えられるかということである。欲求不満耐忍度の低い人は、ほんの少しでも自分の思うようにいかないことがあると、すぐにイライラして怒り出す。些細なことでとり乱す。
それは依存性と不安の問題である。不安な人ほど欲求不満耐忍度は低い。依存心が強くて不安な人は、いつもイライラしている。
【著者紹介】加藤諦三(かとう・たいぞう)
1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。