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ハイヒールはウンチを避けるため? 中世ヨーロッパの汚物事情

左巻健男(東京大学非常勤講師)

2022年09月20日 公開 2023年10月13日 更新

 

ヨーロッパが衛生観念に目覚めたのはコレラの大流行後

コレラは、感染者のウンチで汚染された水や食物を口から摂ることによって感染する病気です。その原因菌のコレラ菌は1883年にコッホが発見し、翌年報告。コレラ菌の毒素により激しい下痢や嘔吐が起きます。

発症した人の80パーセントは軽症から中程度ですみますが、20パーセントは重症で水様の下痢により重度の脱水になります。致死率は2.4〜3.3パーセントですが、重症では50パーセントにも上ります。

コレラは何度も大流行を起こし、多数の人々を死に至らしめました。記録に残っているものでは、インドの風土病として長い間知られていたこの病気がインドのベンガル地方から始まり、他のアジア諸国に進出した時が第1次の世界的流行(1817~1823)です。

そのたった3年後には、またインドから始まり、ずっと広がった第2次の流行(1826~1837)が起こりました。その時、パリ、ロンドンだけでもそれぞれ7000人、4000人が亡くなりました。

第3次の流行(1840~1860)ではもっと多くの人が死亡し、イタリアで14万人、フランスで2万4000人、イギリスで2万人が死にました。この時は日本でも安政コレラの大流行が起こり、死者が29万人も出ました。

さらに、第4次の流行(1863~1879)、第五次の流行(1881~1896)、第6次の流行(1899~1923)となりました。日本では1879(明治12)年に16万人の患者が発生し、うち10万人余りが死亡したという記録が残っています。

なお、現在は1961年に始まった第7次の流行中です。世界では、毎年、130万人から400万人のコレラ患者が発生し、2万1000人から14万3000人が死亡していると推定されています。安全な水が確保できない地域、衛生環境が悪い地域で患者が発生しています。

コレラは、19世紀の間に計6回の世界的な大流行(パンデミック)を起こしました。このようなコレラの大流行は、上下水道、風呂、トイレなどの衛生設備の普及をもたらしました。コレラは衛生環境の改善された近代都市の生みの親ともいえましょう。

現在、衛生環境がよい国でのコレラの報告のほとんどは、海外の流行地から感染して帰国した輸入症例です。例えば、現在、日本では年間10人程度の発症が報告されていますが、すべて海外旅行者です。

わが国で近代水道が始まったのは、1887年からです。その年の10月17日に横浜で上水道が給水を開始しました。その後、 函館、長崎、 大阪、東京、神戸と次々に給水が開始されました。

 

著者紹介

左巻健男(さまき・たけお)

法政大学生命科学部環境応用化学科教授

1949年生まれ。栃木県出身。千葉大学教育学部卒業。東京学芸大学大学院修士課程修了(物理化学・科学教育)。中学二高校の教諭を26年間務めた後、京都工芸繊維大学アドミッションセンター教授を経て2004年から同志社女子大学教授。2008年より現職。
『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『よくわかる元素図鑑』(以上、PHPエディターズ・グループ)、『頭がよくなる1分実験[物理の基本]』(PHPサイエンスワールド新書)、『大人のやりなおし中学化学』(ソフトバンククリエイティブ)、『新しい高校化学の教科書』『新しい高校物理の教科書』(以上、講談社ブルーバックス)、『水はなんにも知らないよ』(ディスカヴアー携書)など編著書多数。

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