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「定年廃止、解雇規制緩和、完全能力給の導入」が日本を救う

2012年06月22日 公開

冨山和彦 (経営共創基盤〔IGPI〕代表取締役)

35 歳を過ぎたらあとは落ちるばかり!?

 1970年代くらいまでは、先ほどの図①のような「能力給≒年功給」という図式が成り立っていた。だが、その後、だんだん雲行きが怪しくなって、今日的にはまったく当てはまらない。

 新入社員の出来はそれほど変わらないのだが、入社後2、3年から急激に生産性が上がって、35歳くらいで一気にピークに達してしまう。そのようにS字を描いて上昇していったあとは、人によって分かれるのだが、おおかたの人は35歳を頂点に、徐々に生産性が落ちていく(図②参照)。

 ところがその一方で、実際に支払われている賃金実態は、昔とあまり変わっていない。

 だから早い段階で生産性曲線が賃金曲線とクロスして、それを下回ってしまう。賃金のほうが上になるから、働きに対してもらいすぎ、企業から見れば払いすぎの状態がずっと続くことになる。ピークアウトが早い分、トータルでは明らかにもらいすぎの人が多くなる。

 これがさまざまな業種、いろいろな規模の企業の人々と再生を巡って深く関わってきた私の実感である。入社直後は社会人になりたてで、名刺の出し方から教わることになるから、生産性は低い。逆に言うと、即戦力とはとても言えない大卒新入社員を、仕事ができるレベルにまで育ててくれるわけだから、最初の2、3年は大企業に入ったほうがお得、と言えるかもしれない。いわゆるフィニッシングスクール的な教育を施してくれるのが、日本企業のよさでもあった。

 ところが、入社後3年もすると、ひと通り仕事を覚えて、今度は働きすぎモードになる。会社からすると、アンダーペイ(支払い不十分)の状態だ。彼らの稼ぎで、ピークを過ぎた上の世代の賃金を穴埋めすることになるので、これもある種の世代間搾取の構図である。この段階で嫌気がさして、会社を去ってしまう優秀な若手も少なくない。

 この格差の解消には、35歳でピークを過ぎたら、それから先は能力に応じた分しか払わないようにするしかない。つまり年功給を名実ともに全廃して、完全能力給を導入する。これしかない。

 生産性の低下に応じて給料を下げられるのであれば、企業は年配者を、定年過ぎまで雇うことができる。能力並みにしか給料が支払われないので、人によっては年収200万円以下まで落ちるかもしれない。

 だが、仕組み自体はサステイナブル(持続可能)だから、働く意志があって、その能力もあるなら、70歳になっても働き続けられるはずだ。定年廃止と能力給がセットというのは、そういう意味だ。

知的労働的な仕事が増える時代の雇われ方

 今後、社会の趨勢で知的労働的な仕事が増えていくにつれ、35歳を超えてもさらに能力が伸びる人の数はどんどん減っていくだろう。

 その先行指標としてわかりやすいのが、役人の世界だ。かなり純粋に知的労働だから、全体の九割以上は35歳でピークアウト。残りの数パーセントの人間だけが、35歳を超えても右肩上がりで伸びていく。良い悪いではなく、そういう性格の仕事なので、しかたない。

 戦略コンサルタントの世界も似たようなものだ。みんなが同じように成長できるのは35歳くらいまで。そこから先は、人によって成長の角度が全然違ってくる。さらに伸びる人間もごく稀にいるけれど、おおかたの人は落ちていく。

 IT業界はもっとシビアだ。プログラミングやクリエーターの世界は、20代後半で早くもピークに達して、30代以降も通用するのは一部のスーパーマンだけ。

 年を取ると、学習能力が落ちてくる。頭がだんだんカタくなって、新しいモノが吸収できなくなってしまう。ブレない軸を持つことは大事だが、現実の変化についていかなければ、言っていることが古くなってしまう。変化の速い時代だから、キャッチアップしようという意識をなくしたとたん、持っている知識が陳腐化する。高い意識で日々勉強し続けるには、体力も欠かせない。

 現実には「一流プロフェッショナル」的なレベルまで行けるビジネスパーソンは、そう簡単には生まれないだろう。であれば、各企業はコストパフォーマンスの観点から、35歳を超えた人々の給料は概ね下げたいと考えるはずだ。その代わり、雇用期間を一定年齢で一律に切る必要もない。そこで下がった給料に耐えられないとしたら、自分がもっと比較優位のある仕事や会社に移動できる。

 明らかにお荷物扱いされ、仕事ぶりと給料が釣り合わないと自他ともに認める人々を、「雇用を守る」という大義名分だけでたくさん抱えている職場が、私には真に人間的職場、本当に人に優しい職場とは思わない。リアル経営者として言わせてもらうなら、人を大事にする経営とは、その人の適性、比較優位をよく理解し、尊敬し、その人にフィットした仕事、適性を伸ばせるような仕事を提供する経営である。

 裏返して言えば、そういう仕事を提供できなくなったときには、その人を飼い殺しにするのではなく、次のステップに進むことを勇気づけ、その移行過程を物心ともにできるだけサポートする経営である。そういう意味で、いま、日本に定着している労働慣行が、このIT化の時代に、若い世代に(おそらく中高年世代にも)人間的な働き方を提供できているとは思えない。

☆ 『30代が覇権を握る!日本経済』 特設ページはこちら

 

冨山和彦

(とやま・かずひこ)
 
経営共創基盤(IGPI)代表取締役CEO/パートナー

1960年生まれ。東京大学法学部卒、スタンフォード大学経営学修士(MBA)。ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトデイレクション代表取締役社長、産業再生機構COOを経て、IGPIを設立。数多くの企業変革や業界再編に携わり、現在に至る。
主な著書に『挫折カ―― 一流になれる50の思考・行動術』『IGPI流 経営分析のリアル・ノウハウ』(以上、PHPビジネス新書)『カイシャ維新 変革期の資本主義の教科書』(朝日新聞出版)『会社は頭から腐る』(ダイヤモンド社)などがある。


◇書籍紹介◇

30代が覇権を握る! 日本経済

冨山和彦 著
本体価格 900円   

「働き盛り」のカネ回りが良くなり、努力が報われる社会へ。本書では、高齢社会のための負担増を真っ向から否定。「おカネがある人間は、自力で生き抜く」ことを前提に、消費増税、年金負担額アップ、医療費の増など、ビジネスマンを追い詰める愚策を柔軟なアタマで、ひっくり返す! スカッとする経済提言が満載。
 



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