昨今ソーシャルゲームにハマり、重課金してしまう人が後を絶たない。なぜ人類は、ここまでソシャゲに熱狂しているのか。そのヒントは神経伝達物質「ドーパミン」にあるという。人に愛されるために生まれてきた世界初の家族型ロボット「LOVOT」の開発者・林要氏が、人類をドーパミン漬けにする現代ビジネスの功罪について語る。
※本稿は、林要著『温かいテクノロジー AIの見え方が変わる 人類のこれからが知れる 22世紀への知的冒険』(ライツ社)より一部抜粋・編集したものです。
ドーパミンの分泌を対価として多くのビジネスが狙っていること
LOVOTの開発資金を得るべく、投資家まわりをしていたときのことです。
比較的よく聞かれたのは「なぜLOVOTは必要なのか」という問いでした。「ゲームのような要素を持たせて、LOVOTに熱中するようにしたらどうか」というお話もよくいただきました。
それらの問いが、ぼくには「いまのLOVOTでは人を依存させられないよ」と指摘されているように聞こえました。
期待してくださっているからこそとは理解しながらも、「ドーパミンが出るビジネスは成功するが、そうではないものではうまくいかない」とも解釈できる助言を多くいただき、「それが現代ビジネスの評価指標なのか」と、釈然としない思いを持ちました。
人類の脳内には、欲望や学習意欲を司る「報酬系」という神経回路があり、そこで重要な役割を担うのがドーパミンです。
ドーパミン濃度を上げると、報酬系が活性化し、快楽を得られます。その効果は、依存性薬物であるヘロイン・コカイン・ニコチン・モルフィネなどを摂取することでも得られます。
これらのように「身体に悪いもの」という認識がある薬物には、避けようという意識が働く人も多いでしょうが、依存性についての認識が薄いものに対してはどうでしょう。
たとえば糖分は「報酬系を活性化させる」という意味で、同様に依存しやすい物質です。
スイーツやお菓子、ジュースやエナジードリンクに入っている多量の糖分を摂取すると、ドーパミンが出ます。「甘いものを食べたくなる」という現象は「(甘いものを食べたときに出る)ドーパミンを欲している」とも言い換えられます。
外食に多量の砂糖が使われることが多いのは、そのほうがお客さまのリピート率が上がるからです。「砂糖依存症になる人が増えたことで、糖分が麻薬や戦争より多くの人を殺している」という話まであります。
そもそもドーパミンは、最終的に生き残り、子孫を残すうえで必要な行動に対して分泌されるように進化適応してきたと考えられます。にもかかわらず、生きるために無関係な行動で分泌される状態は、環境とミスマッチを起こした報酬系の「仕様バグ」とも言えます。
本来は生きるために人を突き動かす役割だったドーパミンが、つねに出続けている。それが常態化してしまって、さらに強い刺激を渇望する。まさに「依存症」と言われる状態です。
パチンコの演出が派手だったり、あるいはスマホゲームが「ガチャ」と呼ばれる大当たりの仕掛けの設定を設けたりしているのも、ドーパミンが出る快感による依存を狙っています。
見方を変えれば「この視点こそが現代ビジネスの本質」という考え方もできます。
極端に言えば、ユーザーであるぼくらは、ドーパミンの快楽を得ることができるものにより多くのお金を払う傾向があります。
この領域にお金が集まっているため、いま世界の頭脳は「ドーパミンを求める人類にその分泌の機会を提供する代わりに、いかにして(企業が儲かるように)認知や行動を変えてもらうのか」という問いを解くために使われていると言っても過言ではありません。
なぜ人類はソーシャルゲームにハマったのか
なかでもソーシャルゲームへの熱狂は、実に興味深いメカニズムです。
提供者もビジネスですから、ユーザーからの課金額を増やすことを当然目指していますが、「どうすれば課金額が増えるのか」というメカニズムを業界の方から聞かせてもらったことがあります。
「おもしろいゲームをつくれば課金される」と思いがちですが、どうもそうではないらしいのです。
大事なのは「無課金で遊んでいるユーザーの数がどれだけ多いか」だそうです(だからこそ、結果的にゲームがある程度はおもしろい必要はあるのですが、逆におもしろくて熱狂的な課金ユーザーがいる状態でも無課金ユーザーが少なければ、収益は上がらないようです)。
ソーシャルゲームのコミュニティには、一定の大きさが求められます。たとえば、あるゲームを100人しかプレイしていなければ、100人のなかでトップになりたいというモチベーションで払えるお金は100円かもしれません。
しかし100万人がプレイしていたら、100万人のトップになるために100万円を投じても惜しくない人が出てきても不思議ではありません。もしくは、登場するキャラが自分の「推し」になると、応援したり、関連アイテムを収集するために課金したくなるのかもしれません。
このような目標を持ち、それが実現できると、人類は快感を覚えます。有形であろうと無形であろうと関係ありません。大きな目標を実現できるのであれば、(たとえそれがお金になるかならないかとは無関係に)心地よく感じるのです。
人類の持つ本能を実にうまく理解しているビジネスの1つだと思います。
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名作絵本が子どもたちに何度も「読んで」とせがまれる理由