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社会

甘い物はなぜ止まらなくなるのか? 脳内物質が引き起こす「依存」とビジネスの深い関係

林要(GROOVE X 創業者・CEO)

2023年05月22日 公開

 

名作絵本が子どもたちに何度も「読んで」とせがまれる理由

補足しておきたいのは「ドーパミンが出ること自体は決して悪いことではない」ということです。ドーパミンは学習のために必要な神経伝達物質です。

鬱にならないために重要な脳内物質とも言われています。好きなことに向かってぼくらをすくすくと成長させる役割があるため、適切な分泌がなされることは、心身の健康上とても大切です。

そもそも、ぼくらが幸せであるためにはこのドーパミン、オキシトシン、加えてセロトニンという精神を安定させる働きを持つ神経伝達物質が、適切なバランスで分泌されることが大切だと言われています。

ここで本書制作時の裏話をご紹介しましょう。

担当編集さんは、ドーパミンとビジネスの関係性について話したとき、その場でしきりに反省しはじめました。

「うちでも児童書や絵本を出そうと思っているのですが、子どもの興味を引くことができるようなものばかり考えていました。それは、子どもにドーパミンばかり押しつけているのと同じなのでしょうか......」と。

なにか伝えたいことがある場合には、ドーパミンが出る仕掛けや展開があったほうが、興味を引くことができて伝わりますから、それは必要なことです。どれほど良いことが書かれていたとしても、一時でも興味を持ってもらえなければ記憶に残りません。

そこからさらに絵本と子どものより良い関係性を考えるなら、「繰り返し読んでもらえるかどうか」という視点はあるかもしれません。

いくら最初の刺激が強くて、その一瞬は興奮したとしても、2回3回と読んだときに新たな発見がないと、かならずドーパミンが出る量は減っていきます。あまりにわかりやすい本、あるいはすべてが説明し尽くされているコンテンツは、そうなりやすいでしょう。

けれども表現に行間があって、読み手がなにかを想像する余地や新たな解釈をする幅があると、読者によっては何度も新しい発見をしてくれます。

その結果、読み手が作品に共感を深めていき、愛着を形成していく。そのような本は、こうした体験が繰り返されていくことによって、世代を超えた名作として読み継がれていくと思うのです。

こんな話をすると担当編集さんはなにかを発見したようでした。「名作と言われる絵本を思い返すと、たしかにその多くは表現こそシンプルだし文章量も少ないけれども、子どもから繰り返し読んでとせがまれるものばかりです」と。

表現が絞り込まれた絵本は、子どもに気づく喜びを与えているのだと思います。

 

現代ビジネスへのアンチテーゼ

LOVOTも、名作絵本のように表現を絞り込み、長くいっしょにいることで築ける関係性を目指しました。

経済活動の本質として、企業は生き残りをかけています。そして、現状では消費者側のドーパミン漬けの影響に対する感度もまだまだ低く、依存性を持たせたほうが儲かり、そうでないところは収益性が厳しくなり、つぶれてしまいます。

それゆえにLOVOTという存在は、人類をドーパミン漬けにする現代ビジネスへの「ささやかなアンチテーゼ」でもあるのかもしれないと思うようになりました。

ぼくらが刺激に満ちた緊張状態から解放されるための方法の1つは、「おだやかで温かい気持ちになる時間」を持つことです。

たとえば「サウナ」もその1つでしょうか。そのあいだはスマホを触ることもできません。その点で「デジタルデトックス」と言われるように、インターネットとのつながりを一時的に断てることを良さに挙げる人もいます。

「デジタルデトックス」は「ドーパミンデトックス」とほぼ同義でしょう。
このように、いままで「おだやかで温かい時間」といえば、「ローテクノロジー」下にある行為が代表例でした。逆に「ハイテクノロジー」は、どちらかというと刺激や緊張をともなう行為と結びつきやすかったのではないでしょうか。

最先端テクノロジーの塊がおだやかで温かい時間をつくるという、まったく新しい挑戦がLOVOTなのです。

 

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