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日本の飼い犬の54%がシニア...人間より加速する「ペットの高齢化」の実情

羽鳥友里恵(愛玩動物飼養管理士/ペット防災危機管理士)

2023年08月21日 公開 2024年12月16日 更新

日本の飼い犬の54%がシニア...人間より加速する「ペットの高齢化」の実情

2007年から超高齢化社会に突入した日本では、医療・福祉の人材不足や、高齢者の孤立化など様々な社会問題に直面しています。これらの社会問題に対する課題意識が高まる中で、実は"高齢化"しているのは、人間だけではありません。いまや多くの人が一緒に暮らしている「シニア犬/猫」が増加し続けているのです。社会はペットの高齢化にどう向き合うべきなのでしょうか。羽鳥友里恵氏が語ります。

【羽鳥友里恵】
愛玩動物飼養管理士・ペット防災危機管理士。博報堂での広告営業の仕事を経て、 2021年7月に「日本をペットフレンドリーな社会へとアップデートする」ことを ビジョンとして掲げた株式会社PETSPOTを創業。 ペットを飼っている人と飼っていない人が共存できる社会環境/意識向上に取り組む事業を展開。
また株式会社SARABiO温泉微生物研究所(https://www.saravio.jp/)にて、 ペットライフスタイルブランド「Docpal」や「BESTIES」をプロデュースし、 2022年4月同社の最高動物福祉責任者(CAO=チーフ・アニマルウェルフェア・オフィサー)に就任。

 

犬猫の平均寿命が年々延びている

働き方改革や、女性が働きやすい社会環境や法律が整備されてきています。それに起因して、婚姻率や出生率が低下していること、そしてペットも家族であるという意識が高まっていることから、子供を産めない/産まないかわりに、ペットを家族として迎える人が増えてきています。

また、子供が大きくなったから、セカンドライフとしてペットを家族に迎えるというケースもあります。

犬猫は、7歳を超えるとシニア犬/猫といわれ、体重や体のサイズにより多少異なりますが、人間では大体44歳くらいだと想定されています。

実際現在の日本では、犬705万頭、猫883万頭、合計、約1588万頭(※1)の犬及び猫が飼育されています。そのうち犬が54.3%、猫は43.5%がシニア犬/猫と言われています。
(※1参照:一般社団法人 ペットフード協会https://petfood.or.jp/topics/img/221226.pdf)

また、犬猫の平均寿命は、動物医療の発達、ペットフードなどの質の上昇、飼育環境の変化などの要因に伴い、年々延びています。

実際、10年前は犬13.9歳、猫14.4歳だった平均寿命が、現在では犬14.65歳、猫15.66歳(※2)まで延びたという調査もあります。平均で15年以上生きる動物として、「人間と犬猫の共存」を考えていくことが大切です。
(※2出典:一般社団法人ペットフード協会「全国犬猫飼育実態調査 令和3年度」)

人間も動物も"高齢化"というと、社会的にネガティブなイメージが持たれていますが、果たして"シニア犬/猫の増加"は、日本の経済や社会に対して具体的にどのような影響を与えているのでしょうか。

 

人間と犬の老々介護

1つは、飼い主自身が高齢化することで、ペットの飼育が困難な状態になってしまうことが上げられるでしょう。高齢に伴い病気の発症や認知症、足腰が弱くなることでペットの餌やりやお散歩など日常ケアが十分にできず、ペット自身が心身ともに健康ではいられなくなってしまいます。

また、飼い主の入院が必要な場合に、面倒を見てくれる人がいないと、飼育放棄に繋がってしまうこともあります。動物愛護の観点でも一部の動物愛護センターや、保護犬・猫の里親を探す保護団体では65歳以上の人に譲渡をしないと決めている団体もあります。

しかし、ネガティブなことばかりではありません。ペットと暮らしていることは、高齢者の健康維持にも繋がるのです。

例えば、ペットをお散歩に連れ出すことで、毎日歩く機会を作り、運動頻度が増え、足腰が健康な状態を維持できたり、近隣のペット飼育者同士の会話が増えるきっかけになります。地域コミュニティーの希薄化防止になることで、昨今問題になっている「高齢者の孤独死」などを防ぐことにも繋がります。

さらに、今年2月には、東京都健康長寿医療センター研究所の「ペットの飼育」は介護予防だけでなく「介護費の軽減」にも効果あることを発表しました。

実際に、既往歴や要介護認定者数には差のない「ペット飼育者」と「ペット非飼育者」との間で、医療費と介護費それぞれに差があるのか—を調査した結果、介護費(同)は、ペット飼育者676円、ペット非飼育者1420円で有意差があることがわかりました。

このように「ペット飼育者では そうでない者に比べて介護費が約半額に抑制されている」ことから、犬や猫の飼育は介護予防効果のみならず、介護費の抑制にも寄与する可能性を示唆しています。

2つ目は、お金と時間が必要になることです。ペットが長生きをするということは、それだけ一緒に生活する時間も長くなります。大切な家族と少しでも長く一緒に生きられることは、とても幸せなことです。

しかし、その分ペットもシニアになれば、介護が必要になることを忘れてはいけません。体が動けなくなってしまうこと、排泄がうまくできなくなってしまうこと、病気になってしまうこともあります。

介護ケア、治療通院、手術など、思いがけない高額な治療費が発生したり、言葉ではが話せないからこそ、愛犬、愛猫の様子を注意深く観察して、変化に気づいてあげることが、飼い主の責任です。

そして、お金と時間とともに、精神的な影響も発生することも理解をしなければなりません。衰えていく家族を見ているのは、辛い一面もあります。シニア犬/猫になり、より一層お世話に時間がかかる分、生活や働き方も見直す必要性が出てくるでしょう。

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