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生き方

収入は減ったが...“酷暑の東京”を抜け出し、札幌移住したフリーライターの生活

高橋一喜(温泉ライター)

2023年09月08日 公開 2023年09月08日 更新

 

あらためて実感した東京の凄み

移住して想定外だったこともある。なんと、札幌に移住してから1年間は一度も東京に戻らなかった。地方の温泉地には足を運んだが、仕事の拠点である東京には一度も行く機会がなかったのだ。

東京の仕事がなかったわけではなく、結果的にリモートですべて完結したからだ。移住前は打ち合わせや取材で年に何度か東京に行くことになると踏んでいたが、とうとうその機会はなかった。

移動や面会が憚られるコロナ禍特有の事情ももちろんあったが、相手がわざわざ札幌から来てもらうのも...と気を遣ってくれた結果でもあると思う。

その裏では、「遠いから仕事を頼むのはやめよう」と判断され、流れてしまった仕事もあると想像できる。にしても、すべてリモートで完結できたのは、これから仕事をする上でプラスの材料となる。なぜなら、どこにいても仕事ができるということが証明できたからだ。

もちろん、執筆・編集という特殊な仕事であるから成立したともいえるが、想像以上にリモート化が進んでいることを実感することになった。

札幌に移住したことで、これまで住んできた東京の魅力を再発見できたのも、意外な移住効果だった。

東京は札幌などの地方都市とはあらゆるものの規模が違う。

経済の規模も人の多さも桁違いだが、やはり東京はエネルギーや刺激に満ちている。住んでいるときは当たり前の環境に慣れ切っていたが、東京から離れて1年近くが経った今、大都会・東京ならではの凄みをあらためて実感している。

移住後、2年ぶりに仕事で東京に行く機会があった。大げさかもしれないが、東京の街がキラキラと眩しく見えた。住んでいるときはストレスに感じた町の賑やかさや人の多さも新鮮に感じられたのだ。

慣れの問題であるのはわかっているが、大都市で得られる刺激が、ポジティブな気持ちにさせるのは間違いないようだ。

そこで思いついたのは、ときどき札幌から東京などの都市部に出て、ワーケーションをするというアイデアである。

都市部にしばらく滞在し、そこでしか体験できないスポットやイベントなどを訪れて、さまざまな刺激を受けて帰ってくることは、ビジネスにとっても人生にとってもプラスになるはずだ。街を歩いているだけでも、普段の生活からは思いもよらない発想のヒントが見つかる可能性がある。

地方に住んでいる人で、東京など都市部に出張する機会があるビジネスパーソンなら、仕事のついでに延泊して、都市部で休暇を楽しんでもいいだろう。いわゆる「ブレジャー」という形態である。

もちろん、出張などなくても、都市部でテレワークをしながら、さまざまな場所に出かけて刺激を受けるのもいいだろう。

東京の温泉に入って、「都市型温泉ワーケーション」を敢行するという選択肢もある。私は東京で仕事をする間、千葉にある実家に帰っているが、地元のスーパー銭湯を重宝している。循環ろ過しているものの、個性的な湯で快適な時間を過ごすことができる。

東京以外でもこのような「都市型温泉ワーケーション」は可能である。たとえば、福岡の都市部でワーケーションを実施するというプラン。博多駅から電車で十数分の距離には二日市(ふつかいち)温泉という歴史ある温泉地が存在する。温泉宿を拠点にして、博多の都市部のコワーキングスペースを利用しながら「温泉ワーケーション」をするのもありかもしれない。

ワーケーションは「都市→地方」の一方通行ではない。「地方→都市」という発想をもつことで、ワーケーションの可能性はさらに広がるのではないだろうか。

【高橋一喜(たかはし・かずき)】
温泉ライター。千葉県生まれ。上智大学卒業後、2000年ビジネス系出版社に入社し、経営者向けの雑誌やビジネス書の編集に携わる。2008年3月、温泉好きが高じて会社を辞め、「日本一周3000湯の旅」に出発。386日かけて3016湯を踏破。現在はフリーランスとして書籍の編集・ライティングに携わるかたわら、温泉ライターとして活動し温泉の魅力を発信している。2021年東京から札幌に移住。著書に『日本一周3016湯』『絶景温泉100』(ともに幻冬舎)、『ソロ温泉―空白の時間を愉しむ―(ICE新書)』(インプレス)などがある。『有吉ゼミ』『ヒルナンデス!』『あさチャン!』『マツコ&有吉かりそめ天国』などメディア出演多数。

 

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