主婦の仕事は大半がパート
専業主婦世帯が600万世帯となり、共働き世帯がその割合を増やしている。とは言っても、その共働きの内実は「夫は仕事、妻は仕事と家事育児」という新・性別役割分担のケースが大半だ。
2018年度の労働力調査を分析すると、結婚している15〜64歳の女性で雇用されているのは1415万人。そのうち、60%に当たる845万人が非正規雇用者で、正規雇用者は37%で529万人。有配偶女性の中では非正規雇用>専業主婦>正社員という人数構成比になっている。
子育て中の世代の内実はどうか。厚生労働省「二一世紀出生児縦断調査」によれば、平成22年に生まれた子の母親で出産一年前に常勤だった母が38%いたものの、出産半年後で全体の25.2%に減少。平成13年出生時に比べればこの減少幅は改善している(図9)。
その後、第7回調査で子どもが小学一年生になると有業率は出産1年前を越すまで回復するのだが、内訳を見ると、常勤割合は微増にとどまり、再就職しているケースは大半がパート・アルバイトであることがわかる。
日本では、高学歴主婦が多い、つまり大卒以上で男女の就労率の差が大きく、大卒女性が就労しない割合が欧米に比べて大きいという傾向が、かねてより指摘されてきた。
主な要因として、たとえば白波瀬佐和子『日本の不平等を考える』では高学歴を取得してもそれに見合う就業機会、昇進機会がないことを挙げている。
大沢真知子『21世紀の女性と仕事』は、日本では企業内でさまざまなスキルを身につけながら昇進していく内部労働市場が発達した反面、外部労働市場が発達しておらず、過去の仕事の経験を生かせる仕事に就きにくい構造ができていることを指摘する。
つまり、高処遇の仕事は拘束性が強いかわりに家族責任を持たない正社員に割りふられ、そこから一度外れた人は学歴と、処遇や仕事内容のギャップに直面しやすい。これに加え、夫の収入が十分であれば再就職を諦め、専業主婦化する要因にもなっている。
実際に再就職しパートとして働いている人に話を聞くと、働ける時間が限定されることで選択肢が限られることから、まったく違う業界に飛び込み、新人さながらに四苦八苦している人も多い。
中には「若い人に『こんなことも知らないの?』と言われる」「『サポート業務だけしてくれればいいよ』といった態度を取られる」などの経験に憤慨している人もいた。
自分のそれまでの経歴がまったく評価されない、あるいは経歴を生かした成果を出せていてもそれに見合った待遇を受けられない。パートであるというだけの理由で賃金が低く、格下に見られる。
それでも彼女たちが強く出られないのは制約があるからだ。子どもが学校から帰ってくる時間内での仕事をしたいから。長期休みに対応してもらえるのはありがたいから。
子育てなどを他の人に頼むことができれば働く時間は延ばせるかもしれない。しかし、鶏と卵ではあるが、待遇が低いと、子育てや家事の一部を外注して時間を捻出しようという気にもなりにくい。
日本人女性の平均賃金は男性の7割程度
日本はジェンダーギャップ指数で2018年に149カ国中110位になるなど国際比較上、女性に不利な国であることが知られている。こうした国際比較で順位が上がらない理由の一つとして、賃金格差がある。
山口一男『働き方の男女不平等』は、雇用形態内格差と雇用形態間格差の二重の不利益を受けていると指摘している。まず、パートタイム勤務者を除いても女性の平均賃金は男性の7割程度にとどまる(図11)。
フルタイム正社員の間でも、長時間労働ができない場合は一般職とするなどの間接差別があり賃金差が大きいのだ。
そして、そもそもフルタイム正社員になれる割合が女性は低く、賃金が低い雇用形態に女性が圧倒的に多い。これらが賃金格差につながっているということだ。これは家庭での力関係とやはり切り離して考えることはできない。
一時期、読売新聞の「人生相談」というコーナーを毎日読んでいたところ、多くの中高年女性からの相談が「夫と離婚したい」であった。
そして誰が回答をしても、アドバイスはほぼ「まずは経済的自立の確保を」というものだった。でも、そのときになって再就職するのが難しい社会では、これは実現困難な、酷なアドバイスかもしれない。
きちんと男女の賃金格差を縮めていくことは、「女性が家庭責任を一手に引き受けること」に合理性を与えてしまっている状況を改善するためにも重要だ。
日本人男性の家事・育児時間は国際的にも少ない。その要因としては、会社での労働時間が長すぎることなどが論じられている。
しかし、自分のほうが稼いでいることを理由に女性に家事を期待する夫も多く、女性側も収入が低いことから「自分がやらなくちゃ」「自分はそこ(家事育児)で価値を出している」と思おうとする面もある。交渉力を上げていくには、やはり子どもがいても女性の収入がきちんと上がっていくことが必要だろう。
もちろん、その役割分担がお互いにしっくりきている家庭までも変えるべきとは言わない。人生の一時期、それぞれの役割があったり、それが入れ替わったりすることもあるだろう。
しかし「男性が稼ぎ主、女性は家庭」の役割分担を解除していくには、間接差別の禁止や男性を含む全体の働き方改革をしたうえで同一労働同一賃金を実現し、女性の収入アップや経済的自立の確保につなげていくことが必須だ。それがない限り、女性たちは夫に抗議できず、家庭内でも弱い立場に置かれやすいという構造は断ち切れない。
職場でも男性が長めに働き、女性はサポート的な役回りという構造をこわせなければ、働き方改革も中途半端になり、潜在能力を生かした人材活用もままならないだろう。