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生き方

周りと比べてしまうのは本能...僧侶が教える「劣等感の鎮め方」

大愚元勝(住職・慈光グループ会長)

2023年11月16日 公開

 

便利な現代社会だからこそ「思い通りにならないのが人生」

お釈迦さまは、私たちの心にはこの慢に加えて、「我」と呼ばれるやっかいな心理が潜んでいることを指摘されました。

「我」とは、「この世で自分を最上位に、最優先に感じていたい」という心理です。

5人の営業マンがいたらその中で、私が1番でありたい。みんなで栗拾いに行ったなら、自分が1番多く拾いたい。同性の仲間といて、そこに素敵な異性が現れたならば、自分を1番に見てほしい。キツイ作業をやらなければならないとしたら、自分だけは楽をしたい、または自分が1番「がんばった」と称賛されたい。

このように、いつでもどこでも、どんな状況にあっても、「このわたくしを見て! 認めて! 大切にして!」と訴え続ける心が「我」なのです。

そんな話をすると「いやいや、私はそんなに自分大好きではありません」と言う人があります。「むしろ自分のことが嫌いです」という人があります。

そういう人は自分が上の1番になれないと、今度は「どうせ自分はダメな人間なんだ!」「無価値で生きている意味がないんだ!」と、下の1番(ビリ)を取りにいきます。

実はこれも強烈な「我」なのです。

かくして、他人との比較である「慢」と、自分が1番の存在でありたいという「我」が、決してそうはならない理想と現実とのギャップを生み出し、私たちを苦しめるのです。

さらにテクノロジーが進化した現代は、人類がかつて経験したことがないほどに、この「我」と「慢」を強烈に刺激する社会になってしまいました。

それがネット社会です。

インターネットが普及した現代社会は、スマホを通じて24時間365日ネットとつながれる社会です。

スマートフォンを開けば、そこには可愛らしい子がいたり、スタイルのいい人がいたり、高級ホテルやレストランで食事を楽しんでいる人がいたり、憧れの高級外車に乗っている人がいたり、驚くほどの美声やパフォーマンスを見せつける人がいたり、、、。

さらにネット社会はバーチャルの世界です。バーチャルな世界では、人間の妄想を、あたかもそれが現実であるかのように見せることができます。

ネット社会では、虚像を含む「我」「慢」を刺激する膨大な量の情報が絶え間なく五感に飛び込んで来て、知らず知らずのうちに嫉妬したり、落ち込んだり、「自分もこうありたい」、「自分はこうでなければならない」「自分ももっとこうなれるはずだ」という理想像を膨ませたりして、その理想と現実のギャップが開けば開くほど、私たちはその埋まらない差に苦しむことになるのです。

お釈迦様は現実に目を向けよと教えられました。そして四苦八苦という現実を説かれました。

四苦とは、生老病死のことで、生きること、老いること、病気になること、死ぬことは人間の根源的な苦しみであるということ。

この四つの苦しみに加えて、愛別離苦(大好きな人と別れなければならない苦しみ)、怨憎会苦(大嫌いな人に出会わなければならない苦しみ)、求不得苦(求めているものが手に入らない苦しみ)、五蘊盛苦(自分自身の心や身体が思い通りにならない苦しみ)の四つの苦しみが合わさったものが四苦八苦です。

ですから人生は四苦八苦がデフォルトです。四苦八苦の無い完璧な人生など、ありえないのです。

人間は神様ではありません。不完全で未完成で、脆弱な生き物です。その現実をしっかりと見据えた上で、さてそこからどう生きるのか。

理想の人生を妄想して歩めば、自分で自分を苦しめることになります。四苦八苦が現実と覚悟して歩めば、我慢に大きく振り回されることもなく、比較的穏やかに生きられます。

心が作り出すストレスに負けないメンタルを育てるためのヒントが、ここにあるのです。

 

著者紹介

大愚元勝(たいぐげんしょう)

僧侶

佛心宗大叢山福厳寺住職。僧侶・作家・事業家・セラピスト・空手家と4つの顔を持つ。YouTubeのお悩み相談チャンネル「大愚和尚の一問一答」は、登録者60万人を超える(2023年10月現在)。著書に『自分という壁』(アスコム)などがある。

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