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なぜ「環境保護」は批判される? 背景にあった”日本の特殊な環境”

菊池理佳(環境保全団体職員)、小林実央(PHPオンライン編集部)

2024年01月09日 公開 2024年12月16日 更新

なぜ「環境保護」は批判される? 背景にあった”日本の特殊な環境”


↑菊池さんがタンザニアでゾウの保護活動に参加した際の写真

エコ、SDGs、サステナビリティ...どれも近年急速に普及したワードです。人々の暮らしにも異常気象の影響が出始めている今、環境問題は他人事と捨て置けないものとなりました。しかし日本のサステナビリティへの取り組みは、いまだ浸透しているとは言い難い状況です。それは何故でしょうか? 環境保全団体の職員である菊池理佳さんに、ご自身の経歴を交えてお話しいただきました。

 

カメルーンで気づいた自身のエゴ

カメルーン↑カメルーンでの一枚

そもそも菊池さんが環境保全に携わるきっかけとは何だったのでしょうか。尋ねると、10代で受けた教育の影響があったと菊池さんは回想します。

「高校までキリスト教系の学校に通っていたので、給食の前には必ずお祈りをする時間がありました。また、先生から世界の人身売買や児童婚の現状を教えてもらったことで、自分がいかに恵まれているかを知ったのです」

途上国の人々が置かれている現状に胸が痛み、「人のために何かしたい」という強い意思が芽生えたといいます。そこで、大学在学中にはJICA(国際協力機構)のインターン生としてカメルーンに飛び立ちます。

「技術支援者の立場として、カメルーンのヤウンデに飛び、現地の中小企業にカイゼン(トヨタの生産方式に含まれる1つの手法)のノウハウを共有するプロジェクトに参加しました。当時は何とかして日本の技術を教え、助けてあげたいという気持ちでいっぱいでした」

カメルーンの人々の苦しい暮らしを少しでも支援したいという思いから、プロジェクトに打ち込んだ菊池さんですが、インターン最終日に現地のカメルーン人から掛けられた言葉によって価値観が大きく変えられたといいます。

「インターンの最後に現地人から、"カメルーンから日本に持ち帰りたいと思ったものはありましたか?"と聞かれて、私は答えられませんでした。当時の私は、自分が恵まれた生活をしていると思いすぎて"助けてあげなきゃ"というエゴで頭がいっぱいになっていたんです。

人道支援は、途上国の人を助けることだと思い込んでいました。ですがカメルーンでの経験や、姉に"日本にも課題はたくさんあるんだよ"と諭されたことで、自分の認識が誤っていたことに気づきました。そこで途上国に目を向ける前に、まず日本か抱える課題から取り組もうと思ったのです」

 

日本で環境への関心が高まりにくい理由

ヤウンデのレストラン↑菊池さんがよく通っていたというヤウンデのレストラン

世界中で環境問題への意識が高まる中、日本ではサステナビリティの面で遅れを取っていると言われています。この原因としては何が考えられるのでしょうか。

「日本の企業は海外からの輸入に頼りきりで、少しでもコストを下げようと製品の原料を買い叩いています。途上国の土地が荒れる最大の原因はそこにあります。原材料に対して適正な価格が支払われないため、途上国では労働者の酷使や、土地の荒廃が起きるのです。

私たちが普段使っているモノのせいで途上国では搾取が起きています。私たち環境保全団体は大企業に管理された原料を使うことを求めていますが、なかなか理解いただけないのが現状です」

なぜ日本の企業や、消費者には「環境に良いモノを使う必要性」が伝わりにくいのでしょうか? 菊池さんは、"日本の特殊な環境"が影響しているのではないかと推測します。

「例えば、アメリカでは数世代辿ると移民や農家だったという人が多くいます。だから、どんな人にとっても搾取は他人事ではないんです。自分に関係し得る問題ですから、自然とサステナビリティへの関心も高まります。

ところが、日本で搾取の問題はどうしても自分事として考えにくい。それこそが、日本でサステナビリティへの取り組みが進まない要因だと思います」

サステナビリティ、SDGsへの関心が高まりにくい環境...。それでも、国際社会の一員として、これまでと同様のスタンスを取り続けることは出来ません。日本の社会がより自分事として課題に取り組むには、どのようなアプローチを取る必要があるのでしょうか。

「結局、人を動かすには、ビジネスにしてしまうのが一番の近道です。外資系の大企業がこぞってサステナビリティに注力するのは、投資家が環境保全に意識の高い企業に投資するからでしょう。

環境に良い行動をとるとお金が稼げる。そんな仕組みを作れたら、日本でも環境保全の取り組みは一気に広まると思います。今は小さい会社が一生けん命、利益もない中頑張って、大企業が片手間に活動している状態です。それも、日本だと環境保全にお金を稼げるイメージが付いていないからですよね」

 

エコなんてファッションでやってるだけ?

日本では環境活動家やアニマルライツに熱心な一部の人々に対して、冷ややかな目線が向けられることも珍しくありません。菊池さんの環境保全団体が運営しているYouTubeチャンネルにも、批判的なコメントが付くことがあるといいます。

「ネットでは"エコなんてファッションでやってるだけだろ"、なんてコメントが付くこともしばしばです。でも私はファッションで良いと思っています。環境に熱心なインフルエンサーの投稿に憧れて、可愛いマイボトルを持つようになる...。それを嘲笑う人もいるかもしれませんが、広まれば結果オーライなんです。

今は環境に良いモノの価格は高いですが、ファッションでも普及していくことによって、価格が下がって多くの人の手に届きやすくなります」

さらに、菊池さんは続けます。

「お金を払うという行為は1つの意思表示です。現代では余暇にできることがたくさんあります。動画を見る、服にお金を使う、旅行をする...。その中に、環境にお金を払う、という選択肢が入ってきても良いんじゃないでしょうか。

環境問題は遠いことに感じますが、夏が暑すぎるとか、もっと生活に密着したトピックであることを知ってほしいですね」

【菊池理佳】
東京都出身。東京外国語大学卒業。大学ではラテンアメリカ地域専攻で開発経済学について学ぶ。大学卒業後はIT企業に入社し、法人営業を経験。2023年環境保全団体に入局。企業とのパートナーシップをとりまとめる部署に所属する。

 

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