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トップダウンの職場ほど「イノベーションが生まれにくい」根拠

大賀康史(フライヤーCEO)

2024年02月09日 公開 2024年12月16日 更新

トップダウンの職場ほど「イノベーションが生まれにくい」根拠

ビジネス書を中心に1冊10分で読める本の要約をお届けしているサービス「flier(フライヤー)」(https://www.flierinc.com/)。
こちらで紹介している本の中から、特にワンランク上のビジネスパーソンを目指す方に読んでほしい一冊を、CEOの大賀康史がチョイスします。

今回、紹介するのは『まず、ちゃんと聴く。コミュニケーションの質が変わる「聴く」と「伝える」の黄金比』(櫻井将、日本能率協会マネジメントセンター)。この本がビジネスパーソンにとってどう重要なのか。何を学ぶべきなのか。詳細に解説する。

 

伝えるではなく「聴く」

まず、ちゃんと聴く。

伝える方法についての本は多くあります。特にホウレンソウやプレゼンテーションは、社会人になると誰もが直面するテーマで、私自身も様々な本を読んで少しでもうまくなれるようになれたらと思った一人です。

本書の切り込む角度は違います。テーマは「聴く」です。聴くという漢字を使ったときに、音楽を聴くことを想像するかもしれませんが、ここでは日常や仕事上の対話でちゃんと聴くシーンをイメージして使われています。

自分が話している時間は一日の中でごく一部であるのに対して、耳を働かせている時間はずっと多いはずです。それでも本書を読み進めると、ちゃんと聴くことができていた時間はわずかだったと気づくことでしょう。

話がしやすくて、熱心に聴いてくれるので、ついつい話しかけてしまう人が周りにも思い浮かびます。その聴く能力は、感性に基づくものに感じるかもしれませんが、本書を読めばそれは理性と感受性を動員すれば誰にでも行えて、その効果は大きいことが理解できるでしょう。

近年主流になりつつある会社内での定期的な1on1や、キャリアの相談、日常の会話に至るまで、聴く力を発揮できるシーンは限りがありません。本書はその入り口に立つ人にとって、救いの書になることでしょう。

 

withジャッジメントとwithoutジャッジメント

「聴く」とはどのようなことを指すのでしょうか。本書では「自分の解釈を入れることなく、意識的に耳を傾ける行為」と定義されています。言い換えると、「withoutジャッジメントで、意識的に耳を傾ける行為」となります。

それに当てはまらない行為は「聞く」と表現されています。一定の判断や評価をしながら相手の話を聞く、withジャッジメントで耳を傾ける行為となります。ほとんどの管理職の方は、知らず知らず「聞く」と「伝える」に終始してしまい、「聴く」がおろそかになってしまうことに注意が必要です。

今の世の中の環境から、「聴く」を大切に扱いたいシーンが増えています。1on1は主にメンバーと担当のマネジャー間で行われるものと言え、そこでは相手に寄り添うために「聴く」あり方が重要になります。会社上の役割には違いがあっても、人と人がフラットな関係で理解を深める時間として位置付けたいものです。

イノベーションは多様な視点を持つことで実現しやすくなると言われています。上位下達よりはフラットで、一つの視点よりは多くの視点が混ざり合ったところで、新しいアイデアは芽を出しやすくなります。つまり、今求められるイノベーションを促せる人材は、「聴く」ことが巧みな人である可能性が高いわけです。

なお、聴くことも決して万能ではありません。本書のタイトルにあるように、「まず、ちゃんと聴く」スタンスで会話に臨み、適切なタイミングでは伝えることも大切になります。

 

誰もが持っている肯定的意図

こちらからの視点では不可解に思えるようなことでも、その相手の振る舞いには何らかの意図があるという考え方が肯定的意図です。肯定的意図は例えば、攻撃的な言動の背後には保護があり、恐怖の背後には安全があり、怒りの背後には境界の維持がある、というようなものです。

これらはビジネスシーンにおける改革の場面でもよく目にします。普段の業務プロセスを変革する際には、ほぼ必ず今までの業務を変えたくないという抵抗があります。相手は築いてきた境界を維持したいのだと思われますし、人としての自然な反応とも言えます。

こちらからは非建設的、非生産的という好ましくない言動に見えても、裏には何らかの肯定的な意図が働いているということなのです。

こうした肯定的意図の理解があると、聴くという行為に一歩近づくことができるそうです。肯定的意図の存在を信じていれば、相手の話の中に「意図」を見出そうとする意思が持てます。

つまりこちらがどう判断するかは留保しておき、まずは相手の真意を相手の視点で理解しようという姿勢が保てるということです。

このマインドセットがあるかどうかが聴き方や表情などに表れて、相手がどこまで深く話すかに大きな影響があるように思います。心の中で相手を評価していたり、興味が持てなくなっていると、ほぼ間違いなくそれが話し手に伝わります。

ジャッジメントを手放して肯定的意図を信じて興味を持って聴くことができれば、相手もきっと心を開いてくれるようになるでしょう。

 

聴くと伝えるの使い分け方法

これまで「聴く」の大切さについて触れてきました。ただ、聴くだけであらゆるシーンに対応できるわけではありません。やはり、「聞く」ことや「伝える」ことが大切な場面は存在しています。

ではどのように「聴く」と「聞く」・「伝える」を使い分けるといいのでしょうか。そこで参考になるのがPositive Intention Matrixと著者が名付けられたマトリクスです。

横軸に時間軸として長い順に人生、キャリア、役職、タスクという4分類をとり、縦軸に下から影響を与える順に価値観・信念、感情、思考、言動をとります。

今まで取り上げられてきた「聴く」が適切なのは左下、つまり人生や価値観・信念に近い領域で、「聞く」・「伝える」が適しているのは右上、つまりタスクや言動に近い領域です。具体的なタスクの相談を受けているのに、聴くばかりでは答えが出ないですね。聞くや伝える方がいいシーンもあるのです。

また、人生や価値観・信念のような内容は、withoutジャッジメントでちゃんと聴くスタンスが合っているようです。内容に応じて、適切なコミュニケーション方法を使い分けると良いことがわかります。

 

聴く力を育てることは人間力を育てること

ビジネスのシーンを思い浮かべると、スピードが決定的に重要な場面が多いので、聴くべきところでちゃんと聴くことは難しい面があります。

子育てとは待つことだという言葉もあるように、相手を信じて待つことが大切だと頭では理解していても、忍耐力が伴わないときや、こちらのコンディションが整っていないときにはなかなかちゃんと聴くことができなくなってしまいます。

また、人は話しているときに快感を得やすい傾向があるように思います。自分のことを話しているときには、快楽につながるホルモンが分泌されているとも言われています。

聴くことは、相手に話す場を与えることにより自分にも場からのフィードバックが得られていくような、相互の関係性における利他のマインドが求められることにも思えます。

これからはますます、出世や達成などの過去重要だったストーリーで動かされる割合が減り、個々の個性に根差した動機付けが求められるようになっていきます。個人の理解の解像度を上げるために、聴くことが必要となるシーンが増えていくでしょう。

今まで、聴くことはその才能のある人や直接それを職業にしている人が行っていたかもしれません。ただ、これからの社会では特にチームを率いる立場の人やチームをドライブできるメンバーに求められる必須の能力となります。

聴くことを直接扱い、またここまで論理的にわかりやすい本は珍しいです。聴く力に自信がない方や、今後より聴く力が求められる人に、おすすめしたい一冊です。

 

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