東京をディスる地方移住者...「生活の質向上アピール」の裏にあるマウント思考
2024年03月12日 公開 2024年12月16日 更新
SNS上で繰り広げられる「マウンティング合戦」。直接的なものから、自虐に見せかけてさりげなく立場の高さや生活の充実ぶりを匂わせる「ステルスマウンティング」まで、さまざまな事例が日々観測されている。
本稿では、3万以上の事例を収集・分析してきたマウンティング研究家がその知見をまとめた『人生が整うマウンティング大全』より、物質的な価値観から自由になった様を発信することで自身の精神的豊かさをそれとなくアピールする「達観マウント」から一部をご紹介する。
※本稿はマウンティングポリス(著)『人生が整うマウンティング大全』(技術評論社)を一部抜粋・編集したものです。
達観マウントとは?
物質的な価値観から脱却し、達観の境地に至ったことをアピールすることで、自身の精神的優位性をアピールする行為を「達観マウント」と呼ぶ。
「達観マウント」を展開する人の多くは、「自分はすべて知っているぞ」と言わんばかりに世の中を俯瞰した感を見せつけ、冷笑的で悟った風の発言をしたがる傾向がある。
しかし、実際には「達観した賢者な自分を認めてほしい」という欲求が透けて見えることが多く、単に承認に飢えているだけのケースも少なくない。
今回は「達観マウント」の中から「質素マウント」「地方移住マウント」「屋久杉マウント」について取り上げる。
質素マウント
・上場企業の経営者だった頃は接待漬けで贅沢はやり尽くしたけど、結局、ご飯と味噌汁が一番のご馳走だと思うんだよね
▶上場企業の経営者だった過去をさりげなく示しながら、結局は質素な生活が一番の贅沢と思うに至ったことをアピールする
・服はシンプルなデザインが好きで、高価なブランド品は買いません。お金をかけずにおしゃれを楽しみたいですね
▶モノを持つことの虚しさに気づき、今は最低限のモノしか持たないようにしていると述べ、物欲から解放された自分の姿を強調する
・休日は家で瞑想をしたり、ヨガをしたりしています。精神的な充実を求めることがここ最近の私の志向ですね
▶物質的な豊かさよりも精神的な充足を重視する姿勢を見せ、自分がワンランク上の境地に到達したことを周囲に見せつける
【解説】質素な生活を送っていることを強調し、「慎ましやかな自分」を演出することによって、ワンランク上の精神的な豊かさを享受していることをアピールするマウント。
正反対の概念とされる「キラキラマウンティング」よりも傲慢で不遜に見える場合がある(例:「質素な朝ごはんが好き」とイクラをのせたご飯の写真をインスタにアップ)。
(補足)「質素マウント」を展開する人の多くは、「吉野家の牛丼が食べられれば、僕はそれだけで幸せ」「今日もシンプルな食事を楽しんでいます」などと語り、自身が質素な生活を送っていることをSNSなどで自慢げに投稿する傾向がある。
また、所有するモノの少なさを強調し、「ミニマリスト」であることを誇らしげに語りがちである。
いずれの場合においても、「質素な生活」とは相容れない上から目線の「マウント感」が醸し出されていることが少なくない。
地方移住マウント
・地方移住してから、都会の喧騒を離れてストレスフリーな生活を楽しんでいます。贅沢な時間をいただけて感謝です
▶都会の喧騒から離れて、豊かな時間を過ごせていることを強調し、地方移住による生活の質の向上を周囲にアピールする
・地方移住後、地元の人たちと深いつながりができて、都会では味わえない人間関係を築くことができています
▶「地元の人たちとのつながりが自分の生活に新たな価値を与えてくれた」などと述べ、地元の人々との交流や地域貢献を強調する
・地方でのびのびと育った子どもは、都会で育つ子どもたちにはない自然と共生する感覚を持っていると思っています
▶地方で子育てをすることのメリットを一方的に語り、都会で子育てをするファミリーに対する優位性をさりげなく示す
【解説】東京から地方に移住し、都会でおこなわれているような競争とは無縁の生活を送っていることをアピールするマウント。リモートワークが普及する中、社会全体で地方移住の流れが加速しており、それに伴って「地方移住マウント」も年々増加傾向にある。
地方移住マウントを展開する人の一部は、地方生活の素晴らしさを強調し、「いかに自分が素晴らしい選択をしたか」を声高に叫ぶ傾向がある。
「東京のほうが食や文化などのあらゆる面で優れている」「住むなら絶対に都内だよ」といった主張に対しては、「独身なら都内がいいでしょうね。まあ、子どもができたら考えが変わると思いますよ」などといった形で、カウンターマウントパンチを浴びせるケースも見られる。
(補足)移住先としては、軽井沢や鎌倉、葉山などが人気がある。ただし、こういった地方移住は、「田舎暮らし」というよりは「金持ちの道楽」であるとの指摘がある。
また、居住地域によって厳格なヒエラルキーが存在し、東京と変わらぬ「マウンティング合戦」が繰り広げられているという意見もある。
東京から地方移住した人の中には、東京のことをSNSなどでやたらと否定する「東京disマウント」を頻繁に繰り返す人が存在する。
「東京で一流と言われるお寿司屋さんに行ってきました。こんなこと言っていいかわからないのだけど、移住先の福井のお寿司のほうが圧倒的に美味しい。素材の味が福井で食べる時のほうが感じられる。美味しい魚が手頃な値段で食べられる福井はやっぱり最高! 移住して本当に良かった! とあらためて実感しました」
移住先の生活に本当に満足していたら、このような投稿はしないはずであり、心のどこかで移住したことをじつは後悔していたり、移住先の生活になんらかの不満があるからこそ、彼らの多くは言い聞かせるように「自分は素晴らしい選択をした」という発言を繰り返すのだと考えられる。
屋久島マウント
・屋久島の縄文杉を見た時、自分のちっぽけさに気づいて、会社を辞めることを決意したんです
▶屋久島の縄文杉を見たことで自身の人生観が変わり、人生における重要な決断を下すことにつながったことをSNSで投稿する
・屋久島でのんびり過ごすのは、心が洗われる感覚がありますね。都会の喧騒から離れるのは、本当に癒されます
▶屋久島の美しい景色の写真や自分が知り得た洞察について持論を展開し、その体験がいかに特別なものであったかを強調する
・屋久島で出会った地元の人たちと交流できたのがうれしかった。彼らの暮らしや文化に深く触れることができたんです
▶一般的な観光客とは異なり、屋久島の地元の人たちと根付いて交流を楽しんでいる自分の姿を、周囲に対して一方的にアピールする
【解説】屋久島を訪れ、その壮大さに圧倒されたことをやたらと強調するマウント。屋久島以外では、グランドキャニオンやナイアガラの滝といった世界の絶景スポットが同様の文脈で用いられることが多い。
「屋久島マウント」を展開する人の多くは、「屋久島での体験が私に人生の意味を教えてくれた」「屋久島を訪れたことで自分のちっぽけさに気づくことができた」などと語る傾向がある。
しかし、その内省的な発言とは裏腹に、彼らの表情は謎の万能感に満ちていることが多い。
(補足)屋久島はパワースポットとして人気があり、スピリチュアル系の人たちの間で人気がある。彼らの多くは、
「屋久島の旅から帰ってきてから、私の生活習慣が根本から変わりました」「屋久島の縄文杉を拝んでエネルギーチャージ。東京に戻って感じるのは心が芯から強くなっていること。《魂レベルの癒し》って本当に大切なんですね」
などと語り、アップデートされた自分の姿を周囲に対して一方的に見せつける傾向がある。