写真:晴
交通事故で下半身不随になり保健所に収容された1匹の猫。引き取り手がなく殺処分寸前だったところ、晴さんが家族として迎え入れ、「らい」と名付けました。
ハンデを抱えながらも、根っからの明るい性格と同居猫たちのやさしさ、家族の献身的な看護に支えられ、幸せに暮らしています。晴さんが日々発信しているInstagramではらいのファンも多く、天真爛漫な性格と愛くるしい表情でファンの心をわしづかみにしています。
本稿では、らいの日常と、親友猫「くぅ」の看取りのエピソードを紹介します。
※本稿は、晴著「らい 下半身不随の猫」(辰巳出版)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
らいの日常
↑遊び大好き!
当初、らいの行動範囲はリビング限定でしたが、次第に先住猫たちの行動を真似て隣の和室に行き、キャットタワーの柱に伸び上がって爪とぎをしたり、タワーの2 階部分にあるハウスに備え付けの階段を上って入ってくつろいだり(降りる時は抱っこ)、猫たちと追いかけっこやかくれんぼをして1階中を元気に走り回るようになりました。
ごはんの時間が近づくと、キッチンに集まる猫たちに混ざって一緒にそわそわ。排泄があるため一旦抱っこで回収されますが、終わるとそそくさとキッチンへ向かい、みんなと仲良く完食します。
食後に「薬の時間だよー」と声をかけると、ドリフト走行しながら全速力で逃走。四足歩行より速いのでは? と唖然とするくらいの鮮やかな逃げっぷりでしたが、結局私に捕まって薬をごっくんさせられる羽目に。ムッとするらいですが、ご褒美のちゅ~るですぐに機嫌がよくなるのでした。
日々のリハビリの効果もあり、全く動かなかったシッポと後ろ足がかすかに動くようになりました。圧迫排泄の時、シッポでオシリにピタッとフタをすることも。また、自分で後ろ足を曲げたり、伸ばしたりして体位を変えたり、下半身の毛づくろいもできるようになりました。
誰よりも遊ぶのが大好きならいは、オモチャを自分の前に集めてご満悦な顔になったり、私が食事中でもいつでもお構いなしにオモチャを咥えて来て「遊んで!」の視線ビーム。そのかわいさに絆されてしまう私でした。
先住猫たちとヤンチャしたり時折ケンカもしたりケンカの仲裁に入ったりと忙しく賑やかに過ごし、お昼寝時や夜はいつも誰かと一緒に幸せそうに眠る。そんな姿に癒される毎日でした。
らい、お兄ちゃんになる
↑未知の存在に最初はちょっとビビっちゃったけど...弟分として認定!
2020年夏、息子・いちが生まれました。2週間の入院後、赤ちゃんと一緒に帰ってきた私に、拗ねたり甘えたり、「え、誰?」と警戒したりと、猫たちの反応は様々でしたが、赤ちゃんにはそれほど反応せず通常モードでした。
いちを空気扱いしていた猫たちですが、生後4ヶ月頃には、予測できない動きをする未知の存在に関心を向けるようになりました。
特にらいはカーペットにいちを寝かせると、近づいて見つめたり、匂いを嗅いだり、ほっぺにキスをしたりと、自らいちに近づいてスキンシップをするように。いちが動くと心配そうに側で見守り、小さな手が伸びてくると緊張しながらもじっと動かず触らせてくれます。
そして、ハイハイできるようになると、いちの方かららいの側に行くように。まだ力加減ができないのでギュッと毛を掴んでしまわないよう、こちらがハラハラドキドキしながら見守っていましたが、らいが辛抱強く相手をしてくれるおかげで、いちも力を加減しながら優しく触れられるようになっていきました。
それと同時にますます弟分のお世話に熱が入るらいお兄ちゃんでした。
保護猫たちとらい
↑優しいお兄ちゃんは子猫たちに大人気
これまで沢山の猫を保護し、多くの子が大切な家族になりましたが、里親さんに引き取られて幸せになった子や、保護当時すでに老猫だったり病気だったりして、数週間・数ヶ月で亡くなった子もいました。
年齢も性格も様々でしたが、らいはどの子にもフレンドリーに接して、保護猫たちの警戒心を解いてくれました。特に子猫たちはすぐにらいに懐いて、そばを離れない子もいました。
らいはわざとシッポをピクピク動かして子猫を遊ばせたり、毛づくろいや添い寝をしてあげる優しいお兄ちゃんでしたが、大好きなオモチャは「やっぱり譲れません!」な時も。また、ヤンチャが過ぎる子はきちんと叱る頼もしい一面もありました。
らいより大きな猫を保護すると「自称・わが家のボス」として、みんなにとって安全な相手かどうかをストーカーしてじっくりチェック。そして、いつの間にか仲良くなっているのでした。
親友猫「くぅ」の看取り
↑しのはもういないけど、ひとりじゃないからね。みんな、くぅのこと大好きだよ
フレンドリーで面倒見がよく甘えんぼという共通点もあってか、らいとすぐ仲良くなった先住猫くぅ。ピッタリくっついて寝たり、かくれんぼしたり、認知症を患う犬「しの」を一緒にお世話するなどとても仲良しでした。
2018年にしのを看取ってから病気がちになったくぅは、1つの症状が収まったら、次の病気を発症する...を繰り返し、通院と投薬が欠かせませんでした。
しのがいない寂しさと体調不良で、いつも悲しそうな瞳でひとりで過ごすようになったくぅを、猫たちはどうしたらいいのか分からず戸惑ったように遠巻きにしていましたが、らいはそーっとくぅに近づいて後ろにさりげなく控えたり、くぅの顔や頭を優しく毛づくろいして慰めてくれました。
そんならいの優しさが通じたようで、少しずつ以前のようにらいの側でくつろぐくぅの姿が見られるようになっていきました。
2020年冬。また少しずつ体調が悪化していくくぅは、次第に痩せて毛並みもパサパサになり、動きもゆっくりになりました。
長年飲み続けていた薬の副作用で糖尿病を患ってから、さらに朝晩2回のインスリン注射も欠かせなくなりましたが、他の子のごはんドロボーをしたり、食事前にキッチンでスタンバイしたりと食欲旺盛でした。
静かに過ごすことが多くなりましたが、体調が良い時にはテレビを見ているいちの正面に座って気を引こうとしたり、らいを毛づくろいしたりと、少し活動的に動く姿にホッとしていました。
穏やかな日々を過ごしていたくぅでしたが、2022年4月18日、低血糖で倒れてそのまま入院になりました。
2日後の朝、病院を訪れると、脳の麻痺があり頻繁にてんかん発作が起きているため、まだ退院できる状態ではないとのことで、その日の閉院前にまた先生と今後のことを相談することになりました。
くぅと面会して、頭を撫でると手のひらに頬をスリスリと擦りつけるような動きを微かにしてくれたくぅに、「後で迎えに来るからね」と後ろ髪を引かれる思いで伝えたのが、最後のふれあいになりました。
面会から1時間後、病院から「くぅちゃんが亡くなりました」と連絡があり、急いで駆けつけました。治療台に横たわる、まだ温かいくぅの体が冷たくなるまで撫で続け、丁寧に処置をしてもらったくぅと一緒に家に帰りました。
らいの寂しそうな姿や、鳴かなくなったり体調を崩す子たちを見て、くぅの死は猫たちにも少なからず影響を与えて、その存在の大きさを改めて感じたのでした。
↑くぅ、今まで一緒にいてくれて本当にありがとう。向こうでしのに会えたかな