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この著者に会いたい(聞き手:仲俣曉生)『7割は課長にさえなれません』

城繁幸(joe’s Labo代表取締役)

2011年01月24日 公開 2022年08月17日 更新

 

「課長」という役職の変遷

【中俣】城さんの本の読者は、明らかに2パターンいると思うんですよ。1つは「3年で辞めてしまう若者」を雇用する側。「最近の若者はよく分からない」と首をひねっている経営者や管理職ですね。もう一方が、実際に「3年で辞めたくなっている若い人自身」。ご自身の手応えとしては、どちらが多いと感じますか。

【城】現状に閉塞感を抱えている、2、30代の人間のほうですね。その上の世代は、自分たちが既得権側にいるという意識より、どちらかというと、「もう諦めた」という感じのようですね。

3部作の最初の『若者はなぜ~』が出たときは、実際に中間管理職をやっている45歳の課長さんなどにも読まれたんですが、「ああ、たしかにそういう面もあるね」というところで終わってしまった。むしろ、若者以外で僕の本を手に取られる方は、もっと上の世代に多いです。

【中俣】中間管理職をとばして、経営層に読まれている、と。

【城】ええ、60歳前後の方、あるいは経営者の方ですね。というのも、「うちの会社はどうも活力がないな」と疑問をもった人はさっさと辞めてしまい、諦めてしまった人ばかりが残っているという会社が多い。この状況は非常によくない、では活力のある人事制度はどういうものか、ということで興味をもたれる経営者の方が多いみたいです。

【中俣】今回の『7割は課長にさえなれません』は、日本という国の縮図といえる平均的な地方都市「日本町」を舞台にした、物語風の筋立てです。30歳の派遣社員、30代後半の女性一般職、40代前半の主任、50代の部長などが登場し、それぞれが自身の仕事観を語ります。30歳の大学院生や50代の下請け会社の係長も登場し、異なるキャリアパスを辿った同世代の人同士が比較されたりもします。今回こういうかたちで本を書いてみようと思ったきっかけは?

【城】タイトルから「若者」という言葉を外したこととも関係しますが、雇用問題は若者だけの話じゃなくて、全部がつながっているんだ、ということをいいたかったんです。日本に欠けているといわれる成長戦略で最大のものは、じつは「雇用の流動化」なんです。つまり年功序列や終身雇用をやめて、誰もが転職しやすい環境をつくることですね。そのメリットは、特定の世代だけに限定されません。

【中俣】「雇用の流動化」が必要であることを、城さんは以前の著作から一貫して主張していらっしゃいますね。

【城】自分のなかで「雇用の流動化」という言葉への強いこだわりがあるわけではないんですよ。日本の企業社会に雇用の流動化が必要だということは、多くの経済学者やエコノミストがすでにいっていることですから。世界的に見れば、むしろ「流動化」の趨勢が常識なんです。

ただし、経済学者やエコノミストの言葉は、企業社会の上のほうにいる人には届いても、一般の人にまでは届かない。雇用問題に強い関心をもっている方は、『若者はなぜ3年で辞めるのか?』を読んでくれればロジックとして理解してくれる。これからの私の役割は2、30代の若者や一般の労働者に、この問題を分かりやすく伝えることにあると思っています。

それを現実にやろうとすると、抽象的な言葉やロジックで押すのではなく、読者が自分自身の姿を、登場人物に投影できるような仕組みが必要になります。それで今回の本では、キャラクター的な人物を登場させることにしてみました。

【中俣】今回の本のキーワードは「課長」ですね。最近の企業では「課長」はどんな位置付けになっているんでしょうか。

【城】「課長」という役職に対する世の中の受け止め方は、ずいぶん変わってきてます。少なくともいまの60歳以上と現役世代ではかなり違う。

植木等の映画などを見ると、高度成長の時代のサラリーマンにおける「ダメ男」の代名詞が「万年課長」なんですね。あの世代、つまりいまの65歳ぐらいの世代の方にとっては、「大卒課長」というのはありえないことなんですよ。大卒であれば最低でも部長まで行けるはずだ、と。おそらく団塊世代ぐらいまではほとんどの大卒サラリーマンが部長まで行くと思います。

それから少し下って、いまの40代、つまり「新人類世代」になると、バブル入社の少し前の世代、いま45歳ぐらいの人までは課長になっています。ところが、その下の「バブル入社世代」にあたる40代前半からは、もう課長になれる人の割合が26%にまで下がる。

【中俣】まさにこの本のタイトルどおり、7割の人が課長になれないわけですね。

【城】ええ。しかも、おそらくその下はもっと減るだろうと思います。

もう1つは、課長の役割そのものが、企業のなかで変わってきた。昔は20年ぐらい頑張った人に対し、課長という肩書をあげていました。いまでも役員のなかには、「こいつはあまりぱっとしない人間だけど、30年間も会社のために頑張ってきたんだから、そろそろ課長にしてやってくれ」と人事にいってくる人がいる。

でも、いまの企業の人事には、そういう発想はまったくありません。要するに、課長という職に実体的な役割を求めている。できれば優秀な若手から中堅を課長にしたいので、30代半ばから後半にかけての時期に抜擢するんですよ。

僕が富士通に入ったころはまだ、課長になれるのは40代前半になってからでした。ところが、僕が退職してから、当時の同期のなかに、35で課長になった奴がいて、本人もびっくりしたそうです。バブル入社世代の「年上の部下」に対して、どう接していいかわからない、ともいいます。最近よく、課長の心得とか、マネジメント術を説いた手引本が売れているのは、そういった層がいるからだと思います。

 

ワカモノ・マニフェストとは

【中俣】『若者はなぜ3年で辞めるのか?』が出たのは、日本では小泉政権が2005年の総選挙で大勝利を収め、新自由主義的な改革路線への支持が集まった時期でした。ところがその後、日本でもアメリカでも政権交代が起こり、経済政策においても転換が行なわれています。城さんとしては、この数年間を振り返って、あらためてどのように思いますか。

【城】『若者はなぜ~』が出てから、たしかにもう4年近くたってるんですけれど、日本の状況が大きく変わったかというと、じつは変わってないんじゃないかなという気がするんですね。その証拠に、学生や20代の方、若いビジネスマンの方からメールやお手紙をいただくことが多いんですが、『若者はなぜ~』を読みましたという方が多い。この本はいまだに増刷も掛かっています。

【中俣】数年前までは、世の中が「勝ち組」と「負け組」に分かれたといわれつつも、IT業界や金融業界など、一部の超エリート層に入り込めれば、若者でも能力次第では一線でやっていけるのでは、という幻想がありました。でも、リーマン・ショック後は、そうした「勝ち組幻想」までがなくなってしまいました。

この本を読んで驚いたのが、「社内で出世するより、自分で起業して独立したい」という回答の低下ぶりです。2003年には31.5%もあったのが、09年には14.1%まで下落している。いまの若い世代は安定志向というか、雇用に対する考え方が保守回帰している気がします。まさに城さんが批判している終身雇用・年功序列という「昭和的価値観」そのものですね。

【城】2000~01年前後が、最初の就職氷河期の底にあたる時期だったんですが、そのころから比べると学生の意識はたしかに変わってきています。ここ4、5年ぐらいの「揺り戻し」のことを、私は「昭和への揺り戻し」と呼んでいます。

当時の同じ調査では、「1つの企業にずっと勤めたい」とか「終身雇用がいい」と希望する人間の割合が過去最低を記録して、独立なり転職したいという人間のほうが多かったんです。ただ、そのあとに、なまじ景気がよくなってしまったんですよ。

ところが、そこに「リーマン・ショック」が来てしまった。「ショック」というだけあって、いきなりやって来たものだから、準備が何もできていなかった。つまりいまは、景気が揺り戻すなかで、いきなり冷や水をぶっ掛けられたような状況なんです。

【中俣】そうした閉塞状況を変えるために、城さん自身、政治家の方とか経営者の方と、いろいろ活動なさってるそうですね。

【城】ええ、昨年の総選挙の前に、私を含む2、30代の有志でマニフェストをつくろう、という話をして、「ワカモノ・マニフェスト2009」を選挙直前にぶつけたんです。これをつくった「ワカモノ・マニフェスト策定委員会」のメンバーは、民間シンクタンクの研究者や現役の官僚、地方議会の議員など、10人ほどです。自分たちでマニフェストを掲げるだけでなく、各政党のマニフェストを採点して結果を公表する。総選挙時にはメディアにも一部取り上げていただきましたが、よりバージョンアップして、これからも選挙のたびにぶつけていこうかと思っています。

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