英会話に興味があるけれど、英語の発音に自信が持てずになかなか積極的に話せない、という人は少なくないようです。
『7日間で英語がペラペラになる カタカナ英会話』(Gakken)が話題の甲斐ナオミ先生と、シリーズ続編の『やっぱり英会話は筋トレ。20の動詞をモノにする反復法』(かんき出版)が好評な船橋由紀子先生に、英語の発音が上達する早道について、お話を伺ってみました。前・中・後編の3回に分け、今回は後編をお届けします。(構成/山岸美夕紀 撮影/斉藤秀明)
英語の発音はどのように学ぶべき?
――私もこれまで英語を学習してきましたが、読み書きはなんとかできても、会話となると英語の発音が難しくて......。日本人が学ぶ英語の発音という点について、船橋先生は日本人として英語を習得されたご経験から、甲斐先生は英語ネイティブの視点からどう思われますか?
【甲斐】日本の英語教育という側面から考えると、linking(つながり)やreduction(はしょり)といったことをあまり意識して教えていない点が大きいのかなと思います。これらはネイティブの会話においてとても大事な部分なので、そこをカバーしないとそもそも先に進めないですよね。
【船橋】ひとつひとつの単語の発音を覚えても、会話文になると単語同士の音がつながったり、省略されたりして、まったく違った発音に聞こえたりするので、聞き取れなくなるんですよね。単語同士の音がつながることをリンキング(リエゾン)と言いますが、聞き取れないものは当然、話すこともできません。
私が以前に読んだ、イエール大学の学者の方が書かれた本に、「ノンネイティブが伝わりやすい英語の発音を習得するうえで心掛けるべき優先順位」というような解説があって、それが➀「イントネーション(抑揚)」➁「スピード」③「単語の明瞭さ」➃「母音・子音の正確な発音」の順だと書かれていたんですね。
まずはイントネーション(抑揚)ですが、そもそも日本語は比較的平坦に話す言語なので、会話の強弱に慣れていません。ですが英語では大きなリズムや強弱があって、内容的にもっとも大事なワードに抑揚が入るのが特徴的です。
【甲斐】そうですね。たとえば「can」(できる)と「can't」(できない)ではまったく正反対の意味ですが、ネイティブでは「can‘t」の"t"の部分をほとんど発音しない人も多いため、同じように聞こえることがあるんですね。ですが、どちらの意味かというのは、アクセントで分かります。
「I can swim.」(私は泳げます)の場合であれば「swim」にアクセントがきて、「I can′t swim.」(私は泳げません)と言いたいときには、「can't」にアクセントをつけるんです。
【船橋】アクセントによって意味も変わってくるんですね。ナオミ先生の『カタカナ英会話』では、単語のつながりはもちろん、アクセントの部分のカタカナが大文字かつ太字で強調されているので、そこを意識して発音練習ができますね。
【甲斐】はい、付属の音声も聴きながら練習してみてください。
【船橋】そして2つめの「スピード」ですが、これは適切なスピードで話すということです。ノンネイティブの私たちには、ネイティブの話し方はスピードが速いと感じるかもしれませんが、実はそうではないんですよね。
【甲斐】単語がつながるリンキングに加えて、アメリカ人やカナダ人のネイティブって実は舌足らずで、話すときにかなり「はしょる」ため、速く感じるのだと思います。
【船橋】そうなんですよね。ですが、よく聞くと、大事なワードは強調するためにわりとゆっくりはっきりと話しています。このように「スピードを落としても大事なワードをお届けする」感覚を生徒さんに教えると、「速くしゃべらなきゃ」と焦りがちな人もゆっくり話すようになってくれるんです。
3つめの「単語の明瞭さ」とは、適切な箇所を弱く曖昧に発音することのことで、実はリンキング、先ほどお話ししたように、単語と単語の音がつながることです。
(前編で)先述したように、『カタカナ英会話』では「Can I help you?」は「ケナイ ヘォピュ?」と表現されていますから、単語ひとつひとつの発音を知っていても実際の会話でのリンキングを知らなければこういったネイティブの会話はまったくといっていいほど聞き取れないわけです。
そして、最後に「母音・子音の正確な発音」。これらが理想の順番だそうで、実際、私もそうだと思います。
――日本の教育では、まず単語の正確な発音が先にきてしまいがちですよね。たとえば「th」の発音などに苦労しました。
【船橋】ナオミ先生の『カタカナ英会話』では、「th」の発音も斬新です。たとえば「Thank you」を「フェンキュ」と読ませていますよね!
【甲斐】無声音「th」は舌先を軽く歯で挟んだまま「サ・シ・ス・セ・ソ」と言ったときに出る音ですが、下唇を少しかみながら発音する「f」のほうが日本人には出しやすく、ネイティブの耳にも「th」に近い音で聞き取れるので、本書では「th」を「f」に置き換える方法を採用しました。
――(編集長)最初は若干、揉めましたよね。さすがに「フェはないです」と(笑)
【甲斐】揉めましたね。ですが、編集長に色々と発音してもらって、検証に検証を重ねて、これがベストだとなりました。おそらく「フェ」の口のソフトな音がthに一番近いんだと思うんですよね。「テ」や「セ」だとちょっときつい音になってネイティブの実際の発音とちょっと離れてしまう。もちろん、センキューと言ってもテンキューと言っても通じることは通じますが。
【船橋】じゃあ、お二人の合作のような形なんですね。
ネイティブの発音を身に着けるには「反復練習」が大切
――『カタカナ英会話』は、いわゆる「発音記号」を使わずにいかにカタカナで表現するかという試みですが、お二人は従来の発音記号についてはどのように考えていますか?
【甲斐】私はカナダにいるときには発音記号に触れる機会がありませんでした。ドイツ語やスペイン語、中国語の授業でも発音記号を習うことはなかったです。
【船橋】私は英語講師という立場から言うと、知識として知っていれば学ぶうえでの助けになるとは思いますね。ただ、単語ごとに発音記号の表記があっても、先ほど話した「リンキング」すると発音が変化してしまうので、やはり英文の中で単語同士がどのようにつながっているかを覚えていくのが先なのかなと思います。
――RとLの発音の舌の動きの違いなどは?
【甲斐】意識したことがなかったですね。日本に来て聞かれて初めて考えたという感じで。ただ、そんなに頑張って舌を巻こうとしなくてもいいんですよ。本のなかでも、Rの音は単語の中に登場する場合、「ウェ」や「ウィ」で表現しているものもあります。
【船橋】「sorry」は「サーウィ」となっていますね! 「some things」も「スンmフィングズ」(mは閉じた唇の絵文字)です。これは発音しやすいですね。
【甲斐】できるだけ簡単にネイティブの発音に近づくように色々と工夫しました。ただ、頭でわかっていても、何度も何度もトレーニングしなければ身につかないと思いますので、反復練習が大切ですね。
【船橋】そうですね、舌も口周りも筋肉ですからトレーニングが必要だと思います。
【甲斐】自分の発音を録音して聞いてみるのもいいですよね。自分ではちゃんと発音しているつもりなのに実際は言えていない部分などが客観的にわかります。
船橋:最近は「ELSA Speak」など発音を診断してくれる便利なアプリもたくさんあるので、そういったものを利用するのもおすすめです。
――最後に、お二人の本のポイントを教えてください。
【甲斐】はい。『カタカナ英会話』は、カタカナを読んだだけでネイティブの発音が再現できるように作りました。続けていけば、苦手だった発音に自信が持てるようになると思います。また、スピーキングはもちろんのこと、リスニングが格段に上達しますので、ネイティブの自然な会話も聞き取れるようになりますよ。
【船橋】『英会話は筋トレ。』は、英語にアレルギーがある人ほど挫折しないように作りました。28日間頑張れば必ず成果が出ますので、これまで挫折を味わってきた方も、最後の砦として頼ってほしいです。
『やっぱり英会話は筋トレ。』は、動詞に特化した一冊ですが、基本的な動詞を覚えると会話の出だしがとてもスムーズになるので、「あ、自分でもしゃべれた」という感覚を味わってもらいやすいと思います。もちろん、現役の学生さんにもお勧めです。どちらも音声付きですので、何度も聞いて繰り返しトレーニングしてみてください。
――私もお二人のお話を参考に、英語の学び直しを頑張ろうと思います。本日はお忙しい中、ありがとうございました。