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精神科医が語る、素直に謝れる人ほど「自己否定」に走ってしまうリスク

藤野智哉(精神科医)

2024年08月09日 公開

精神科医が語る、素直に謝れる人ほど「自己否定」に走ってしまうリスク

日々の生活の中で、小さなミスや他人からの言葉に落ち込み、自分を責めてしまう経験はありませんか? 本稿では「ミスをした自分」や「ありのままの自分」を否定せず、大切にするためのヒントを、精神科医の藤野智哉さんによる書籍『「そのままの自分」を生きてみる』から紹介します。

※本稿は、藤野智哉著『「そのままの自分」を生きてみる 精神科医が教える心がラクになるコツ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

ミスした自分を否定しない

何も悪いことをしていないのに、申し訳なさそうに生きるクセがついてしまっている人がいます。

・すぐ「ごめんなさい」と言ってしまう
・毎日残業になっても、「自分の仕事が遅いから」と思ってしまう
・忙しくてもLINEをすぐ返さなきゃと思う
・褒められても、「そんなことない」とすぐ否定する

こんなふうに、つい謝ってしまったり、なんとなくペコペコしながら生きている人たちです。

もちろん、自分が悪いことをしたり、間違えてしまったときは「ごめんなさい」を言うのはいいことです。あるいは自分が悪くなくても、「ごめんなさい」と言うことで、相手がいったんおさまるなら言ってもいいと思います。武器としての「ごめんなさい」ですから。

相手が感情的になって話を聞いてくれないのなら、いったん「ごめんなさい」を放っておいて冷静になるのを待つ。麻酔銃みたいなものです。

「ごめんなさい」も武器として使えるなら、僕は全然いいと思ってます。感情を武器として見せるのは、交渉術のひとつですから。

でも、「ごめんなさい」のあとに、「私なんて」「私がダメだから」みたいな自己否定の言葉が出てきてしまうようなら少し注意が必要かもしれません。そんなときは、ちょっと立ち止まってほしいですね。

たとえば、仕事でミスをしたときに「私って仕事のできないダメな人間」と落ち込んでしまうようなケースです。

もちろん、「ミスした自分」を責める気持ちはわかります。ミスで迷惑をかけた相手に謝ることも大切なことです。でも、「仕事でミスしたこと」と「自分なんてダメだ」という自己否定を、すぐに結びつけるのはちょっと違います。

こういうときに大事なのは、「ミスをしたことで謝罪する(出来事)」と「ミスをしたことで自分を否定する(自己評価)」、この2つを分けることです。ミスしてすぐに「自分なんてダメだ」「こんなミスしたら評価が下がるよ」なんていう、ネガティブに評価する行動は封印しておくことが大切だったりします。

「すぐにLINEを返せないことは謝る」のはいいけど、「LINEを返せない自分はダメなんだ」と自分を否定するのをやめる。「褒められたことが意外で驚く」のはいいけど、「そんな褒められるほどの価値は自分にはない」なんて自分を否定するのはやめる。このような感じです。

とりあえずは、「自己否定の気持ちを感じたら、ちょっとその気持ちを横に置いておく」という意識をもつくらいでもいいかもしれません。

 

素のままの自分を大切にする

他人からいろいろアドバイスのようなことを言われることってあると思います。

「小さいことをあんまり気にしないほうがいいよ」
「人の言うことは素直に聞かなきゃ」
「もっとまわりを見渡したほうがいいよ」

というように。

時にこういう言葉って、深い意味もない気軽なものだったり、「自分の望むとおりに動いて」とか「自分の言うことを聞け」という理不尽な意味で発せられたものだったりもします。でも、真面目でがんばりやさん、いい人や優しい人って、こういうときにもちゃんと「もっとこうしなきゃ」「こんなやり方もあったかも」って反省したり、改善しようとします。

「ちゃんと悪いところを修正しなきゃ」「至らない点は改めよう」「このままじゃダメだ」なんて、指摘された部分、誰かと比べて足りないと思ってしまっている部分を埋めようと、がんばりだしたりします。

自分の中に「反省」と「改善」がインストールされてしまっていて、「ああすればよかった」「次からはこうしなければ」と、自分を責めて反省したり、がんばって改善しだしたりします。

でもね、その「反省」や「改善」は自分にとって本当に意味のあること、本当に大事なことだったりするんでしょうか。誰かの何気ない一言や理不尽な言葉がきっかけで、あなたの特性や素晴らしさを押さえ込んだり捨ててしまうのは、ちょっともったいない。

「小さいことが気になる」のは「繊細で細やかなところに気づける」という長所になったりします。「素直に聞かない」のは、「物事を鵜呑みにせず、ちゃんと考えている」という良さになるかもしれません。「まわりを見渡せない」のは、「集中力がある」という意味にもなります。

つまり、「自分の良さ」「自分本来の特性」を無理して消してしまうことにつながったりもするんですよ。だから反省や改善は、あせってするのではなく、まずは自分の心も体もケアして、フラットな状況になってからでもいいんじゃないかなと思うんです。

誰かから気になる一言や胸に刺さる言葉を言われたときは、すぐに反省して改善しようとがんばろうとするのではなく、いったん立ち止まって、自分の心や体のケアをする。そして、心身ともにいい状態でその言葉を振り返ってみるのです。

たとえば、ノートにその言葉を書いてみて、「その言葉の意味はどういうことか」「反省するところ、改善するところは本当にあるのか」「その反省や改善によって『自分らしさ』に無理は出ないか」などを考えてみるのです。

誰かからふと言われた言葉で「変わらなきゃ」「このままじゃダメ」と反省や改善をしがちですけど、もちろんそれも悪くないんですけど、でもまずは、自分を心身ともにケアして落ち着いた状態で自分と向き合ってみることが大切だったりします。

そして、「自分本来の特性」「素のままの自分」も大切にしてあげてほしいなとも思います。そのうえで、自然と変わりたいと思ったときに、変わるのでもいいんじゃないでしょうか。

著者紹介

藤野智哉(ふじの・ともや)

精神科医

1991年生まれ。精神科医。産業医。公認心理師。 秋田大学医学部卒業。幼少期に罹患した川崎病が原因で、心臓に冠動脈瘤という障害が残り、現在も治療を続ける。 学生時代から激しい運動を制限されるなどの葛藤と闘うなかで、医者の道を志す。 精神鑑定などの司法精神医学分野にも興味を持ち、現在は精神神経科勤務のかたわら、医療刑務所の医師としても勤務。 障害とともに生きることで学んできた考え方と、精神科医としての知見を発信しており、メディアへの出演も多数。

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