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強迫症の治療が遅れてしまう原因は? 急激な悪化が治療タイミング

野間利昌(監修) (精神科医。セレーナメンタルクリニック院長)

2024年08月27日 公開

強迫症の治療が遅れてしまう原因は? 急激な悪化が治療タイミング

不安がとまらない強迫症。発症してもすぐには医療機関を受診しない人も多く、つらさをがまんしながら日常生活を送っている人もいる。強迫症の受診のタイミングや治療法を、セレーナメンタルクリニックの院長である野間利昌氏が解説する。

※本稿は野間利昌監修『強迫症/強迫性障害をワークで治す本』(大和出版)から抜粋したものです。

 

まずは、治す気持ちを持つことが大事

強迫症の患者さんの年齢は小学生ぐらいから60代以上までと幅広く見られます。発症してもすぐには医療機関を受診しない人も多く、未治療期間は7~8年程度といわれています。

治療が遅れるのは、自分でも症状が「ばかばかしい」と感じていて受診が恥ずかしい、精神科の受診にためらいがあるなどのためです。

また、強迫観念や強迫行為でつらさがあってもがまんしながら日常生活を送ってしまう方もいます。悪化のスピードが遅いと本人が少しずつ症状に慣れていくため、受診の必要性を感じにくいという点もあります。

手洗いが何分以上になると困るなど、人によって許容範囲が異なり、どの程度で受診するかは人それぞれです。そういう人でも、症状が激しくなり外出できなくなったり、自分でも苦痛に感じるようになったりすると、医療機関の受診を検討するようになります。

別の問題でストレスが高まり、本来あった強迫症に耐えきれなくなって相談に来る方もいます。

 

急に悪化したら治療のいいタイミングと捉えよう

治療を左右するのは、本人の「治したい」という思いです。未治療期間の長短は、治り方にあまり影響しません。自分のなかで「治さなくちゃ」という気持ちが高まったときに受診することをおすすめします。

「症状がつらくて、もう耐えられない」という状況になれば、「何としてでも治したい」という気持ちが高まるものです。急に悪化したときこそが治療のいいタイミングともいえます。

自分の意思ではなく家族に連れてこられる方や「親に受診しろと言われたので」という方もいますが、治したい気持ちがじゅうぶんに高まっていないと、行動療法にとり組むことは難しいことが多いようです。

セレーナメンタルクリニックでは対象を中学生以上とし、自分で予約をとることを基本としています。つらい症状に苦しみ「どうしても治したい」と、治療への強い意思がある人ほどスムーズに治療が進みます。

 

強迫症の治療方法は、薬物療法と行動療法

強迫症の治療は行動療法が基本ですが、不安やうつなどの症状が強いときには薬物療法を併用することもあります。

極度の不安や強迫観念にさいなまれていたり、起き上がれないほど抑うつが強かったりすると行動療法はできません。ある程度活動エネルギーが高まらないと治療は開始できないので、まず薬物療法でうつ症状を落ち着かせます。

うつ病を併発している場合には、うつ病の治療を先に行います。不安や強迫観念、抑うつなどの症状がある程度落ち着いてきたら心理療法をスタートします。

強迫症はおもに曝露反応妨害法(エクスポージャー)という行動療法の技法を用いて治療します。

曝露反応妨害法では、まず自分の恐れている、または苦痛を引き起こす状態に自らの身を置いて不安な状態にします。次にその不安を和らげるために行っていた行動(強迫行為=反応)を行わないことにより、不安な状態に徐々に慣れていくという治療法です。

強迫行為をしないでいると、最初は今までよりも不安が大きくなりますが、不安に慣れていくと不安は小さくなっていきます。最初はつらい治療ですが乗り越えるとラクになります。

治療の目標は不安を消すことではなく不安に慣れること。不安を消そうとしないことが重要です。

この治療法は、強迫観念や強迫行為が起こる状況で行う必要があります。そのため、基本的には診察室内ではなく生活の場が治療場所となります。自宅、学校、職場、電車内などで課題を行って医師に報告してもらいます。

医師は報告を聞いてアドバイスを行い、次の課題を一緒に考えます。

 

治療は、薬を飲まずに行動療法だけの場合もある

薬物療法では、おもにうつ病の治療にも使われSSRI(選択的セロトニン再取込阻害薬)という抗うつ薬を使います。脳内の神経伝達物質・セロトニンの量を調節することで、抑うつや不安を抑えます。

薬物療法についての考え方や態度は人によってさまざまです。

たとえば「とにかく薬は一切飲みたくありません」という人もいれば、「薬に触ると化学薬品が手について、それが他のものにつかないように手を拭いたり洗ったりするのが大変だから、飲みたくないんです」 と、説明する人もいます。

なかには妊娠や出産のため薬を飲めない人もいます。

薬物治療法は必ずしも必要というわけではなく、医師は患者さんをみながら柔軟に対応していきます。薬を飲まずに行動療法にとり組めるならば、もちろんそれでかまいません。

うつがひどくて薬なしには行動療法ができない人には「まずはとにかく薬を飲みましょう」とすすめます。

試しに飲まないで治療を始めてみたけれど「やはり難しそうなので薬を飲みましょう」というケースもあります。医師は薬が必要だと思っても、患者さんが「絶対いやです、薬を飲むくらいならがんばります」という人もいないわけではありません。

しかし、一般的には医師のすすめがあった場合は、薬を飲んだほうが良いと思われます。

著者紹介

野間利昌(のま・としまさ)

精神科医。セレーナメンタルクリニック院長。

千葉県出身。平成5年東京外国語大学卒業。平成13年山形大学医学部卒業後、千葉大学精神神経科入局。平成14年から同和会千葉病院勤務の傍ら、千葉大学医学部附属病院で強迫性障害外来を担当。平成16年より千葉大学医学部附属病院。平成19年に東京都台東区にセレーナメンタルクリニックを開設。同クリニック院長を務め、強迫性障害外来を担当。年間400人以上の強迫症の患者さんの治療に当たる。

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