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不安が止まらない強迫症をどう克服する? 自宅でできる治療法ってあるの?

野間利昌(監修) (精神科医。セレーナメンタルクリニック院長)

2024年08月30日 公開

不安が止まらない強迫症をどう克服する? 自宅でできる治療法ってあるの?

誰でも床の汚れは気になるもの。しかし、汚れを消そうと何時間も床を拭いてしまい疲れ果ててしまうのが強迫症という病気。強迫観念が浮かんだ時に、どう対処すればいいのか。精神科医の野間利昌氏が解説する。

※本稿は野間利昌監修『強迫症/強迫性障害をワークで治す本』(大和出版)から抜粋したものです。

 

手は少しくらい汚れていても大丈夫、と捉える気持ちを

強迫症の治療は行動療法のひとつの技法である曝露反応妨害法という方法を用います。

うつ病でよく用いられる認知療法が認知(ものの見方)に働きかける比重が大きいのに対して、行動療法である曝露反応妨害法は直接行動の修正を行います。行動の修正を積み重ねることにより徐々に認知が修正されていきます。

曝露反応妨害法では、強迫行為を引き起こすような状況に自分自身を直面(曝露)させます。どんなに強い不安が生じても強迫行為を行わず、時間が経過するにつれて不安が弱まっていくことを経験します。これを何度もくり返し不安に慣れていきます。

たとえば「手がすごく汚い(強迫観念)」→「いつまでも手を洗う(強迫行為)」が生じる場合、「手を洗うのをほどほどにする(行動を修正)」→何度もくり返して練習→「手は少しくらい汚れていても気にしなくていいか」というふうに認知が修正されます。

曝露反応妨害法は過去のできごとや深層心理の解明よりも、現在の具体的な問題や症状への対処に焦点を当てます。不安や強迫観念を無くすことが目的ではなく、強迫観念が浮かんでも「別にこんなのどうでもいいか」と思えるようになる、すなわち不安に対する耐性を高めることが目的です。医師は強迫行為や強迫的な思考パターンを変えていく手助けをしますが、行動を変える主役は患者さん自身。この治療では主体性が重要になります。

 

強迫観念が浮かんだときの不安に「慣れる」ことが大切

強迫症になると、そのことに対して白か黒で区別して、「白を目指す」ようになります。白を目指すと、小さな黒い点やグレーの点があるだけでも気になって仕方なくなり、その点を消そう消そうとして疲れ果ててしまいます。

強迫症を治すうえでいちばん大事な考え方は、白を目指すのをやめて、グレーを目指すことにあると私は考えています。患者さんには白でも黒でもない「グレー」を目指し、グレーを「受け入れる」ことを目標にしてもらいます。

たとえば誰でも床の汚れは気になります。気にするのは普通のことです。しかし、汚れを消そうと何時間も床を拭いてしまい疲れ果ててしまうほどなら病気です。

こうした強迫観念が浮かんだときの不安に「慣れる」ためには、強迫行為をしないでやり過ごすことをたくさん経験する必要があります。「回数をこなす」ことが大事です。

行動療法は、学習やトレーニングと同じです。くり返し行うことで身につきやすくなります。

強迫行為を治すときも、一度や二度強迫行為をやめても不安に慣れることはできません。何度も何度もくり返すことが大切です。そうすると、いつのまにか不安は小さくなります。

また、ひとりで課題にとり組んで成功する人もいますが、客観的に自己を見つめ、一度染みついた行動のクセを変えていくのはなかなか難しいものです。

コツをつかめるようになるまではなるべく頻繁に(できれば毎週)受診し、医師に軌道修正してもらうといいでしょう。

 

診察時にアドバイスをもらい、ホームワークで実践する

保険診療の場合、多くはひとり当たり10~15分くらいの診療時間になります。限りある診療時間を有効に使うために、医師に伝えるポイント、質問したいことをある程度考えておき、自分にとって重要と思われる質問から順に話すことをおすすめします。

診察時に医師から提案された治療に対し、「でも」「だって」「どうしても」などの言葉はなるべくつかわないほうが良いでしょう。長年、多くの患者さんを治療してきた経験上、早く良くなる患者さんは、これらの言葉をつかわない傾向があります。アドバイスを受けたことを素直に聞く方ほど、改善が早まります。その方々も心のなかでは「えーっ ! 大変だなぁ」と思っていたのだと思います。でも「がんばってやります」と言えば、言行一致させようとするのが人間です。ぜひ、「はい、わかりました、がんばります」と言ってみましょう。

 

診察そのものより自宅で課題を継続するホームワークが重要

行動療法では、診察そのものより自宅で課題を継続するホームワークが重要になります。

ピアノのレッスンにたとえて話しましょう。ピアノのレッスンでは、与えられた課題を家で練習し、先生の前で弾き、先生から「ここはこうするといいよ」などのアドバイスをもらいます。

先生のアドバイスを参考に、次のレッスンまで練習し、また先生の前で弾いて次のアドバイスをもらいます。レッスンより練習(ホームワーク)に費やす時間のほうが圧倒的に長いはずです。

行動療法も自分で課題を実践し、それを記録し受診時に持参します。

自宅でやったことを医師に伝え、医師からアドバイスをもらいます。アドバイスを参考にして次の受診まで課題をくり返します。

ホームワークに前向きにとり組み、継続させるためには、医師からのアドバイスが欠かせません。定期的に受診し、次回受診までの課題を医師と約束し、次の受診で報告しようと思うことが治療への動機づけにもなります。

著者紹介

野間利昌(のま・としまさ)

精神科医。セレーナメンタルクリニック院長。

千葉県出身。平成5年東京外国語大学卒業。平成13年山形大学医学部卒業後、千葉大学精神神経科入局。平成14年から同和会千葉病院勤務の傍ら、千葉大学医学部附属病院で強迫性障害外来を担当。平成16年より千葉大学医学部附属病院。平成19年に東京都台東区にセレーナメンタルクリニックを開設。同クリニック院長を務め、強迫性障害外来を担当。年間400人以上の強迫症の患者さんの治療に当たる。

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