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令和の新入社員が「ほめてくれる上司」を求める納得の理由

原邦雄(株式会社スパイラルアップ代表取締役)

2024年08月22日 公開 2024年09月12日 更新

令和の新入社員が「ほめてくれる上司」を求める納得の理由

毎年、春からこの時期にかけて話題になる新入社員の教育。特にここ数年は、「今どきの新入社員にこれまでの叱る育成法は通用しない」などと言われていますが、なぜ今、"ほめる教育"が必要とされているのでしょうか?

自身の経験に脳科学や心理学をミックスした人材育成メソッド「ほめ育」の開発者で、人材研修の専門家、株式会社スパイラルアップの原邦雄代表が解説します。

 

なぜ今の時代に、ほめる教育が重要なのか

令和の新入社員を見て、「何を考えているのか分からない」「注意したいことは山ほどあるけれど、辞められそうで我慢している」とモヤモヤしている方も多いはず。「もうお手上げ」と、半ば諦めているかもしれません。

昭和生まれの上司や先輩の目には、「考え方が甘い」「社会人としての常識に欠ける」と映る面もあるでしょう。「ほめる? そんなことをすると、余計に努力しなくなる」「そもそも、ほめるところなんてない」と感じているかもしれません。

でも、令和の新入社員だからこそ、ほめてほしいのです。主な理由は次の通りです。

▼"承認"に慣れている

デジタルネイティブの彼らは、SNSでのやりとりを通じて、"承認されること"に慣れています。だから「ほめる」という承認がプラスに働くのです。

SNSの世界では、承認はシンプルでスピーディです。たとえば「いいね!」ボタンを押すだけで、相手に対する共感や賞賛を示すことができます。本人も簡単にそれらの承認を目にすることができます。

子どもの頃からSNSを使いこなし、日常的に承認される環境で育った彼ら。だから「承認」を行うほめる教育は、とても相性が良いのです。

▼"自分らしさ"を評価されたい

令和の新入社員は、"自分らしさ"を大切にします。そのため個性をほめて伸ばすと、成長のきっかけになるのです。

彼らは、多くの情報に自由に触れながら育ちました。インターネットやSNSを通じて垣間見える世界には、さまざまな人種や宗教、価値観の人がいます。だから「みんな違って当たり前」と考え、多様性に寛容です。むしろ周りと同じであるよりも、"自分らしくある"ことを重視するのです。

ほめることは、その人の個性や、ならではの行動を賞賛すること。だからほめる教育を行うと、水を得た魚のように育つのです。

 

単にほめればいいワケではない! 良いほめ方・悪いほめ方

ほめる教育も、不適切なほめ方をすると逆効果になりかねません。「良いほめ方」と「悪いほめ方」を解説します。

▼良いほめ方

(1)具体的にほめる

部下をほめるときは、具体的にほめましょう。「すばらしいプレゼンだったね」では不十分です。たとえば「どこが良かったのか?」に着目してみてください。すると「データが充実していた」「結論が分かりやすかった」といった点が見えてくるはず。

それならば、「データの分析が丁寧で説得力があり、結論も明確で分かりやすかった。すばらしいプレゼンだったね」とほめるのです。

もう一つ、「前と比べて、どこが変わったのか?」に着目する方法もあります。すると「前は小声だったけれど、今日は話し方が堂々としていた」といった変化に気づけるはず。

それならば、「今日は自信に満ち溢れていて、頼もしかった。声がクリアでよく通り、思わず聞き入ってしまったよ。すばらしいプレゼンだったね」と具体的にほめることができるでしょう。

 

(2)ほめる基準をつくる

ほめる基準をつくり、その基準を満たしていればほめる、満たしていなければほめない。これが良いほめ方です。

必ず「どんな行動をすればほめるのか?」を決めてください。たとえば営業なら、「顧客に初めて会う前、課題を予測し、説得力ある資料を用意できた」、工場スタッフなら「前日できなかった工程を、朝番に分かりやすく伝えられた」といった具合です。

もしもほめる基準がなかったら? 同じ行動をしても、上司や先輩の機嫌によって「ほめる」「ほめない」が分かれてしまうケースも出てくるでしょう。基準なき「ほめ」は無法地帯を生み出します。すると新入社員は戸惑い、何をして良いか分からなくなります。必ず「ほめる基準」をつくり、ほめてください。

しつけも大切です。「ほめる基準」から外れたことをした場合は注意して、正しい道へと導くことも意識してください。

 

(3)すぐほめる

ほめるタイミングも大事です。ほめるべき行動をしたら、なるべくその場でほめましょう。人間の心理として、タイミングが早ければ早いほど、「頑張るとほめられる」という意識が刷り込まれます。そして「もっと頑張ろう」「頑張ってみよう」という好循環が生まれるのです。

ただし注意したいことがあります。それは「大勢の前でほめられると気が引ける」「ほめられたいけれど、みんなの前ではほめないでほしい」と考える令和の新入社員も多いということです。周りに人がいるならその場ではほめず、個別でほめられるタイミングを探した方が良いでしょう。

 

▼悪いほめ方

悪いほめ方は、いま紹介した「良いほめ方」の反対です。あいまいにほめると、本人は何が良かったのか理解できません。また、ほめる基準をつくらずにほめると、行き当たりばったりになってしまいます。

そしてもう一つ、「ずいぶん時間が経ってから、思い出したようにほめる」といったほめ方も、大きな効果が期待できません。原則すぐほめる、周りに人がいれば場所や時間を見てほめる、というのが意識したいポイントです。

 

ほめる教育がもたらす効果

令和の新入社員にほめる教育を行うと、さまざまな効果が期待できます。

▼やる気を出す

低成長の日本経済を見て育った彼らは現実的です。そのため「今の若者は冷めている」「物事に熱中しない」という印象があるかもしれません。決して、そんなことはありません、自分の興味があること、働き方改革やジェンダー平等など社会課題に関することには、積極的に関わります。

ですから、彼らの好奇心の芽を見つけてほめれば、やる気に火がつきます。そして予想をはるかに超える行動を始め、感動すら覚えるような能力アップを果たします。

 

▼離職率が下がる

ほめる基準が決まっていれば正しくほめられ、理不尽な怒られ方をすることもなくなります。すると彼らは失敗を怖がらず、のびのびと提案や挑戦をするようになります。こうなれば彼らにとって、会社は成長できる大切なフィールド。人間関係も心地いいため、離職率はぐっと低下します。

 

▼チーム全体が元気になる

ほめることは互いの距離を縮め、チームを活性化させます。上司や先輩が彼らに対し「何を考えているか分からない」と距離を置き、陰で愚痴をいうチームと、「よく頑張っているな」「笑顔が見られてうれしい」と応援する気持ちで接し、ほめ言葉をかけるチーム。どちらの方が伸びるでしょうか? 答えは言うまでもないでしょう。

 

ほめる教育が安全地帯をつくる

日本人の多くは、ほめることを苦手としています。謙遜を重んじる文化があるため、ほめ言葉を使うことに慣れていないのです。ましてや昭和生まれは、年功序列や終身雇用が身近な世代。上司や先輩の言うことは絶対だったし、思いきり叱られることはあっても、ほめられた経験は皆無かもしれません。

でも、令和の新入社員は承認されて育ってきたのです。違いを理解せず、従来の教育を続けるとどうなるでしょうか?

せっかく採用した新入社員も、「この会社に自分の居場所はない」と退職してしまう可能性があります。また、休職する社員も増えてきており、復帰しても居場所がなかったり、退職する決断ができず、休職を繰り返してしまうケースもあります。そうなれば、かけたコストは無駄になってしまいます。

しかも本人がインターネットやSNSで、悪い噂を流す可能性もゼロではありません。そうした情報は消えず、企業の採用ブランド力は低下。ますます採用が難しくなり、採用担当者のモチベーションも低下、顧客減も招くかもしれません。

現場で育成にあたる上司や先輩、そして人事担当者や経営者は、危機感をもたなくてはいけません。「ほめる? そんな、とんでもない!」と言う時代は終わりました。ほめる教育をして、彼らにとっての"安全地帯"をつくってあげてください。

彼らは、ほめられるために入社してきました。ほめるために、入社させたのです。

「君は我が社にとって重要な人間だよ」と声をかけてあげてほしいのです。彼らの可能性を、本人よりも信じて言葉をかけ続ける。そうした教育が求められています。人材育成は、本当に大変で手間暇がかかりますが、部下育成は自分育成。自分も成長していくイメージを持ち、楽しみましょう。

 

著者紹介

原邦雄(はら・くにお)

株式会社スパイラルアップ代表取締役/ほめ育財団代表理事

兵庫県芦屋市出身。大学卒業後、メーカーを経て、船井総合研究所に転職。様々な業種の人材育成に関わる。その中で、従業員のエンゲージメントの重要性を実感し、独自の教育メソッド「ほめ育マネジメント」を開発。これまでに600社以上の企業や教育機関に研修を行なっている。また、アメリカ、インド、中国、オーストラリアなど世界20か国に進出。著書に「今すぐできる! 今すぐ変わる!『ほめ育』マネジメント」(PHP研究所)など。

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