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群衆が大きいほど“リンチ事件は残虐”に...集団いじめの心理的メカニズム

内藤誼人(心理学者、立正大学客員教授)

2024年09月30日 公開 2024年10月01日 更新

群衆が大きいほど“リンチ事件は残虐”に...集団いじめの心理的メカニズム

なぜいじめはなくならないのか。企業による犯罪や国家による戦争が後を絶たないのはなぜか。人は、一人ではとてもできないことを集団ならいとも簡単にできてしまう。集団心理の恐ろしいメカニズムを心理学者の内藤誼人氏が語る。

※本稿は、内藤誼人著『世界最先端の研究が教える新事実 対人心理学BEST100』(総合法令出版)より一部抜粋・編集したものです。

 

悪いことをしても組織なら許されてしまうのは、なぜ?

組織などの集団ではなく、個人がひどいことをすると、すぐに道徳的に非難されることになります。たとえば、ある人からみなさんがお金をだまし取られたりしたら、「この悪魔め!」「この守銭奴め!」と相手を罵りたくなるでしょう。それが人情というものです。

ところが、まったく同じことを組織がやっても、なぜかそんなに非難されないのです。

国、あるいは県などがみなさんのお金を少しだまし取ったとします。もちろん、腹は立つでしょうが、個人にお金をだまし取られることに比べたら、まだマシと感じるのではないでしょうか。

イスラエルにあるベングリオン大学のウルエル・ハランは、「家の所有者とリフォーム会社が、台所を新しく改装するための契約を結んだ」という内容の文章を作って、146人に読ませてみました。

この文章には続きがあって、「リフォーム会社は施工の1週間前に一方的に契約を破棄した」という内容が書かれていました。とてもひどいことをしたわけです。

さて、ここまでの内容は同じですが、ここから先でハランは2通りの文章を用意しておきました。半数の人に与えられた文章では、「リフォーム会社のCEOが、より代金の高い他の仕事を引き受けるために契約を破棄した」と、CEO個人がひどいことをしたことになっていたのですが、残りの半数の人に与えられた文章では、「リフォーム会社が、より高い仕事を引き受けるために契約を破棄した」と、会社がひどいことをしたことになっていたのです。違っていたのはこの部分だけです。

それからハランは、この契約破棄がどれくらい道徳に反していて貪欲だと思うかを尋ねてみました。すると個人(CEO)がやったときのほうが、道徳に反していて貪欲すぎると評価されることがわかりました。一方で、会社がひどいことをやったときには、なぜか「納得できるビジネス上の決定だ」と思われることもわかりました。

たとえ同じことをしても、個人がやったときのほうが、人は非難されます。

ですので、何か悪いことをするときには、できれば他の人も誘ってグループや団体や組織でやったほうがよいでしょう。そのほうがバレたときに怒られません(笑)。

もちろんこれは冗談で言っているのであって、法に触れるようなことは絶対にしてはいけません。

 

集団になると人は残虐になってしまう

一人で仕事をするより、グループやチームで何かをするときのほうが、作業ははかどるものです。みんなで集まると、人は思わぬ力が出せるようになります。一人ではできないことも、集団ならできる、というところがあります。

こういう力は、よい方向に向かうのなら、本当に素晴らしいものですが、悪い方向に進んでしまうこともあるので注意が必要です。

「赤信号、みんなで渡れば怖くない」という懐かしいギャグがあります。若い方は知らないかもしれませんが、これはビートたけしさんとビートきよしさんのツービートが流行らせたギャグです。

みんなで悪いことをすれば、そんなに怖くないという意味なのだろうと思いますが、実際に、人間にはそういうところがあるのです。

イギリスにあるケント大学のターザー・リーダーは、新聞記事で、「リンチ事件」に関する記事を検索し、リンチ事件にかかわった群衆の人数と、その残虐性がしっかり記載されている記事だけを集めると、60件ありました。そこでその60件を分析してみると、群衆が大きくなるほど、残虐性(銃で撃つ、火で焼く、切り刻む、ナイフで刺す)が増す、という傾向が見られたのでした。

一人では、そこまでひどいことはできなくとも、群衆が大きくなるほど、信じられないくらいに残虐なことができてしまうのです。まさしく「みんなでやれば怖くない」という心理になるのでしょう。リンチに加わる人たちも、一人ひとりを見てみれば、普段はおそらくごく一般的な市民なのでしょう。温情も持ち合わせていて、善意の精神の持ち主だったりするのです。

ところが、そういう普通の人たちも、何人かで集まっているときには、残虐になってしまうのですから、人間というのは、本当に怖いものです。

学校のいじめもそうです。一人の乱暴者に何かされているのならまだしも、何人かのグループにいじめられるときには、いじめの度合いがエスカレートする傾向があります。こうなると、もう止まりません。

いったんグループで何かおかしなことを始めると、「もう、こういうのをやめようよ」と提案する人もまとめてリンチされる危険があるので、誰も止められなくなってしまうのです。

最終的には、相手を殺すところまでやってしまうのが、集団によるいじめの怖さだといえます。

著者紹介

内藤誼人(ないとう・よしひと)

心理学者/立正大学客員教授

慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。[有]アンギルド代表。社会心理学の知見をベースに、ビジネスを中心とした実践的分野への応用に力を注ぐ。その軽妙な心理分析には定評がある。『人は「暗示」で9割動く!』(だいわ文庫)など、心理に関する著書多数。

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