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オールナイトニッポンの真価 「急なトラブルをチャンスに変える」柔軟な対応力

冨山雄一(オールナイトニッポン統括プロデューサー)

2025年03月18日 公開

オールナイトニッポンの真価 「急なトラブルをチャンスに変える」柔軟な対応力

年間イベント動員数25万人以上、スポンサー数、過去最高...一時は衰退の危機にあったラジオ番組「オールナイトニッポン」が、なぜいま"静かな熱狂"を呼んでいるのか? オールナイトニッポン統括プロデューサーである冨山雄一氏が、V字回復に至るまでの20年間を紐解いた書籍『今、ラジオ全盛期。』より、2020年代コロナ禍のラジオ制作現場の裏側について明かす。

※本稿は、冨山雄一著『今、ラジオ全盛期。』(クロスメディア・パブリッシング)を一部抜粋・編集したものです。

 

「体調不良」という想定外がチャンスを生む

生放送はアクシデントの連続です。

かつては、パーソナリティが急遽、体調を崩されて休演となると、関係各所の調整や代演のブッキングなど大変な状況になっていました。

このピンチをどう乗り切るか? 知恵を絞って臨機応変に突破する柔軟な対応力が求められます。また、その「想定外の急展開」がうまくいったときには、リスナーはとても喜んでくれるので、ここは腕の見せ所になるわけです。

コロナ禍で「体調不良のときには無理をして稼働してはいけない」という"ニューノーマル"が広がった社会変化によって、当日、パーソナリティがお休みになるケースも多くなりました。

ピンチはチャンスです。いや、チャンスに変えるのがオールナイトニッポンの価値だと思います。「パーソナリティが当日になって欠席」という本来ならネガティブな事態であったとしても、「じゃあ、代わりに誰がしゃべるのか?」という話題に変え、リスナーの期待を超える斬新な放送回が生まれる可能性は十分にあります。むしろ、こうしたピンチに面したときにこそ、クリエイティビティが発揮されると言えるでしょう。

僕は、当日に番組のお休みが決まると、会社のパソコンでその日の「収録スタジオの予定表」「全部の会議室の予約内容」「駐車場の使用状況」をチェックするようになりました。

この日にどんな人が収録や打ち合せでいらっしゃっているのだろう、もしかしたら急遽、パーソナリティを担当してれくるかもしれないと当たりをつけるからです。実際に駐車場の予約表を見て、オールナイトニッポンのパーソナリティを急遽、お願いしたケースもあります。

これも生放送ならではの魅力であり、価値。いつ起こるかわからない想定外をチャンスに変えられる筋力として、慌てずに柔軟な発想力やすぐに動き出せるフットワークを磨くことが重要だなと感じています。

 

深夜ラジオの生放送とポッドキャストの違い

21世紀に登場した新しい音声コンテンツが「ポッドキャスト」です。Spotifyなどのプラットフォームでは、さまざまな人、さまざまなテーマによるコンテンツがいつでも無料で聴ける時代になりました。

そんな音声コンテンツ全盛時代ともいえる今、オールナイトニッポンの価値とは何かといえば、やはり生放送ならではのドキドキ感、そして、その時間にリアルタイムで立ち会うリスナーの皆さんと共につくる一体感だと思います。

世の中が寝静まった深夜25時に、わざわざ集まってくるというだけで、秘密めいた"仲間"のような感覚が生まれますし、何が起きるかわからない展開を一緒に体感したいというワクワク感もあります。前澤友作さんの宇宙からの生放送などはその典型例でしょう。

ラジコのタイムフリー機能によって、オールナイトニッポンは「いつでも聴ける」コンテンツになりました。ただ、その"初出"の瞬間を一緒に体験したいというリスナー心理に応えるのが生放送です。

ですので作り手である番組スタッフたちは毎日毎晩、「その日じゃないと聴けない放送を届けよう」という気持ちで作っています。

そして、最近あらためて認識を深めているのは、オールナイトニッポンは実はものすごいリッチコンテンツなのではないかということです。

旬のミュージシャンやお笑い芸人の方が1時間、2時間ぶっ通しで、しかも生で、しかも毎週、しゃべり続けるコンテンツなんて他にはありません。YouTubeやインスタライブではまず実現しにくいと思います。

逆に、「いつでもどこでも視聴可能」が基本設計となっているYouTubeに慣れている今の10代・20代にとっては、「深夜の長時間生放送」というスタイルが新鮮に映るようです。

オールナイトニッポンの放送内容のメインはトーク。パーソナリティの本業の話はもちろんのこと、本業以外のパーソナルな素顔や趣味など、よりその人の内面に向かったトークが繰り広げられる世界です。

だからこそ「ここでしか聴けない話」が詰まっていて、放送後に話題になる。結果、放送から何時間も経ってからタイムフリーで聴きに来るリスナーが多いのです。

オールナイトニッポンは、生放送と比べてタイムフリーのほうが5〜7倍近く聴かれていることからも、流しっぱなしにするのではなく「わざわざ聴きに来る価値」を感じてくださっているのだと受け止めています。

この価値を理解し、伝えていったことで、リスナーやスポンサーの方々にももう一度振り向いていただけるようになったのだと思います。

 

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