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『anan』『ぐるんぱのようちえん』意外とこんなところにも? 堀内誠一さんの底知れない仕事【展覧会レポ】

PHPオンライン編集部

2025年03月14日 公開 2025年03月14日 更新

『anan』『ぐるんぱのようちえん』意外とこんなところにも? 堀内誠一さんの底知れない仕事【展覧会レポ】

雑誌『anan』や『BRUTUS』(マガジンハウス)のロゴやアートディレクション、絵本『ぐるんぱのようちえん』(福音館書店)の作画などで知られる堀内誠一さんの展覧会が、東京・立川のPLAY! MUSEUMにて4/6(日)まで開催中です。

「堀内誠一展」は3つの展覧会で構成されています。「FASHION」「FANTASY」「FUTURE」それぞれ異なるクリエイターによって展示空間がデザインされ、見どころがたくさん詰まっていました。

写真(撮影:植本一子)©Seiichi Horiuchi

 

堀内誠一さんってどんな人?

堀内誠一展

堀内誠一さんのキャリアは、1946年頃、14歳で新宿伊勢丹百貨店の企画部宣伝課へ入社したところから始まります。14歳で働き始めるなんて今では考えられませんが、戦後の混乱の中で生活を立て直すためだったといいます。

伊勢丹ではウィンドウディスプレイや看板描きなどを手がけ、その後デザイン会社の創業メンバーになり、広告のアートデザイン、ディレクションをするように。

さらに、絵を描くのが好きで得意だった堀内さんは、デザイン会社での仕事と並行して絵本のイラストを描くようになります。70冊を超える絵本を世に送り出しました。

27歳(1959年)で、新たに創刊した『週刊平凡』(平凡出版、現・マガジンハウス)のアートディレクターに抜擢。雑誌づくりへの道が徐々に開かれていきます。そして1970年に創刊した『anan』(マガジンハウス)にアートディレクターとして参加。2年間、49冊の雑誌づくりに携わりました。

40歳(1972年)で『anan』のディレクターを退くと、翌年にはパリへ向かい、亡くなる5年前までパリに滞在。そして病気のため54歳の若さでこの世を去ります。

今回の展覧会は、そんな堀内誠一さんが生涯で取り組んだ仕事や作品をまるごと味わえるような贅沢な内容でした。「こんなものまで作っていらっしゃったとは...」と、その仕事の幅広さに驚かされます。

 

斬新でエネルギッシュな当時の『anan』に力をもらえる

堀内誠一展

入場してすぐにあるのは「FASHION」展。堀内さんが創刊から2年間にわたりアートディレクターをつとめた『anan』にフォーカスした展示になります。入口の真横には堀内さんが手がけた49冊の『anan』が壁一面に展示されています。

当初はフランスの雑誌『ELLE』の日本版として作られていることもあり、流行に留まらない鮮やかで斬新な誌面構成で、現在の『anan』とは違った魅力を感じます。

入口近くには、7号の目次に書かれていた宣言文も大きく掲示されていました。

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生きて、愛して、歌って!!!!!!!
それが「アンアン」のファッションです。
(中略)
「アンアン」は新しいファッション・マガジンですが、昔からある洋裁学校向けの、実用服飾誌や美容専門誌ではありません。
(中略)
布を身にまとうことだけが、おしゃれではありませんものね。脱ぐことも、またおしゃれです。リズムをとること、踊ること、話すこと、どんなものをどんな風に食べるかということ、住むこと、旅すること、みんなファッションです。
(7号 目次より一部抜粋)
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ここに書かれたキーワード「踊る」「話す」「旅する」などをテーマに、拡大した誌面が全体に並びます。展示室内に設置されたQRコードを読み込むと、そのページに関するクレジットも見られるそうです。

堀内誠一展
創刊1周年記念号(26号)を前ページ読める展示も/写真(撮影:植本一子)©Seiichi Horiuchi

堀内さんは企画からディレクションまで関わっていたそうで、その背景と展示を照らし合わせて見ると圧倒されます。

館内を歩いていると、偶然にも、元マガジンハウスの雑誌編集者で、現在は引退されているというお客さんとお会いしました。その方は「こんなにも情熱、エネルギーを感じさせる雑誌づくりは今ではできない。それを肌で感じられる展示に来られてよかった」と話していました。

雑誌づくりの当時の技術を考えると、フィルムカメラで丁寧に撮影された一枚一枚の写真や、誌面の構成に込める想いは、今とは比べものにならないほど強かったはず。

さらに、雑誌に綴られた文章も今とはすこし異なり、どこか明るく、読む人に元気を与えるような力があると思いました。そんな熱量を全身で感じられるのが、本展の魅力です。

堀内誠一展
今回の取材はnobico編集部の中野セコリさんと、そのお子さんと一緒にうかがいました

奥には雑誌の閲覧スペースがあり、『anan』だけでなく、堀内さんが以前に携わった『ロッコール』(コニカミノルタのPR誌)も座って読むことができます。雑誌好きな方にはたまりませんね。

 

たくさの絵本に囲まれて、童心に帰った気持ち

堀内誠一展

進んでいくと次に見えるのが「FANTASY」展。堀内誠一さんが携わった絵本の数々に触れることができる展示です。エリアに入ると目の前に広がる可愛らしい空間に、大人も思わず「わあ~」と声を上げてしまうほど。

『ぐるんぱのようちえん』『オズの魔法使い』『くろうまブランキー』など、堀内さんがファンタジーを描いた9つの作品をその世界に入り込んだような気持ちで楽しめます。

PLAY! MUSEUM広報の草刈さんによると、9つの作品を展示することは決まっていたものの、どのようにそれを魅せるか、展示デザインを担当したima 小林恭+マナさんと企画担当者の間で悩まれたそう。

PLAY!MUSEUMらしさが出るよう、映像や音などを使った、絵本の世界を体験できる演出にもこだわったのだといいます。

堀内誠一展
写真(撮影:植本一子)©Seiichi Horiuchi

たくさんの原画が展示されていますが、驚くのが堀内さんが描く画風の多様さ。同じ人が描いたとは思えないほどに線や色使い、画材に違いがあり、どの作品にもそれぞれ魅力を感じます。

堀内誠一展
写真(撮影:植本一子)©Seiichi Horiuchi

堀内誠一展
月刊絵本「こどものとも」200号記念『てがみのえほん』 有名な絵本のイラストを堀内さんが描いた

「FANTASY」展の最後は『ぐるんぱのようちえん』ゾーン。この展示のために作られた、3m以上ある大きなぐるんぱ像がお出迎えしてくれます。ここは撮影がOKとのことなので、展覧会に訪れた記念にたくさん写真を撮りたいところ。

堀内誠一展
写真(撮影:植本一子)©Seiichi Horiuchi

また、設置された本棚には堀内さんが愛したという国内外の名作絵本や、自身が携わった作品が100冊以上置かれています。ここでは靴を脱ぐこともあってか、子どもも大人もリラックスしてゆったりと本を楽しむ姿が見られました。

堀内誠一展
『絵本の世界 110人のイラストレーター』(福音館書店)

今では手に入りにくそうな古い本も並ぶなか、特に気になったのが堀内誠一編纂の『絵本の世界 110人のイラストレーター』(福音館書店)。堀内さんがセレクトした画家の作品をまとめた重厚な一冊です。堀内さんの画風が多様なこともうなずける、西洋画から日本画まで多岐にわたる絵を見ることができます。

堀内誠一展
たくさんの絵本に囲まれて子どもも大人もわくわく

時間が許すならもっと絵本を漁りたい...と童心に帰ったような気持ちになれる空間でした。

 

こんなお仕事までされていたのか...

堀内誠一展
写真(撮影:植本一子)©Seiichi Horiuchi

最後は「FUTURE」展です。堀内さんと生前につながりがあった方や、影響を受けた方110人が推薦した作品が並ぶ展示です。

参加したエッセイストの松浦弥太郎さんや、編集者の都築響一さんなど、各界の著名な方たちのコメントも添えられています。この展示全体は、堀内さんの存在を"言葉"で説明する構成ではないからこそ、著名人たちのコメントからその仕事ぶりや人柄を感じ取ることができるかもしれません。

堀内誠一展
写真(撮影:植本一子)©Seiichi Horiuchi

また、作品たちは時系列に展示されているため、堀内さんの仕事人生を伴走するかのように楽しむこともできます。序盤にはなんと、堀内さんが子どもの頃に描いたという絵も展示されており、その頃からセンスをお持ちだったことをひしひしと感じました。

堀内誠一展

どこを切り取ってもお洒落で洗練されたものばかりなのですが、堀内さんがデザインし、いまでも受け継がれている雑誌ロゴの原画には興奮しました。BRUTUSやPOPEYE、クロワッサンなど...これを当時手描きでデザインされたのかと思うと「すごい」としか言いようがありません。

堀内誠一展

真ん中に大きく記された谷川俊太郎さんの言葉は、堀内さんが亡くなった際に谷川さんが贈られた言葉の一節。

――私たちに遺してくれたもの、それは喜びだ。

そんな谷川さんも今ではこの世界にいらっしゃらないのかと思うと、この一言に重みを感じ、考えさせられる締めくくりでした。

 

散財しないようご注意を

堀内誠一展

グッズやカフェも堀内誠一展一色でした。堀内さんが暮らしたパリや、描かれた絵本の世界観を存分に取り入れたものたち。

堀内誠一展

グッズはどれも日常使いしたくなる、お洒落なもののオンパレード。ここでしか買えないことにかこつけて、ついあれもこれもと手が伸びそうです。

堀内誠一展
ふらいぱんじいさんのオムライス(サラダ付き) 1,680円

カフェでは『ぐるんぱのようちえん』プレートや、『ふらいぱんじいさん』のオムライス、クリームの上にイラストが載ったドリンクなど、わくわくするメニューに迷ってしまいます。

堀内誠一展
ぐるんぱのぬいぐるみも座っていたり...

また、ブックカフェ仕様になっていて、料理がくるまでの待ち時間に家族や友人と絵本を読むこともできます。

堀内誠一展

じつはこの「堀内誠一展」は当日中は何度でも入退場できるので、一度カフェなどで休憩して再び雑誌や絵本を読むために入場する、なんて楽しみ方もできるのです。

広報の草刈さんによると、本展には堀内さんの絵やクリエイティブに馴染みがある50代以上の方、デザインに興味を持っている2,30代の方、絵本を読み始めた子どもとその親御さんたちなど、幅広い年代のお客さんが来場しているそう。

堀内さんが多彩な仕事を通して発していたパワーやエネルギーを全身で感じ、元気になれるような素敵な内容でした。会期は残り1か月弱になりますが、春のお散歩がてら、ぜひ足を運んでいただきたいです。

堀内誠一展

堀内誠一展 FASHION・FANTASY・FUTURE  
2025年1月22日(水)ー 4月6日(日)
休館日: 2025年2月16日(日)
開館時間:10:00ー17:00(土日祝は18:00まで/入場は閉館の30分前まで)

https://play2020.jp/article/seiichi_horiuchi/

入場料:一般1,800円 / 大学生1,200円 / 高校生1,000円 / 中・小学生600円 /未就学児無料
◯割引制度(併用不可)
①[立川割]一般 1,200円 / 大学生700円 / 高校生600円 / 中・小学生400円 /未就学児無料
*立川市在住・在学を確認できる免許証、学生証等をご提示ください
②[障害者割引]障害者手帳をご提示の方とその介添人1名は半額
③[相互割引]MUSEUMに「一般」で入場の方は、レシート提示で同日PLAY! PARKを200円引きで利用できます

特別協力:堀内事務所
協力:福音館書店

キュレーション:林綾野

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