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生き方

専門医がうつ病患者に伝えた“休むための20の技術”

広岡清伸(精神科医)

2026年04月22日 公開

専門医がうつ病患者に伝えた“休むための20の技術”

仕事をきっかけに「うつ病」を発症した坂本正志(仮名)さん。真面目な人ほど成果が出ないと自分を責めてしまいがちですが、精神科専門医の広岡清伸さんが経営に訪れることで笑顔を取り戻し、仕事に復帰するまでに至ったそうです。

眠れずに塞ぎこんでいた坂本さんが、いかにして「うつ病」から回復したのか――本稿では、専門医の広岡さんが坂本さんに伝えた「休む技術」を紹介します。

※本稿は、広岡清伸著『ごめんなさい、もうこれ以上頑張れません』(アスコム)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

※本記事は特定の治療法を推奨するものではありません。実際の治療・服薬に関するご判断は、必ず主治医または専門医にご相談ください。

 

「休む技術20」:心と体の休息編

わたしが時間をかけて坂本さんに伝えてきた"休む技術"を整理してみると、次の20の項目になりました。

【A】心の休息(思考と感情を休ませる)

①淡々と生きる

感情の波に流されず、落ち着いて現実を受け止めるようにしましょう。

②自分をネガティブに追い込まない

ネガティブな思考を繰り返すと心が傷つきます。ネガティブな思考になったら、早めに切り替えるようにしましょう。

③何もしない勇気を持つ

「何かしなければ」という焦りから解放されましょう。何もしない時間、遊ぶ時間、くつろぐ時間も、立派な"生きる時間"です。

④比較の世界から一歩外に出る

他人との競争や評価の枠からいったん離れましょう。相対的な物差しの中で生きると、心は常に誰かとの比較で疲弊します。

⑤絶対的プライドを意識して育てる

「生きているだけで価値がある」という感覚を育てましょう。結果や評価に関係なく、自分の存在を肯定する心が、絶対的プライドです。

⑥同じ心配を続けない

同じ心配を繰り返すことで苦悩が増幅します。意識を別の方向に向けて、思考のループを断つ練習をしましょう。

⑦プラスを増やし、マイナスを減らす

完璧を求めず、欠点を含めて「丸ごとの自分」を受け入れましょう。ポジティブな刺激を増やし、否定的な環境や情報から少し距離を取ることも大切です。

【B】体の休息(体を回復・整える)

⑧疲労をモニタリングする

心と体の「疲れ度」を数値化して見える化します。気づけば無理を減らせます。

⑨計画的に休憩を入れる

限界まで頑張る前に、意識的に休息を入れる。「早めに立ち止まる」習慣が再発を防ぎます。

⑩睡眠を整える

起床・就寝時刻を固定し、睡眠を妨げる光や音、カフェインを調整しましょう。睡眠の質は、心の安定の土台です。

⑪食事を摂る

空腹や偏食は、気分にも影響します。少量でも栄養バランスを意識し、食べる行為そのものを"自分を養う時間"として大切にしましょう。

⑫ストレッチやテレビ体操などの軽運動を取り入れる

体を動かすことで脳が整います。やれる範囲でかまいません。続けることが目的です。

⑬散歩を心がける

リズム運動は、脳と心を整えます。外の空気や光に触れることで、気分が自然に上向きます。

 

「休む技術20」:生活の休息編

⑭趣味の時間を確保する

"楽しい"と感じる時間は、心を温める最良の回復薬です。小さな楽しみを取り戻しましょう。

⑮動物とのふれあいを持つ

ペットや小さな生き物と関わることで、無条件の安心感を得られます。観察でも十分癒しになります。

⑯自然に触れる

都市で生活していても、花や木、風や光に目を向けるだけで"生命のリズム"を取り戻せます。

⑰家族を大切にする

家族は人類の自然な支えの単位です。日頃から「ありがとう」「大切だね」と伝え合うことが、心の安心をつくります。

⑱職場の人間関係を大切にする

人はひとりでは生きられません。思いやりをもって働くことで、仕事が再び"生きる場"になります。

⑲キャパオーバーを避ける

自分の限界を把握し、上司・チームと早めに共有して優先順位を整える勇気を持ちましょう。

⑳キャパオーバーになったら、疲労回復を最優先する

頑張り続けると、心に蓄積疲労が起こります。立ち止まり、眠り、休む――それが回復の第一歩です。

休むとは、怠けることではありません。それは「自分という生命を整える力」です。休息を学ぶことは、人生を学ぶこと。紹介した20の技術は、心・体・生活三層に同時に働きかけ、日々"やわらかな強さ"を育てます。

たとえば「散歩」は、体を動かすだけでなく、自然のリズムに触れて心を鎮め、生活の流れも整えます。「淡々と生きる」という心の技術は、呼吸や筋緊張を安定させ、人との関係も穏やかにします。三層は連動します。今日の自分に合うものをひとつ選び、小さく始め、無理なく続ける――それだけで回復力(レジリエンス)は確かに育っていきます。

 

うつからの回復は、"心の花"を咲かせるということ

うつ病は敵でもなければ、退治すべき「病魔」でもありません。それは真面目に生き、責任感を持ち、人を思いやる人ほど抱える「生きている証」です。

わたしの精神科医としての役割は、うつ病を抱える患者さんを丸ごと受けとめ、安心と信頼を与えることです。そして、焦らず、ゆっくりと時間をかけ、共に歩む。その積み重ねが、再び人生を楽しむ力へとつながっていくと信じています。

この10年で、坂本さんの表情には、だんだんと笑みが増えていきました。その笑顔は、長い冬を越えたあとの春風のような温かさが、診察室に流れるようでもありました。坂本さんの笑顔は、何かが完全に治ったというより、「もう一度、生きてみよう」と心の奥で灯がともった瞬間だったように思います。

人の心は、折れながらも、もう一度まっすぐに立ち上がる力を秘めています。それは、理屈ではなく、誰かとのつながりの中で静かに育まれていくものです。坂本さんにとってのそのつながりは、家族の支えであり、デイケアで交わした小さな笑い声でした。肯定的な体験とは、そうした「小さな安心」の積み重ねにほかなりません。

わたしは、患者さんにこう語りかけることがあります。

「生きているだけで成功ですよ」

「結果を出せなくても、うまくいかなくてもかまいません。それでも、わたしの人生には確かな価値がある......」

そう思えるときこそが"絶対的なプライド"を持っている状態です。人が人として生きる根本の力です。これが持てるようになるほど、心の根が太くなり、折れ難くなっていきます。何度でも立ち上がれるようになっていきます。

「人見るもよし 人見ざるもよし 我は咲くなり」

作家・武者小路実篤のこの言葉は、人に評価されることを目的とせず、自分の生をそのままに咲かせる勇気を語っています。心の花は、"絶対的なプライド"の象徴です。わたしたちは、とかく他者の目を気にし、うまく生きられない自分を責めがちです。

花が人に見られるために咲くのではないように、人間も同じです。人生もまた"評価されるため"にあるのではないのです。人が見ていようと見ていまいと、自分のペースで咲き、生きていること自体に意味があります。

では、「自分だけの花」とは何でしょうか。それは、光も影も、喜びも苦しみも、すべてを含んだ"丸ごとの自分"です。失敗や挫折、迷いもまた、その人の花弁の一枚であり、その総体こそが、かけがえのない生命(いのち)のかたちをつくっています。

苦悩を抱えるとき、人は「咲けていない」と感じます。けれども実は、苦しみながらも一歩を踏み出しているその姿こそが、誰にも似ていない花が咲く瞬間なのです。人は誰もが、自分という花を咲かせながら生きています。うつからの回復とは、この”花”が再び陽の光を受け取り、静かに、その人らしい色で咲きはじめることなのです。

プロフィール

広岡清伸(ひろおか・きよのぶ)

精神科医

精神科専門医、指導医、精神保健指定医。広岡クリニック理事長。富山県高岡市出身、早稲田大学中退、日本大学医学部卒業。東京大学医学部付属病院研修医、堀ノ内病院、関東労災病院などを経て1992年に横浜市港北区に広岡クリニックを開設。患者の目線に立って治療する独自の「肯定的体験療法」が評判を呼ぶ。今まで診察してきた患者は1万人を超える。著書に『日本の臨床現場で専門医が創る図解精神療法』(鳥影社)、『広岡式こころの病の治し方』(日経BP社)などがある。

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