
現在、50%以上の企業で人手不足が起きており、1人の求職者に2つ以上の求人があるというデータが出ています。人手不足の中で、若手の離職問題に頭を抱えている企業も少なくないでしょう。若手はなぜ会社を辞めてしまうのでしょうか。書籍『離職防止のプロが2000人に訊いてわかった! 若手が辞める「まさか」の理由』より解説します。
※本稿は、井上洋市朗著『離職防止のプロが2000人に訊いてわかった! 若手が辞める「まさか」の理由』(秀和システム)を一部抜粋・編集したものです。
なぜ若手社員が辞めていくのか?
今の若手社員が会社を辞める本当の理由は、なんだと思いますか?
給料、人間関係、入社前後のギャップ、ほかにやりたいことが見つかったから、時代の変化で転職が当たり前になったから......。読者のみなさまのこれまでの経験や知識から、様々な理由が推測されると思います。
私は、若手社員がなぜ辞めるのかについて、2011年から実態調査を開始し、これまで新卒入社後3年以内に辞めた約300名の方にインタビューをおこなってきました(私以外のプロジェクトメンバーのインタビューも合わせると約400名です)。
また、現在は企業向けの離職対策支援の一環として、年間100件以上の研修・講演登壇を通じ、年間2000人以上の新入社員、OJT担当者、管理職、経営陣など様々な立場の方々と接しています。
研修の場では、外部の人間に対してだからこそ、話せる本音や相談を聞く機会も少なくありません。
若手社員が辞める主な「3つの要因」
多くのインタビューや企業で働く方々の生の声を聞く中で、若手社員が辞める要因は3つに集約されることがわかりました。
①存在承認の不足
②貢献実感の不足
③成長予感の不足
社員の定着率を上げたいのであれば、自社の社員が辞める要因がこの3つのうちのどこにあるのかを把握し、会社の状況にあった対策をすることが必要です。
深刻化する人手不足対策として、企業は採用を強化し、働き方改革などで労働環境整備に力を入れていますが、「若手社員が定着しなくて困っている」という声は、企業の大小問わずに聞かれます。若手社員の定着がうまくいかないのは、自社の若手社員が辞める理由を正しく把握できておらず、正しい対策もしていないからです。
若手の希望を叶えるだけでは離職防止にならない
自分のやりたい方向性での成長を重視する若者に向けて、最近では企業も工夫をこらしています。いわゆる「配属ガチャ」を減らす・なくす努力もその一つです。
配属ガチャとは、入社してみないとどこに配属されるのかわからない、配属されないとよい職場かどうかわからないことを、カプセルトイやソーシャルゲームなどの「ガチャ」(「ガチャガチャ」「ガシャポン」)にたとえた言葉です。
新入社員が「配属先の雰囲気が悪かった」「配属ガチャに外れた=希望と違う部署に配属された」など「はずれ」と感じることは、企業の立場からすると、早期離職に直結するイメージが強いのです。そのため企業は、配属ガチャ対策に必死です。
たとえば、入社前や内定時に配属を決めて、事前通知する会社も増えてきました。また大企業では、転居を伴う転勤がない地域限定総合職も珍しくなくなってきました。
しかし、それでも早期離職率は下がっていません。むしろ、大企業の早期離職率は上昇傾向です。その理由は「自分のやりたいことができる」の意味に、現在と将来、2つの時間軸が混じっているからです。
若い世代にとっての「やりたいことができる」とは、今すぐにやりたいことができるという意味とともに、将来的に「本当にやりたいことが見つかったときに、やれるだけのスキルを身に着けておきたい」という意味があると考えられます。
本当にやりたいことを見つけたときに、やりたいことができるために重要なのは、社内での評価よりも社外からの評価です。
Z世代の7割以上が「自分の市場価値を上げたい」
社外での評価を表すキーワードが「市場価値」です。キャリアにおける市場価値とは、転職市場での自分の価値、つまり年収のことです。ニーズの多い希少なスキルを持っている人は市場価値が高くなる一方で、実績があっても「他社では通用しにくいスキルしか持っていない」と判断されれば、市場価値は低くなりがちです。
では若手社員は、どのくらい市場価値を意識しているのでしょうか。
株式会社SHIBUYA109エンタテイメントの「Z世代のキャリア観に関する意識調査」によると、2024年卒・2025年卒予定の学生438名へのアンケート調査では、75.1%が「自分の市場価値をあげたい」と回答しています。
別の調査結果もあります。新卒採用支援サービスなどをおこなう株式会社ペンマークが、Z世代3万人におこなった調査では、就職先を決めるうえで重要だと思う項目のトップが「スキルアップや成長の機会が多く、市場価値を高められるか」でした。ちなみに、2位は「給与・待遇が良いか」です。
転職市場では、前職の給料で転職先の給料が決まるケースもしばしばあるため、最初に高い給与の会社に入りたいと考えている可能性もあります。
「市場価値を高めたい」は、インタビューでも非常によく聞く話です。私のインタビューでは、最後に「今後の展望」をお聞きするのですが、直接的に市場価値という言葉をつかわなくても、どこに行っても通用する力を身に着けたいという話はよく耳にします。
「今後の展望は?」という質問に対して、ある方の一例をご紹介します。
「どこでも通じるスキルを持っているビジネスパーソンになりたい。自社の商材に依存しないような力です。企業のネームバリューに頼らないように、自分のコミュニケーションの取り方、知識や提案力を身に着けて、お客さんに価値を提供しながら社会を生き抜いていけるように、個人として強くなりたいです」
この方の特徴は、お金のために市場価値を高めたいわけではなく、お客さまに価値提供するために成長したいと言っていることです。
似たようなケースはほかの方でも見られます。市場価値を高めたいという気持ちの源泉が給料を上げたい、とにかく儲けたいという気持ちではないことも、若手の離職原因を知るうえで重要なポイントです。