
不安や憂うつ、イライラ、焦り...それは"思考過剰"が原因かもしれません。現代人の意識は思考に偏りやすく、そのアンバランスが生きづらさにつながることがあるのです。そのため、思考過剰から抜け出し、「今ココ(過去や未来にとらわれず、今この瞬間に目を向けること)」に意識を向けることが重要です。
本稿では、過剰な思考に対処するための「瞑想」の手法について『じぶんでできる左脳過剰の静め方』より紹介します。
※本稿は枡田智著『じぶんでできる左脳過剰の静め方』(かや書房)を一部抜粋・編集したものです
「思考に気づく」ことが重要
思考過剰から抜けるには、「思考に気づく」ことです。自分が思考しているということを、自覚するのです。
例えば、「あいつ本当に許せないなぁ」と考えていた場合、「<許せないなぁ>と考えているな」と自覚します。これが「思考に気づく」ということです。思考の中身を詳しく認識するというよりも、「自分が思考をしている」という事実そのものに気づくのです。
実は私たちは、思考をしているけれども、それを自覚していないことが多いです。
「自分で思考しているのに、それを自覚していないことなんてあるの?」と思うかもしれませんが、実は誰でも当たり前にあります。
瞑想をやるとそれがよくわかります。瞑想する時は誰でも、「思考はしないようにしよう」と心掛けて始めると思います。
しかし、そう心掛けても、いつのまにか勝手に思考が始まります。「思考しよう」と意図しなくても、知らないうちに思考が始まってしまいます。その時、私たちはその思考に無自覚です。思考とはそういうものです。
この無自覚な思考を、意志の力で止めることはできません。自分が知らないうちに勝手に起きてしまう事を、自分で止めることなどできないからです。
だってそうですよね?
自分がハッキリと自覚していること、知っていることはコントロールできるかもしれませんが、自分がまったく自覚していないこと、知らないことは、コントロールしようがないのです。
その思考に対処する唯一の方法が、「思考に気づく」ことです。思考が起きたことを自覚するのです。
思考は、スタートした瞬間にはほとんど気づけません。知らないうちに始まり、続いていきます。その間、思考に気づいていないけど思考をしている、という状態になります。
「思考はしないぞ!」
「……」
「……」
「……」
「そういえば昨日、課長に仕事のミスを注意されたなぁ」(思考スタート)
「なんでミスしてしまったんだろう」
「前も同じようなミスをしてしまったんだよなぁ」
「オレに今の仕事は向いてないのかもなぁ」
「あれ? 思考していたぞ!」(思考に気づいた)
といった具合です。この時、最初の思考は「そういえば昨日、課長に仕事のミスを注意されたなぁ」ですが、その時点では思考していることを自覚できていません。さらに思考がいくつか続いて、「オレに今の仕事は向いてないのかもなぁ」の後に、初めて思考を自覚しています。
思考を自覚すると、思考と少し距離ができます。完全に思考に巻き込まれた状態から、思考を観察している状態になります。すると、その思考から降りることができるようになります。それが、思考に気づくことの最大の利点です。
「まったく思考をしない」なんてことは、まず無理です。それを最初から目指してしまうと、やってもやっても全然できず、挫折することになります。まずは思考に気づくことから始めましょう。
瞑想中、思考が自動的にスタートしてから、それに気づくまでにタイムラグがあります。最初は思考に気づくまでに、かなり時間がかかります。思考に気づかずに、思考がどんどん進んでいき、それが10分、20分と続いてしまうこともあります。この状態が、思考にとらわれている状態です。
しかし、瞑想の練習を積んでいくと、思考に気づくまでの時間が短くなっていきます。素早く思考に気づけるようになっていきます。すると、素早く思考から抜けられるようになります。気づくのが早ければ早いほど、早く抜けられます。思考が起きて10秒で気づけば、10秒で抜けられます。
まずは思考を止めるとか、思考をまったくしないことを目指すよりも、「思考に早めに気づく」ことを目指してみてください。
そして、思考に気づいた時に「思考してしまった!」と自分を責めたり、その思考を攻撃したり、無理やり抑え込もうとはしないようにしましょう。
もしそうすると、思考に気づいた瞬間に、嫌な気持ちになってしまいます。「思考に気づく=不快なこと」になってしまいます。すると、思考に気づくのが嫌になり、結局思考に気づけなくなります。そうなると、瞑想がますます難しくなります。
瞑想中は思考が何度も何度も出てきます。それに何度も何度も気づきます。一回一回の気づきで「あぁ、また思考してしまった」「自分はダメだなぁ」「なぜこんな思考が出てくるんだ」と怒ったり戦ったりしていると、とても気力が持ちません。一回一回の気づきは淡々と、軽やかに行うのがコツです。
歩きながら気づく「歩行瞑想」
瞑想というと、座って静かに行うもの、というイメージがあると思います。歩行瞑想はそのイメージと違って、歩きながら行う瞑想です。
座る瞑想だけだと、瞑想中は落ち着くけれど、瞑想が終わるとまた元に戻ってしまう、となりがちです。歩行瞑想は歩きながら行うため、日常生活に近い状態で瞑想することができます。そのため、日常生活でマインドフルな意識を保つことができるようになり、日常に瞑想の効果が波及しやすくなります。
また、歩きながら行うため、意識がボンヤリしたり、眠くなったりしにくいです。ハッキリとしたクリアな意識を保ちながら瞑想ができます。座るとどうしても寝てしまう、という場合は、歩行瞑想がおススメです。
歩行瞑想のやり方
①リラックスしてゆっくり歩きます。最初は家の中で行うのがいいでしょう。慣れてくれば外で行うこともできます。
家の中では広さに制限があり、まっすぐに長い距離を歩けないため、途中で曲がったり、同じ場所を行ったり来たりすることになりますが、それで問題ありません。
②ゆっくり歩きながら、右足が地面についたら右足の裏の感触を感じ、左足が地面についたら左足の裏の感触を感じます。右足、左足、右足、左足、と交互に足の感触を感じていきます。
そのうち何か考え事が浮かんできて、足から意識がそれます。そうしたら、その思考に気づき、慌てず、自分を責めず、足に意識を戻します。
思考が出てきても失敗ではありません。思考に気づいたら、思考を攻撃したり力ずくで抑え込もうとはせず、分析や評価もせず、続きを考えようともせず、慌てずに足の感覚に戻っていきます。
足の感覚をしっかり感じようとするあまり、息を止めたり、力んだりしてしまうかもしれませんが、息は止めずに、なるべく力まずに、楽に呼吸しながらリラックスして行いましょう。