
スタンフォード大学医学部精神科教授・西野精治さんによれば、冷え性対策の靴下や、家庭で使っている照明などが、実は「睡眠の質」に影響を与えていると語ります。書籍『スタンフォード大学西野教授が教える 間違いだらけの睡眠常識』より解説します。
※本稿は、西野精治著『スタンフォード大学西野教授が教える 間違いだらけの睡眠常識』(PHP研究所)の一部を再編集したものです
冷え性の人は靴下より足湯で
冷え性の人で、「足が冷たくて眠れないから」と靴下をはいて寝る人がいます。
これも要注意。じつは逆効果です。
足が冷たいというのは、冷えによって末梢血管が収縮している状態です。これ以上、熱を逃すまいとしているので、熱は放散されにくい。そのため深部体温が下がりにくい。眠りに入りやすい態勢が体内で整っていないのです。
靴下をはくことで足が温まっても、そのまま眠ろうとすると、靴下に熱放散が妨げられます。もともと熱放散しにくい体質であるうえに、さらに「靴下何枚重ね」のようなことをして、ますます熱放散しにくい状態にしてしまっていることになります。
こういうタイプの人は、足湯などで温め、血管を開いて熱放散しやすい状態にしてから、靴下をはかずに寝るほうがよく眠れるはずです。寝る前にふとんを温めておくのもいいでしょう。
そもそも冷え性の根本解決は、体質改善で普段から手足の血流量を増やすことです。マッサージをして血行をよくする、運動不足ぎみの人は身体を動かして代謝をよくするように心がけることが大切です。
日本の家庭の照明はまぶしすぎる?
アメリカの生活に慣れきっている私は、日本に帰ってくると、いろいろなところで「まぶしいなあ!」と感じます。
たとえば、レストラン。アメリカの飲食店は夜、非常に照明を暗くしているので、「日本の飲食店は夜でもなんと明るいのだろう」と思います。
ホテルの室内も、日本はかなり明るい。そもそも家庭の照明が、まったく違います。日本の家庭は、最近でこそ蛍光灯が減って、天井に取りつけるタイプのシーリングライトが増えたようですが、白色系の明かりを煌々と灯します。
アメリカでは、家庭の照明で天井直つけの白色系の蛍光灯やシーリングライトを使うことはほとんどありません。基本的に、オレンジ系の間接照明だけです。
なぜアメリカの家庭は、照明が暗めなのか。それは、家庭はくつろぎ、休息する場だという意識が強いこともあるでしょう。
欧米の白色人種の人たちは目の色素も薄いので、白色系の明かりをとてもまぶしく感じやすいということもあります。もちろん、オフィスや学校は明るい照明が用いられていますが、日本ほどは明るくありません。
何でもかんでもアメリカがいいというつもりはありませんが、睡眠の質という観点からいうと、日本は夜の照明が明るすぎます。夜は本来暗いもの―。抑えるところは抑えて、身体が"休息モード"に入りやすくなるような配慮をしたほうがいいでしょう。
調光できるようであれば、リビングの照明などは、夜にはオレンジ系の色味にする。あるいは、間接照明に切り替える。風呂場やトイレの照明も落とす。寝室のライトも暗くする。特にブルーライト系を避けて、暖色系にする。寝る前の環境を整えて、体内時計を勘違いさせないようにすることです。
よく、夜中にトイレに起きて、それから眠れなくなるという高齢者の方がいますが、途中で起きたときに、明るい照明がパッと目に入ることで、覚醒スイッチが入ってしまう可能性もあります。そうであれば、夜間にトイレへ行く際に光が直接目に入らないよう、足下を照らす照明にする。
夜の照明を変える工夫はいろいろできそうです。まぶしい照明は、朝にこそ浴びましょう。メリハリをくっきりつけると、体内時計はもっと調整されやすくなるはずです。
うたた寝も快眠タイムにしてしまう
くつろいでテレビを観ながら、いつのまにかソファでうたた寝。ハッと気がついたら、首をへんに曲げた姿勢のまま寝ていたため、寝ちがえてしまった。あるいは、エアコンの風を直接受けて、夏風邪を引いてしまった......。ありがちな話です。
うとうとしていつのまにか寝ていたというのは、ある種、心地よいものです。本当は、眠くなってから電気もテレビも消し、寝床に入ってきちんと寝るのがいちばんいいのですが、うたた寝しがちならば、仮眠の場としてのコンディションをよくすることも考えたほうがいいと思います。
ソファは、首を大きく曲げたり、脚を縮めたりという窮屈な姿勢ではなく、脚を伸ばして寝られるようなタイプのものにする。そもそもソファとは、座るだけでなく横たわってくつろぐためのものでもあります。いちばん眠いときに窮屈な姿勢で寝るのは、もったいない。それが、くつろげる自宅であればなおさらです。
ついでに枕代わりのクッションやブランケットも用意しておいて、どうせ寝るのであれば、質の高い睡眠にしたほうがいいではありませんか。
ごろ寝用マットとか、うたた寝枕といったものも、いまは種類もいろいろあります。そういう寝具グッズを用意するだけで、うたた寝の質も変わります。ブレインスリープでも携帯用の高反発枕を出しており、持ち運びしやすいのでうたた寝にもお勧めです。
短時間の仮眠であっても、寝る姿勢や環境を整えて、いい眠りにする。これも睡眠に対する意識改革のひとつです。
さらに、質の高い睡眠のために大切なのが、睡眠のトラブルを放置しないことです。睡眠中のことなので、本人には自覚症状があまりないこともありますが、家族の声に素直に耳を傾ける気持ちが必要です。
睡眠障害も、早期であれば生活習慣や環境によって改善できるケースは多いものです。進行すると、大きな病気につながるリスクがありますから、用心してください。