
なんとなく安心して話ができる雰囲気の人がいます。その人の性格もあるのかもしれませんが、実は「安心して話ができる雰囲気」はちょっとしたコツでつくることができるのです。
フリーアナウンサーの田中知子さんが実践してきた、「この人とはラクに話せる」「好感が持てる」と相手に思ってもらえる方法について解説します。4月から新年度、新しいスタートにこんなコミュニケーションの心得を加えてみては?
※本稿は『口下手さんでも大丈夫 本音を引き出す聞き方』(かんき出版)より一部を抜粋編集したものです。
自分が「動じない」を心がける
ラジオでゲストをお迎えすると「ラジオ出演が初めてです」という方がほとんど。
初めてラジオブースに入って、マイクに向かって、しかも生放送で――。緊張するのは当たり前。そんなゲストにとって異空間な環境でスムーズに番組を進めるには、やはり「どれだけゲストに安心してもらえるか」がものすごく大事です。
うれしいことに多くのゲストの方から「田中さんが相手だと安心して話せる」と言っていただきます。
「何を話しても全て受け止めてくれる包容力を感じる」
「こちらが緊張して話しているうちにこんがらがっても、全部『大丈夫、任せなさい』と受け止めてくれる」
とおっしゃられたんですね。
実は「動揺しない」ことを大事にして、心がけていたんです。たとえば、質問とまったく関係のない答えがゲストから返ってきたり、それまでの話と真逆の矛盾する話が出てきたり、ゲストの話が迷路に迷い込んで収拾がつかなくなったりしても、「動揺しない」「慌てない」「困らない」。
もし万が一「え、何、何、なんで急にその話?」「ん? 全然意味がわからない」と感じても、決して顔に出さない。それはプロとしての矜持でもあるのです。
ゲストに安心して話してもらうにはこちらが安定することです。
ラジオにある老舗印刷会社のK社長が出演してくれたことがありました。電話でのインタビューだったのですが、緊急事態発生! 電話インタビューなのに、社長、電話の充電が無いとのこと。社長が「今外にいて、充電はもう10パーセント切っているんだけど、本番に間に合うかな? もしかしたら、切れるかもしれないけどどうしよう」とおっしゃって、「えええ!?」と思うじゃないですか。
でも、「了解しました。大丈夫ですよ」と、あまり動じないようにしました。
K社長は近くの携帯ショップに駆け込み充電、10分くらいは電話インタビューできそうとなったのです。インタビューは事なきを得て、楽しく会話をして終わりました。
「何があっても大丈夫。何でも話して。ばっちこい」というこちらの姿勢が伝われば、それだけでも相手の不安や緊張は和らぎ、安心感が生まれてくるものです。
何があっても横綱相撲。相手がなんでもどうとでもどっしり構える。
「動じない」というのは受け手の動きも安定させます。髪の毛をいじったり、貧乏ゆすりしたり、紙をぺらぺらめくったりすると話し手は気になって集中できなくなるのでご注意を! 安心感を生むには聞くこちらが安定することです。
話し始めに「完璧ではない自分」を見せる
目の間にいる相手の素顔を引き出したい、関係性を深めたい、リラックスしてもらいたいとき、どんなことを意識していますか?
話し始めに「自己開示をする」こと、これはとてもおすすめです。
相手の話を聞くのになぜ自分の話? と思うかもしれませんが、これが相手が話しやすくなる空気づくりに役立つのです。と言っても自分の話をしすぎてはいけません。
あくまでも相手がリラックスして話しやすくするための下地づくり。
そしてそれは自慢話ではなく、「へぇ~意外! そんな一面もあるんですね」とか、「わかる。私も一緒」と思ってもらえるような意外性のあるものやクスっと笑顔になるもの、共感できるものがいいです。
私も初対面の方と話をするとき、自分のなかでちょっと恥ずかしいと思うことや隠したくなることを意識して先に伝えるようにしています。たとえば、
「毎日夕食つくるのって面倒なんです、よく娘とバーミヤンに行っていて、娘の好物はママの手づくり料理ではなくてバーミヤンなんですよ」
イケてる一面だけを見せようとしていても、どうしても自分の至らない点は見えてしまうもの。あえてそれを隠さず、むしろ意図的に見せて話す。自分の完璧ではない部分を見せてからスタートするのは効果的です。
そして自己開示といえば、緊張しているとき、黙っているのではなく「心の内を実況中継する」というのも効果的。緊張する相手と話すとき、ガチガチにこわばった顔で何も言わずにスタートしたら、「この人、大丈夫?」と心配されます。ですが、そういうときこそ自分の心の内をそのまま言葉にしてみましょう。
「お会いできたことはうれしいのですが、とても緊張しています。顔がこわばっているのはそのせいです」といったように。
頭が真っ白になって、言おうと思ったことが言えずにシーンとなってしまうより、「今、言おうと思ったことがあったんだけど思い出せなくて......」と今、心に思っていることを素直に言葉に出してください。相手は、さらけだして開示したことに好感を持ってくれるはず。
オープンな姿勢は好感度を高める
私はお会いした人に対し「隠すものは何もありません」というオープンな気持ちで接するようにしています。「全て全開でいく」なんです。
ちなみに人と話すときに腕組みをしたり、手でグーの形をつくっていると、あなたに心を開きませんという意思表示に見えるので要注意! 反対に手のひらを開いて相手に見せるようにしたり、相手との間にものを置かないようにしたりすると、心を開いていますという意思表示になります。
全ては相手と自分との間にふんわりした空気をつくりたい、安心して話してもらえるように、という空気づくり。
そして「聞きづらいことを先に伝えてくれる人」は、私はとても好感度が高いと感じています。ある知り合いの男性が、話し始める前に電話をしていて、何かあったのかと思ったら
「僕はシングルファーザーなんです。子どもから具合悪いっていう電話がかかってきていたんです。失礼しました」
とおっしゃいました。ただ
「子どもから電話がかかってきて、お待たせしてすみません」
より、グッとその人の状況や環境がわかり、親近感を感じたのです。先に自己開示してくれた効果です。
本題に入る前に「自分から自己開示する」。相手とのスムーズな会話づくりのためにぜひやってみてください。
「笑う」というリアクションをとる
「こんな話をしたら面白いんじゃないかなと思って言ってみた話が、思いの他ウケなかった......」ってちょっと寂しいですよね。相手に安心して話をしてもらうために聞き手のときは笑う基準を低く設定しています。そして声を出してケタケタ「よく笑う」。シンプルにこれだけで雰囲気がよくなります。
あるお客様にサービス精神旺盛のダジャレおじさんがいて、真面目な話をしているなかに、急にさむいオヤジギャグを入れてくる。ふとんがふっとんだ的なギャグ。唐突に入れてくるので「またいつものきたか」と慣れているまわりは誰一人笑わない。それでも私はケタケタ笑っちゃいます。
すると相手は「この人は絶対に笑ってくれる」とわかり、安心できるようになります。
それだけでなく、彼と私がゲラゲラ笑っているとみんな何だかおかしくなってくる。場の空気が和やかになるんです。たとえその話がそこまで面白いものでなくても、笑っていれば自然と楽しくなり、まわりの人も巻き込まれます。
大事なのは、相手のジョークが面白いかどうかを評価することではなく、そのジョークにちゃんと反応すること。
相手のエピソードやジョークに「笑う」という行為でリアクションをとる。簡単なことですが、これだけでも会話の弾み方はかなり違ってきます。
アメリカの哲学者で心理学者のウィリアム・ジェームズの名言に「楽しいから笑うのではない、笑うから楽しいのだ」という言葉があります。笑うとその声で、笑いの空気が伝わり、その場の雰囲気が明るくなります。
笑いにつられて笑ってしまう。笑顔で話して安心を与える。
「絶対にリアクションするから安心してください!」と聞き手がこの姿勢をみせることで、相手は安心して話を進めることができるのです。
【田中知子(たなかともこ)】
フリーアナウンサー。大相撲愛好家。コミュニケーション講師。株式会社ちゃんこえ代表取締役。通称「たなとも」。リクルート求人広告代理店営業から31歳でNHKキャスターに転身。NHK大相撲取材から学んだ独自メソッド「金星コミュニケーション」を講演しながら、「人と話すって楽しい!」「勇気を出して挑戦すると道が開ける!」を伝えることをミッションとして全国を飛び回っている。