
近年、社会で活躍する若い女性が増える一方で、彼女たちを静かに蝕むアルコール依存症の増加が懸念されています。男性とは異なる特有の背景が潜むという若年女性のアルコール依存症。その陰には、一体どのような要因があるのでしょうか?本稿では、酒ジャーナリストの葉石かおりさんの著書『なぜ酔っ払うと酒がうまいのか』より、その特徴的な実態と、私たちが知っておくべき重要なポイントを紹介します。
※本稿は、葉石かおり著『なぜ酔っ払うと酒がうまいのか』(日経BP)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
まずは話をじっくり聞く
飲酒する女性の増加に伴い、女性のアルコール依存症も案の定、増えているという。
女性とアルコールの問題に詳しい、琉球病院副院長の真栄里仁氏は、「女性のアルコール依存症は、女性ならではの注意点がある」と指摘する。
「現在、アルコール依存症で治療を受けている女性は増加傾向にあります。その原因を探ってみると、男性とは少々異なり、メンタル関連の疾患や家庭での問題を抱えている人が実に多いのです。摂食障害やうつ病、親やパートナーによるDV、虐待、夫との死別や子どもの自立など、原因は多岐にわたります。そのため、治療法も変わってきます」(真栄里氏)
アルコール依存症は、長期間にわたって酒を大量に飲み続けることによって、アルコールを飲まずにはいられなくなる状態に陥るのが一般的だ。女性の場合は、男性よりも患者の年齢が比較的若いのが特徴だという。また、配偶者の死や子どもの自立といったライフイベントがきっかけとなったり、摂食障害やうつ病といった別の疾患が大きく影響していたりすることもある。
それでは、女性の依存症の治療は、どのような特徴があるのだろうか。
「個人的な治療の経験からすると、アルコール依存症の治療において、女性の場合は、まず話をじっくりと聞く必要があると思います。話を聞いて、その方がいかに大変だったのかを受け止め、共感を示し、フィードバックを言葉できちんと返すことが大切なのです」(真栄里氏)
これを聞いて、深くうなずいてしまった。女性が何かを人に相談する際、良いとか悪いといったジャッジを求めているのではなく、じっくり話を聞いてもらいたいことが多い、とよく言われる。
そして、「大変だったね」と共感してもらうことで、往々にしてつらさが半減する。また、言葉できちんとフィードバックをしてもらうことも安心する要因の1つとなるのだろう。
自己効力感を向上させる
「女性でアルコール依存症に陥る方は、自責の念が強い、自己効力感が低い、自分を過小評価しがちといった特徴があります。このような特徴が顕著な方には、断酒や減酒に加え、自己効力感の向上や、『自分なんて生きていても仕方がない』といった認知の偏りを改善するためのアプローチも必要になってきます」(真栄里氏)
自己効力感とは、「自分は何かを達成できると信じられる力」のこと。真栄里氏がアルコール依存症の女性を治療する際には、本人が頑張っていることやできていることをまずは指摘し、「私はできるんだ」という感覚をつかんでもらうようにしているという。
しかし、聞けば聞くほど、酒好きの女性はさまざまなリスクに気を付けなければならないと思う。飲酒量を抑えること以外に、生活面で注意すべきことはあるのだろうか?
「心理的苦痛を抱えることによって、飲酒量が増える傾向のある方もいらっしゃいます。心理的苦痛を和らげるには、社会的なつながりを強化することが有効です。積極的に外に出れば、孤独感が和らぎ、お酒に頼ることも減ってきます。これがアルコールによる心身の害を予防する最良の策だと思っています」(真栄里氏)
孤独感は飲酒量を増やす。これは筆者自身もコロナ禍に身をもって知った。人、そして社会とのつながりを大切にしつつ、適正な飲酒量を守る。女性は男性よりもアルコールの影響を受けやすいからこそ、今よりもさらに飲み方に留意したほうが良さそうだ。