部下は仕事に満足している? 管理職がまず行うべき「チームの状態診断」
2025年05月09日 公開

部下の仕事への満足度や意欲の度合いは、チームの生産性を大きく左右します。もし、メンバーが本当に満足し、力を発揮できているのか疑問に感じた場合、リーダーは「チームの状態診断」を実施すること必要です。GoogleでYouTubeやGmailなどを急成長させ、オンライン決済のStripeでCOOを務めたクレア・ヒューズ・ジョンソン氏による書籍『スケーリング・ピープル』より解説します。
※本稿は、クレア・ヒューズ・ジョンソン著, 二木夢子(翻訳)『スケーリング・ピープル 人に寄り添い、チームを強くするマネジメント戦略』(日経BP)を一部抜粋・編集したものです。
チームの状態を診断する
一時的ではなく長期的なチームを編成し投資する必要があると決めたら、まず出発点を評価してみよう。必要なチームができただろうか。できていなければ、採用に動き出そう。だいたいはできているなら、チームの仕事ぶりを自問する。この問いにはいつも答えられなければならないが、特に新たなチームのマネジメントを始めるときは、現状の棚卸しを行い、必要な構造、計画、人材が揃っているかを評価することが重要だ。
設定したゴールを達成するため、メンバーを理解し、チームのダイナミクス(集団やチームとそのメンバーとの相互作用)を把握することも必要だ。
適切な人が適切な業務に就いているか。メンバーは自分の仕事に喜びを見いだし、意欲を持ち、満足しているか。互いにうまくやれているか。期日が守られているか。成果を測る指標に問題はなさそうか。もしあなたが「リーダーとしての職務をきちんと果たし、メンバー一人ひとりとチーム全体とがポジティブな影響を生み出せているか」と問われて、自信を持ってイエスと答えられないなら、原因を突き詰めよう。
チームの状態を評価するには、アンケートを取ってみることをお勧めする。チームリーダーか人事部門のパートナー、外部の取りまとめ役などが、通常のミーティングやオフサイトミーティング(普段の職場からあえて離れた場所で行うミーティング。以下オフサイト)の前にメンバーにアンケートを取り、チームをうまく機能させるために必要な基本要素や機能不全の兆候に目を配っておくといい。
パトリック・レンシオーニは著書『あなたのチームは、機能してますか?』(翔泳社、2003年)で、チームに立ちはだかる主な壁として、"信頼の欠如""衝突への恐怖""責任感の不足""説明責任の回避""結果への無関心"の5つを挙げている(※1)。
これらの機能不全がチームに見てとれるようなら、アンケートの回答についてチームと話し合いの場を設け、メンバー間の相互理解を形成して、問題にどう対処するかを決める。一連の過程はオフサイトの課題にぴったりだろう。
この診断が完了し、自らが変わることをチームが誓ったら、リーダーの仕事は新たな行動様式のモデルを示し、機能不全から機能する状態へ、さらに高度に機能する状態へと移行するプランをチームの責任で進めていくことになる。
個々の力の合計を超えて高度に機能するチームをつくるには、まずチーム全体で機能する状態に到達できるかを評価する必要がある。力が不足しているようなら、一人ひとりのメンバーに注目し、どこを変える必要があるかを見極める。
この評価の際に、わたしはエグゼクティブコーチとして実績のあるマックス・ランズバーグのチャートを好んで使っている。スキルと意欲を掛け合わせ、タスクをこなす力を評価するマトリックスだ(※2)。
ここでいう"スキル"は仕事をこなす能力、"意欲"は仕事をやり遂げる気持ちを指す。チームとメンバー個人がチャート内のどこに位置するかをつかんでおくと、チームが軌道に乗らない場合にマネジャーとしてどこを変えなければいけないかがわかる。
スキルと意欲のチャートは4つの枠に分かれる。どう読み取ればいいかを見ていこう。
スキル
■低すぎる場合
・チームが求められている仕事をこなせない
・対処法:現行のメンバーに助言や指導、研修をする。それでも不十分または効果がない場合は、スキルを持つ人材を新たに迎える
■高すぎる場合
・チームのモチベーションが失われる
・対処法:チームのミッションとゴールを見直し、質・量ともより高いレベルのアウトプットを求める
意欲
■低すぎる場合
・生産性の低いチームになる
・対処法:チームの目指すところを"会社のための教育プラットフォームの構築"から"自社とユーザーのための教育プラットフォームの構築"に広げるなど、意欲的なミッションを掲げてチームを鼓舞する道を探り、やる気を持って動き出すかを見る。言いにくいことはオフサイトのような機会を利用し、現在うまく機能できていないように思うと伝える。最後に、全体の士気を下げているメンバーがいないかを確認し、該当する人がいれば話をするか、メンバーの構成を変えるなどする
■高すぎる場合
・チームは実力以上の仕事を請け合い、期待される成果を出せない
・対処法:チームに期待される内容を定義し、チームが業務を請け負う相手にそれを説明することで、仕事の優先順位づけと見通しの確保を促す。現行の人材がチームのゴールに見合っているかを検証し、合っていない場合はチームの能力やキャパシティを強化する
事業によって、左下の"スキル、意欲ともに低い"カテゴリーに入ってしまう職種もあるかもしれない。高成長中の会社は人員的に余裕がないため、そもそも左下のような人を望まない。
右下の"スキルは低いが意欲は高い"は、キャリアの浅い人や他の職種から移ってきたばかりの人にはよく見られる。こうした社員への投資は大いに価値があるし、彼らの育成をチーム内の別の人に委ねて自身の成長の機会にしてもらうとなおよい。意欲に見合うスキルが上がっているかを測るチェックポイントを設けること。
右上の"スキル、意欲ともに高い"は、基本的に管理職にとっての理想だ。ゴールは、チーム全員に仕事を任せられるだけの力をつけてもらって、マネジャーとしての"仕事がなくなる状態に到達する"ことだ(わたしの好きな個人的ゴールがこれだ)。
対する最後の左上"スキルは高いが意欲が低い"は最も難しいケースかもしれない。マネジャーの仕事は、意欲の不足や喪失の原因を突き詰めることだ。最近始まったのか、一時的なのか、長期的に続きそうなのか? 該当するメンバーが私生活で何か問題を抱えていないか、あるいは別の役割か別のチームに移ったほうがいいのかなどを判断する。
※1: Patrick Lencioni, The Five Dysfunctions of a Team: A Leadership Fable(San Francisco:Jossey-Bass, 2012).(旧版翻訳『あなたのチームは、機能してますか?』翔泳社、2003年)
※2: Max Landsberg, The Tools of Leadership: Vision, Inspiration, Momentum(London:Profile Books, 2011), 51-55.(旧版翻訳『駆け出しマネジャーアレックス リーダーシップを学ぶ』ダイヤモンド社、2004年)