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「お金」に振りまわされない生き方とは? 投資をすることで得られるもの

枡野俊明(曹洞宗徳雄山建功寺住職)

2025年06月06日 公開

「お金」に振りまわされない生き方とは? 投資をすることで得られるもの

私たちは日々、何かを「し過ぎる」ことで、知らず知らずのうちに心をすり減らしています。

心配し過ぎる、気をつかい過ぎる、怒り過ぎる、期待し過ぎる、我慢し過ぎる、働き過ぎる、調子に乗り過ぎる──。

本稿では「し過ぎない」ことのうち、特に「お金」にまつわることに焦点を当て、適度なバランスを見つけるヒントを曹洞宗徳雄山建功寺住職の枡野俊明氏に解説して頂きます。

※本稿は枡野俊明著『「し過ぎない」練習』(クロスメディア・パブリッシング)より一部を抜粋編集したものです。

 

「お金」にまつわること

本稿では、多くの人の代表的な悩みである「お金」にまつわるお話を中心にしていきます。

お金は、私たちが生きていくうえで必要不可欠です。衣食住を整え、教育や医療を受けるためにはお金がなくては成り立ちません。ある程度の蓄えがあることで心にも余裕が生まれます。そのため、「お金を儲けたい」「得をしたい」という感情は自然なものです。しかし、もっともっと儲けようとする姿勢には慎重であるべきです。

禅の教えでは、こんなたとえ話があります。あるところに2人の牛飼いが暮らしていました。1人は99頭の牛を飼っている裕福な牛飼いです。もう1人は3頭しか飼っていない貧困な牛飼いです。裕福な牛飼いは生活に困ってはいませんが、「あと1頭いれば100頭になるのに」といつも心苦しく思っていました。

いっぽうの貧困な牛飼いは、3頭しかいないけれど、それで家族を養い、心穏やかに暮らしています。

裕福な牛飼いは、貧困な牛飼いに「もう1頭で100頭になるのにとくやしくてたまらないので、おまえの1頭を譲ってほしい」と懇願しました。貧困な牛飼いは、そんなに苦しいならと1頭を譲り、2頭になっても工夫して穏やかな生活を送りました。

いっぽう、100頭になった牛飼いは、その満足もそこそこに一日も早く105頭にしたいと、また思い悩む日々を送りました。

お釈迦さまが亡くなる直前に説いた『遺教経(ゆいきょうぎょう)』に「知足(ちそく)=足るを知る」という教えがあります。「今の自分に与えられたものに満足することを知る」という意味です。

欲望は限りないものです。どこかで満足することを覚えない限り、心が休まることはありません。たとえば月収が増えると「次はもっと欲しい」と考えがちです。心が「これで十分だ」と感じなければ、どれだけ月収が増えても常に次の目標を追い求めることになります。

モノも一緒です。家庭に必要なものが揃っていれば、それ以上を求めるのではなく、感謝して今の状態を受け入れるのです。もっと大きな家や高級車を手に入れることより、日々の穏やかな時間を楽しむことが「足るを知る」生き方です。

 

お金儲けは手段に過ぎない

私たちが何かをするとき、そこには「目的」と「手段」があります。目的とは本当に達成したいこと、手段とはその目的を達成するための方法です。

たとえば、「家族と幸せに暮らすこと」が目的だとします。そのためには、家を建てたり、教育のためにお金が必要です。お金を儲けることは、生きるための手段であり、最終的な目的ではありません。

しかし、お金を稼ぐことに夢中になるあまり、家族との時間を犠牲にしてしまうと、本来の目的だった「家族と幸せに暮らすこと」が達成されず、孤独を感じるようになってしまうでしょう。

手段であるお金が目的化してしまった結果です。

あるいは、旅行を楽しむことが目的だったとしましょう。旅行に行くためには、交通費や宿泊費が必要です。そのためにお金を貯めることは大切です。

しかし、お金を貯めることばかりに集中して、旅行に行くタイミングを逃してしまっては元も子もありません。

「もっと貯まったら」「もっと余裕ができたら」と考えているうちに、本来の目的だった旅行を楽しむことが実現できなくなるのです。

お金が手段であることを忘れ、目的化してしまうと、お金を優先するあまり他者を犠牲にして信頼を損なう可能性があります。人間関係が悪化するということです。

また、自分自身も心の余裕を失います。いくら稼いでも「もっと稼ぎたい」「まだ足りない」と感じるようになり、心が疲れてしまいます。

目的を見失わないためには、「そのお金を使って何をしたいのか」を常に意識しましょう。家族とゆったり過ごすため、趣味を楽しむため、あるいは社会貢献をするためなど、目的を明確にするとお金に振りまわされなくなります。

 

投資を通じて得られるもの

2023年、政府が重要政策として"資産運用立国"をスローガンに掲げ、2024年から新NISA(少額投資非課税制度)が始まりました。「お金は貯めるものではありません。投資によって増やしていくものですよ」と、政府が投資を奨励しているのです。

株式や為替の取引で1億円を超える資産を築いた個人投資家を"億り人"と呼ぶそうです。まさに、お金のために働く時代から、お金に働いてもらう時代になったようです。しかし前述のとおり、お金を儲けることが目的になっては、お金に振りまわされることになります。

投資をすることで得られるものは何か──。それがわかれば、自分の人生の主役は、お金ではなく、あなた自身であることがわかります。

投資を通じて、じつは金銭的利益以上のものが得られます。たとえば経済や社会の動向にくわしくなり、自分の視野が広がります。そうすると、無計画な浪費を回避できます。リスクの高い投機的な行動を避け、適切に資産を運用することで、将来への不安が減り、精神の安定が得られます。

自身の利益を追求するだけでなく、環境に配慮した企業へ投資することで、社会に貢献することもできます。

こうした視点を持つことで、投資は単なるお金儲けの手段から、豊かな人生を築くための力強いツールへ変わります。

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