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「カスハラをする人」の共通点 アンガーマネジメントの第一人者が分析する心理

安藤俊介(一般社団法人日本アンガーマネジメント協会 ファウンダー)

2025年07月10日 公開

「カスハラをする人」の共通点 アンガーマネジメントの第一人者が分析する心理

6月6日に、『接客・サービス業のためのアンガーマネジメント』出版記念トークショーがオンラインにて行われた。

本書は、飲食店やアパレル、宿泊施設をはじめとする対顧客業務を伴う業界において、看過できない問題として顕在化するカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)をテーマにした内容だ。

この出版記念トークショーでは著者の安藤俊介氏と担当編集者が、本企画のきっかけ、書籍では書ききれなかったこと、本として書くには過激すぎたこと、また昨今の最新のカスハラ対策の動きなど多岐に渡り意見を交わした。

 

社会的課題としてのカスハラ...従業員を守る意識の高まり

安藤氏は、本書を通して「カスハラから自分を守る術を身につけてほしい」とメッセージを発信した。それは、法律的な知識を身につけることでもいいし、本書に収録したケースから具体的な対応を知ることでもいいという。

大切なのは、いざというときNOと言えるか。NOと言えるには、「カスハラの境界線はどこか」を知っておくことが一番の近道だそうだ。

同氏は2018年に厚生労働省が設置した「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」の委員を務めてた。主要な議論はパワハラであったものの、安藤氏はその根底にカスハラが潜在的な問題として存在しうる危機感を抱いていたという。

「お客さんがいるから商売がある、商売があるからお客さんがいる。本当は対等な立場のはずなのに、過剰なサービスが関係性をゆがませてしまっているのではないか」

と安藤氏は述べ、現在の顧客と事業者の関係性への警鐘を鳴らした。

その後、社会全体のカスハラに対する認識は急速に高まり、厚生労働省は2022年に「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を策定した。

パワーハラスメント対策法制化に20年を要したのに対し、カスハラが言葉として広まってからわずか2年でマニュアルが作成された事実に触れ、社会全体でカスハラを看過してはならないという意識が劇的に高まっていることを実感したという。

 

なぜ「現場任せ」になるのか

本来、「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」に基づき、企業側が従業員を保護するためのガイドラインを策定し、それを徹底するのが望ましいだろう。

しかし、実際には明確な線引きをすることができないのがカスハラなのだ。

安藤氏は本書において、「カスハラは気持ちの問題である。気持ちというものは見えないものなので、こちらが否定することはできない」と述べ、カスハラの本質的な難しさに言及している。

この特性により、カスハラへの対応は現場に委ねられることが多く、その結果、従業員や管理者が精神的な負担を抱え、心を痛めている現状が浮き彫りになっているのだ。

見えない「気持ち」に対し、どのように「NO」を突きつければよいのか。

安藤氏は繰り返し「自分を守ってほしい」と訴えかけた。

「サービスを提供する前に、一人の人間であることを忘れないでください。生活のための人生ではなく、人生があっての生活。生活のために『この場をなんとかしないと』と無理をしないでほしいですね」

カスハラを我慢して傷つく必要はないということを読者に伝えたいと、同氏は強く語った。

 

問題回避ではなく問題解決を

トークショーでは、安藤氏が執筆期間中に頻繁に利用した場所に関するエピソードが初めて明かされた。

「執筆中、ずっとゴルフ場の受付を観察していました。ゴルフ場って、カスハラの温床なんですよ。世の中のおじさんはこんなにカスハラするか~と見ていて恥ずかしくなりましたね」

さらに、カスハラの主体が50~70代の男性が大半を占めるという調査結果に触れ、「あと20年もすればカスハラはなくなるのかな、と思っている」と推測する。カスハラは永遠の課題なのか、あるいは過去の遺産なのか。20年後の社会でその答えが明らかになるだろうと、安藤氏は展望を語った。

ゴルフ場で目撃したクレーム対応の事例から、安藤氏はその場しのぎの対応で事態を収拾しようとしてしまうケースを何度も見たという。

「そのような対応は、一時的には収まるかもしれませんが、禍根を残し、再発を招く可能性があります。これは、フォードの言葉『人間のほとんどの時間は、問題解決ではなく問題回避に使っている』、まさにそのものでした」

と、目先の問題回避ではなく、根本的な問題解決の重要性を強調していた。

 

カスハラをする人の心理がわかれば楽になる?

後半では、書籍に込めたメッセージを伝えるため、どのような工夫を凝らしたかについて語り、本書の特徴についても言及した。

「人は役割がなくなると、社会と関わりたいと行動を起こすんです。その思いが屈折するとカスハラになり得ます。たとえば『居座り』はまさにその典型的な例ですね」

本書でも取り上げている「居座り」行為とは、不必要に店に長時間滞在するという惑行為を指す。彼らのことを安藤氏は本著で「こういう人は孤独で寂しいので、誰かと関わりを持ちたくて長時間の居座りをします」と表現している。

カスハラをしていると言われている大部分の人を「会社で役割を終えた人」という視点で捉えることで、見え方が変わってくる。

彼らが新たな「役割」を求め、カスハラを通じて他者との関わりを築こうとしているとしたら......?
その被害を受ける人はいい迷惑だが、単にカスハラに怯えていた以前と比較して、心理的な負担が軽減される可能性もあるかもしれない。

安藤氏はずばり「これは私の持論ですが、家庭がうまくいっている人はパワハラしない、幸せな人はカスハラしないんです。つまり、これがすべてを物語っていると思いますね」と語り、カスハラの根源にある心理的な側面を指摘した。

 

あなたの「お守り」になる一冊に

担当編集者は、本書の工夫として安藤氏の率直な物言いを最大限に活かしたという。

「アンガーマネージメントの第一人者であり、カスハラにも精通している安藤先生が分析した結果であれば、言い切りでストレートに書きましょう、とお願いをしました」

冒頭でも述べられたように、カスハラがなかなかなくならない理由の一つに、被害を受けた側がつい「お客様だから」と我慢している現状がある。

そこで本書では「あなたが犠牲になる必要はない」と応援する気持ちを込めて、毅然とした態度が取れるよう対応の提案では曖昧な表現を避け、カスハラに遭ったときにも即座に思い出せるようシンプルな表現を心がけたという。

さらに、すでにカスハラ被害に遭ってしまった方々に向けて、メンタルケアに関する章を設けるなど、実践的なサポートにも配慮している。

「カスハラのせいで職場が怖い場所、行きたくない場所になってほしくはありません。安藤先生の思いが伝わるように、何度も読み返してもらえる『お守り』のような存在にこの本がなればいいなと願っています」

本イベントでは、その他にも私たちが持っておきたいカスハラに対処する際の心構えや、カスハラに関するデータを「不都合な真実」として講演先から削除依頼を受けた話などが展開された。ここでしか聞けない話に、平日の日中にもかかわらず多くの視聴者が集まった。

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