メンバーへのアプローチをほんの少し誤っただけで、すぐにハラスメント疑惑となっていく、チームリーダー受難の時代。
いまリーダーに求められているのは、腰の引けた甘い「やさしさ」ではなく、"適度な距離感"を保つことのできる「覚悟と愛情」ではないでしょうか。
生命保険業界において、トップクラスの営業組織を築き上げ、30年以上の長きにわたりマネジメント教育の最前線に立ち続ける早川勝さんに、その実体験に基づいたリーダーとしてのあるべき姿、「決断する覚悟」について解説して頂く。
※本稿は、早川勝著『覚悟を決めたリーダーに人はついてくる』(日経BP)を一部抜粋・編集したものです。
決断こそが、明日への希望
リーダーのもっとも重要な仕事は何かと問われたら、「決断すること」だと答えたい。
「決断できない」リーダーは、優柔不断で頼りない。というか、決断しないのは何もしていないのと同じこと。それではチームが前進していかないからだ。
意思決定できない愚鈍なボンクラ・リーダーというレッテルを貼られるのは致命的だろう。「この先、チームはどうなっていくんだろう」と不安を抱えているのはチームメンバーである。
たとえば仮に、会議がどんなに長くなろうとも、リーダーが最終的にスカッと納得いく結論を出してくれるのなら、長時間に感じないものだ。「これでいこう!」というリーダーの自信満々な意思決定と明快なメッセージがあれば、チームメンバーは「これならいける!」と元気になれる。そこに「希望」を感じるからである。
ではあなたに問いたい。ある問題を解決するために、チームメンバー全員が集まり、会議を開いたとしよう。チームの将来を左右するかもしれない重要な議題だ。
戦術は2つ。Aプラン、Bプラン、どちらも一長一短で、メリットもデメリットもある。
チームメンバーそれぞれの意見を聞いていると、どちらも甲乙つけがたい。
さて、あなたがリーダーなら、最終的にどんな方法で1つのプランに決定するだろうか。
難しい問題はかんたんには決められないから、後日へ「先送り」するのか。
いや、ちょっと待ってほしい。そんなことをしていたら、いつまで経っても問題は解決しない。いまの時代に求められているのはスピードだ。
チームメンバーからすれば、「またリーダーは決めてくれなかった」という不満が膨らんでしまう。
そこで、すぐに結論を出したいリーダーは、「多数決で決めよう!」と言い放つ。
たしかに、多くのリーダーが好む「合議制」は、意思決定手段の一つではある。
合議したうえでの多数決であれば、民主主義の精神に則っているし、メンバーの意見を尊重しているようで、いっけん、正しい決め方をしているリーダーにも見える。
だが、これは最悪だ。「決断=責任」をメンバーに委ねてほしくはない。
仮に、多数決で決めたそのAプランが失敗したそのとき、いったいリーダーは心の中で、どう感じるのだろうか。
「俺が押しつけたんじゃないぞ! みんなが自分たちで決めたことじゃないか! 何でこんなことになったんだ!」とチームメンバーに"責任の半分"を押しつけるのではないのか。
じつはこのセリフ、私の元上司の執行役員が得意な駆け引きだった。私はいつも心の中で「それは、ずるい。あんたは、せこい」と思っていた。
あなたは、そんな言い逃れは口に出さないだろうが、多数決で決めたことだ。リーダーである自分が決めたわけではないから、精神的な負担は少なくて済む。
もちろん、リーダーである限り責任はあるのだが「全責任はない」と主張することができる。何割かの責任をメンバーに背負わせているからだ。
もしかすると結局、"全責任"を背負うことが恐くて、結論を自分で出すことから逃げているのではないのか。これでは、「器の小さな、決められないリーダー」と、陰口を叩かれても仕方がない。
やはり、意見が出尽くしたときこそ、リーダーの出番だ。リーダー自身が腹をくくって決める勇気を見せてほしい。独断で決める覚悟である。
たとえ99人が反対したとしても、1人のリーダーが押しきって決めたい。
その独断がメンバーの反発を生むか生まないかの境目は、リーダー自身がそれを「信じているか」にかかっている。その結論を信じる力が「説得力」を生むのだ。
だからまずメンバーを説得する前に、しっかりと「自分自身を説得」してかかることである。
そして最後の最後は、根拠を示した「熱い大演説」をぶちかましてほしい。
いったん方針が決まって「なるほど」と腑に落ちた瞬間、メンバーはいっせいに目的に向かって動き出す。
現場での細かな指針はメンバーに委ねられ、あなたの方針・戦略に従い進んでいく。その推進力が、不可能と思えた独断でさえ、可能に変えてしまうこともあるのだ。
チームの問題は山積している。フラフラ迷っている暇はない。
大事なのは、スピードある意思決定力なのである。







