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「退職者は絶対に出したくない」というリーダーの本音がもたらす悪影響とは

早川勝

2025年07月22日 公開

「退職者は絶対に出したくない」というリーダーの本音がもたらす悪影響とは

メンバーへのアプローチをほんの少し誤っただけで、すぐにハラスメント疑惑となっていく、チームリーダー受難の時代。
いまリーダーに求められているのは、腰の引けた甘い「やさしさ」ではなく、"適度な距離感"を保つことのできる「覚悟と愛情」ではないでしょうか。

生命保険業界において、トップクラスの営業組織を築き上げ、30年以上の長きにわたりマネジメント教育の最前線に立ち続ける早川勝さんに、その実体験に基づいたリーダーとしてのあるべき姿、「メンバーの退職を恐れない覚悟」について解説して頂く。

※本稿は、早川勝著『覚悟を決めたリーダーに人はついてくる』(日経BP)を一部抜粋・編集したものです。

 

お互いに後悔しない「師弟関係」

「退職させてください...」と突然、そんな申し出を突きつけられる。
何年かリーダーをやっていれば、誰でも一度や二度は経験することだ。

そのとき、「ああ、やっぱりな...」となる想定していたアウトローもいれば、「えっ、まさかお前が...」となる思いも寄らなかった側近中の側近もいる。内心、辞めてくれて助かったという落ちこぼれの問題児もいれば、逆に、いなくなったら困る出世頭のエースもいる。

そのなかには、残念ながら説得が失敗に終わり、転職していくドライなアントレプレナーもいたかと思えば、嬉しいことに引き留めに成功し、FA残留する律儀な盟友もいる。

どちらにせよ、それらの攻防はまさにストレスフルであり、日常の業務に忙殺されているリーダーにとっては、もっとも起きてほしくない"大事件"となる。
そうして退職する仲間が出るたび、残されたメンバーは動揺をきたす。当然、チームの士気にも影を落としていく。

たいていの辞めていくメンバーは、「あっち(こっち)の水はいかに甘いのか」という退職の正当性を仲間たちへ触れ回るものだ。人材が減る以上の、さらなるマイナス要因があることは否めない。
また、人事上の管理責任も問われ、査定評価が減点される場合もあるだろう。

よって、「退職者は絶対に出したくない」というのがリーダーの本音である。さすれば、ときにこの感情がリーダーの意思決定を誤った方向へと導いてしまう。
そう、まるで腫れ物に触るかのごとく、メンバーと接するようになるためだ。

たとえば...、遠慮しすぎて踏み込んだ指導ができなくなる。たび重なる遅刻や素行不良も黙認する。やりたい仕事だけを与える。自分本位でわがままな要望も受け入れる。ボーナス評価を甘く加点する。時期尚早だが昇給・昇格させる。というように、できるだけ退職しないようしないよう、緩いマネジメントへと成り下がっていくのだ。

こうなるとチームはもはや統制が効かない。退職を恐れるリーダーの"もろさ"が、今度は退職を考えていなかったまともなメンバーまでも、退職したい気持ちにさせていく。
なんとも、かえって退職者を増やすことになってしまうとは...。

よって、ますます士気は下がるばかり。生産性の低いチームへと荒廃していくまでに、大した時間は要しないだろう。やがては、バラバラとなって崩壊の一途をたどる。

逆にむしろ、「たとえ退職したってかまわない」という強い気持ちで厳しく接するほど、退職していくメンバーは激減する。その事実と直面すべきだろう。

たとえ、厳しい指導が仇となり、メンバーがリタイアすることになってしまったとしても、それがリーダーの信念に基づく正しい指導であったのなら、ついに「そのときがやってきた」のだと割りきってしまえばいいのだ。

けっしてそれはふるいにかけた「淘汰」ではなく、貴重な体験や学びを積み重ねたうえでの「卒業」になる。そう、"師範"であるあなたの「道場」を卒業していったのだ、と思えばいい。リーダーとメンバーの関係性とは、そんな「師弟関係」であるべきだ。

そうなるには、役職という立場を超越した圧倒的な力の差がなければ、真の師弟関係は成り立たない。単なる上下関係だけの絆では、浅薄すぎるのである。
私のチームから卒業していったメンバーの多くは、去り際にこんなことを言ってくれた。

「早川支社長(部長)と一緒に働けて、本当にいい勉強をさせてもらい、成長することができました。この経験を必ず次の仕事に活かします。退職することは残念ですが、この会社に入社したことに悔いはありません」

ありがたいことに、この「悔いはない」というメンバーの言葉を聞くことができるたびに、私は救われた思いになった。
「これでいいのだ」と。 

悲しいのは、最後に「だまされた、こんな会社に入るんじゃなかった」「時間を無駄にした。学ぶことなんて何一つなかった」という、後悔の言葉を聞くことだ。
場合によっては、逆恨みされることもあるだろうし、指導不足だったと猛省することもあるかもしれない。

しかし、それらの失敗を糧にしながらも、最後の最後までメンバーを見捨てることなく、本気で鍛え抜くことだ。間違っても、飼い殺しのようなことがあってはならない。

メンバーの退職を心配する暇があったら、彼らが「卒業」したのちも光り輝くよう、いま、徹底的に磨き上げてほしいものである。

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