「あきらめる」と「挫折」は違う 50年続くお好み焼き店“千房”創業者を支えた哲学
2025年07月17日 公開
うまくいかないときも、いい状態のときも、自分がやるべきことをやるのが肝要です。お好み焼き専門店「千房」の代表取締役会長・中井政嗣さんが大切にしている考えとは。(取材・文:鈴木敦子)
※本稿は、月刊誌『PHP』2024年7月号より内容を抜粋・編集したものです
うまくいっているときは外部要因のおかげ
私は28歳のときに大阪の千日前にお好み焼きの店、「千房」の一号店を出しました。当時はオイルショックの真っただ中。間もなく事業に行きづまった私は、義理の父に泣き言を漏らしました。
大きな借金を背負い、「もうやめようと思う」と言う私に、義父は「やることやってあかんかったら、田んぼを売ってでも応援したる。けど、ほんまに命がけでやったんか?」と問うたのです。
その言葉にハッとした私は、当時のやり方を見直しました。店にお客さまが来ないのはすべて自分のせいという前提で、「どうすればお客さまが来てくれるのか。来てくれたお客さまをどうやって満足させるのか。再び来てもらうにはどうしたらいいか」をひたすら考え、実行していきました。すると景気に関係なく、お客さまがどんどん来てくれるようになったのです。
うまくいっているときは外部要因のおかげ、うまくいかないときは内部に問題がある。そう思うぐらいが、ちょうどいいのです。
私はこれまで幾度となく「商売がうまくいかない」という人の相談を受けてきました。彼らに共通するのは、うまくいかない状態が永遠に続くと思っていることです。
「禍福は糾える縄の如し」と言うように、私は「いいことも悪いことも永遠には続かない」と思っています。「悪いことばかりが続くわけがない」と思えば「少しでもいい未来にしよう」と希望を持ってがんばれるし、逆にいい状態が続いているときには「悪いことが起こる前に、今できることをやっておこう」と、「うまくいかない状態」に備えることができます。
なかには「がんばっているのに全然うまくいかない」と思う人もいるでしょう。しかし、本当にそうでしょうか。オイルショックという、一見自分ではどうしようもないと思うような事態でも、原因を内部から見出し一つひとつ対処していくことで、苦境を脱することはできるのです。
極めてもだめなら、あきらめる
そうは言っても、がんばることをつらいと感じる人もいるかもしれません。私も昔はそうでした。しかしあるできごとをきっかけに、がんばることが苦にならなくなりました。
千房を創業する前に市場で働いていたころ、先輩に「ここで働く全員が将来独立したいと思っている。でも実際に独立できるのは10人に1人。そのうち成功するのは1割だろう」と言われたのです。つまり商売で成功できるのは100人に1人ということです。
それからは怠けている人を見ると「この人のおかげで、自分が成功できるんや」と思うようになりました。それまでは呑気に遊んでいる若者たちがうらやましく、「なぜ自分だけがこんなに苦労しなければいけないのか」と思っていたのに、がんばることが楽しくてしょうがなくなったんです。
もちろん仕事をしていれば、苦しいことやつらいこともあります。しかし困難があるから、仕事は楽しい。何事も、ずっと平坦で何も起こらないような状態では、やりがいは感じられないのではないでしょうか。
しかし、がんばっていても、あきらめそうになるときがあるかもしれません。時には「人との別れ」など、あきらめることでしかやり過ごせないこともあります。
あきらめるという言葉は、「あきら」かにする、が語源です。そして、きわ「める」ことなのではないかと私は思っています。
やることをやり尽くしたうえでどうしようもないのなら、すっぱりとあきらめてもいいんです。ただし「明らかにせず、極めもせず」にやめるのは、単なる「挫折」。あきらめる前に、本気でやったのか自問してみてください。
人に手を差し伸べられる存在になる
千房では、16年前から元受刑者の就労支援を始めました。罪を償った人に対する世間の偏見を少しでも減らしたいという思いで始め、これまでに60名以上の元受刑者を雇用してきました。
なかには、裏切って辞めた者、また罪を犯してしまった者、夜逃げした者もいました。そのたびに心が折れそうになりますが、雇用した元受刑者には、千房の立派な社員の一人としてまじめに働いている人もいる。
その人たちのことを考えると、前向きになれるんです。働き続けられる環境をつくるため、時には出所直後の元受刑者に、「本当に困ったときは遠慮せずに電話してきなさい」と、私の携帯番号を教えることもあります。
この歳になって実感するのは、いい行ないを「天に貯金」すれば、いずれは自分に返ってくるということ。「自分だけがよければいい。儲けるためには何をしてもいい」という人は、どんなに商才があっても大成はしません。
50年前、義父が「田んぼを売ってでも」と言ってくれたおかげで、今の私があります。いざというとき、手を差し伸べてくれる人がいる。そういう人の存在が、原動力になったのです。
ですから私も、自社の従業員をはじめ、更生しようとする元受刑者、私を頼ってくれる人たちに手を差し伸べたい。そういったことは積み重なって、いつか自分に返ってくると信じています。
【中井政嗣(なかい・まさつぐ)】
1945年、奈良県生まれ。中学卒業と同時に乾物屋に丁稚奉公に出る。’73年、大阪ミナミ千日前にお好み焼き専門店「千房」を開店。2018年に代表取締役会長となり、現在は社会教育家としても活動する。
![月刊PHP 2024年 7月号 [心を、整える。]](/userfiles/images/book2/B00L286WUQ.jpg)







