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見栄で再雇用の誘いを断ってしまった...“定年後の働き方”の正解とは?

保坂隆(精神科医)

2025年09月05日 公開

見栄で再雇用の誘いを断ってしまった...“定年後の働き方”の正解とは?

定年後の人生をどのように生きるか。人生100年時代といわれる昨今、60歳以降の働き方に注目が集まっています。

精神科医の保坂隆さんは、嘱託や長期パート扱いでも働き続けることが大切だと話します。保坂さんの著書『精神科医が教える 定年から元気になる「老後の暮らし方」』より解説します。

※本稿は、保坂隆著『精神科医が教える 定年から元気になる「老後の暮らし方」』(PHP文庫)より内容を一部抜粋・編集したものです

 

見栄をはって「自社の再雇用」をあっさり断ってしまった

現役時代、定年を迎えた人が「継続雇用制度」で嘱託や長期パート扱いというかたちで残っているのを見ると、「仕事にしがみついているみたいでカッコ悪いと思っていた」という人がいます。

Nさんは、ある信用金庫の融資担当でした。とくに、融資を依頼してきた取引先に「どのくらいの資金なら融資してよいか?」という枠を決める仕事に関しては、支店で誰もが一目置く優秀な腕を持っていました。

勤務先でも、Nさんの目利きと腕を大いに買っていて、定年が近づいたころ、「後進が育つまで、もう少し勤務してもらえないか。そして後続のスタッフの育成にあたってほしい」と依頼されたのです。

その申し出に、Nさんもグラリと心が傾いたのですが、待遇は格段に落ちるのと、定年後も勤務先にしがみついているなんてカッコ悪いという思いがあって、「いやあ、私なんかもう『戦力外通告』ですよ。老兵は消え去るのみ」と、あっさり断ってしまったのです。

このとき心の奥底では、一回断ってもさらに頼まれるだろうから、その段階で引き受けるほうがカッコいい、という見栄もあったそうです。

ところが案に相違して、職場の信用金庫はすぐに他の支店にいた人間を回してもらい、後継者とすることを決めたのでした。

ところが皮肉なことに、仕事の引き継ぎをしているうちに「オレは本当に仕事を辞めるのだ......」という実感が身に沁みてきました。すると猛然と、まだまだ仕事を続けたいという思いが湧いてきました。

ついに思い切って上司に「できれば、もう少し、勤めさせていただきたいのですが......」と翻意を願い出たのですが、時すでに遅し。その希望は受け入れてもらえませんでした。

当然でしょう。再雇用をキッパリ断ったのはNさんのほうです。今さら仕事を続けたいと言われても、すでに後任も決まっているのでそうはいきません。

ちょっとカッコをつけたばかりに、望まれて定年後も働き続けるという貴重なチャンスを失ってしまったのです。Nさんはこの後、その喪失がどれほど大きなものだったかを、さらに身に沁みて感じるようになったといいます。

定年後の仕事の話が自社内であったら、迷わず受け入れる素直さを持つこと。たとえ嘱託や長期パート扱いでも、定年後も会社に残るのは「カッコ悪い」ことではなく、それだけあなたが今も必要とされる人材という証拠ではないですか?

自分の職場から引き続き「求められる人材」であることに、もっと大きな誇りを持っていいと思うのです。

 

「そんな安い月給」 それでも長く働き続けられるのが一番

定年を迎えた団塊世代に共通する問題意識の一つに、「景況感の欠如」があるそうです。

戦後の高度成長期を牽引し、バブル経済の恩恵にもあずかってきた世代なので現在の労働市場の厳しさを受け入れにくい「心理的なバリア」があるのです。

もちろん頭の中ではわかっているのですが、いざ、定年後の自分にあてはめようとすると、

「前はこんなにひどくはなかった!」

と、現実とのギャップを受け入れにくいのですね。

社員教育のプロフェッショナルだった男性がいます。途中で「脱サラ」を試みた期間があるので厚生年金を満額受け取ることができず、年金だけでは夫婦二人の生活が厳しいといいます。

そのうえ、住まいは今も賃貸です。いわゆる住宅取得年齢のころには、住宅ローンの貸付条件が現在とは大違い。ある程度の頭金があり、世間に名が知れた企業に勤務しているか、安定した公務員などでなければ、住宅ローンが認可されない時代だったのです。

そうした事情から、定年後もどうしても仕事をしたいのですが......。いくつか仕事の話はあるのですが、どれも気に入りません。なかには月給十数万円ほど、手取りにすると10万円そこそこという話もあり、「バカにするな」と怒りを抑えられないくらいだったといいます。

定年後の雇用を促進する「高齢者雇用安定法」が施行されても、ある年齢を過ぎると、給料はガクンと落ちるのが現実です。それを怒る前に、そうした社会の相場をまず知る必要があるのではないかと思います。

「スズメの涙の給与のために、我慢して仕事をしたくない......」と言いたくなる気持ちもわかります。報酬はその仕事の対価というだけでなく、「自分の評価」という側面を持っているものです。あまりに低い報酬では、自分をバカにされたような気になる場合もあるでしょう。

でもその気持ちをなだめて、もう一歩考えを進めてみてはいかがでしょうか。

給与が半減するかわりに、時間的・精神的にも拘束が減る、求められる責任も軽くなる......。パワーダウンした定年後はこれまでより荷を軽くし、無理のない働き方を選んで、「できるだけ長く続けられる」ことを第一の目標にする。

目先の給与の額で仕事を蹴ってしまうより、そうした思慮深い選択のほうが、第二の人生の幸せな働き方といえるのではないでしょうか?

ちなみに、定年後も「ある程度の収入」があると年金を満額受け取れなくなることも知っておきましょう。

これから制度が大きく変わることもありますし、ネット検索で「在職老齢年金シミュレーション」などを見つけて試算してみるか、詳しくはお近くの年金相談センターで確かめてみることをおすすめします。

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